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精彩乱舞のストラグル・スター  作者: 神代零児
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第一幕 『男』と出逢って静かに、はしゃぐ

神代は【賢いお姉さん属性】を持つ女性キャラが好物です。


【賢いお姉さん属性】を持つ女性キャラが好きな読者さんは僕と握手。


そうでなかった方には、この小説で新たな好きな気持ちを開拓して貰えれば良いな、の気持ちで臨みます(キラッ☆)

 微かに雷鳴のような音を、彼女の耳が感知した。


 走る陸鳥(アクバル)の背に、優雅な横向きの姿勢で腰掛けるネイラッハ・クリュスの、その瞳が見開かれる。


「空を、蹴ってる?」


 まだ遠い位置とはいえ、彼女は大型イミュイグ【ブレイマー】を、しっかりと視認出来る距離まで近付いていた。


 奴の巨体に比べれば、大人の人間であろうとも、まるで小人(こびと)のようである。


 上半身は膨張した筋肉で覆われた、人の形。四本腕。


 そして、球体状をした腰部のその下には、前にも後ろにも張り出した、計四本の、節足動物のそれに似た構造の、脚。


 大地を力強く踏み締めるブレイマーが、その四本の腕を凄まじい長さに伸ばし、(むち)のように振るい、空を、縦横無尽に切り裂かんとしているようだった。


 だが、ネイラッハは今、奴の脅威については一欠片(ひとかけら)も気にはしていない。


 ブレイマーのその攻撃を、空中で縦横無尽に掻い潜る、右サイドに赤のメッシュが混じった黒髪の人間の男をこそ、意識の中心に捉えていたのである。


 ネイラッハが雷鳴かと思った音は、男が手に持つマスケット銃が、奴へと弾丸を射出する際に響き渡るものだった。


(翼も無しで、足で蹴るみたいなやり方で空を、駆けてる?)


 およそ滅茶苦茶な挙動だと、彼女はそう認識する。


 男は度々、まるで其処(そこ)に足場があるかのようにして虚空を踏んで、それを基軸に角度を付けるような軌道で、跳んだ。


 ブレイマーは、空を動き回る彼を狙い、四本の鞭腕を振り回しているが、しかし、それぞれの指に当たる部分を更に枝別(えだわか)れさせ手数を増やしても、それでも彼はその間をすり抜ける動きで、躱し続けている。


 奴の攻撃の隙を付き、片手にマスケット銃を構えて弾丸を放っていた。あちこち動き回りながらの射撃故に、射線がズレてしまっていても、構わずに。


 撃つ時の体勢が、常軌を逸している。相当な速度で跳びながら、次の軌道へと移り変わるべく空を蹴るそのタイミングで同時に撃っているのだが、その際、身体に尋常では無い制動の重圧が掛かるその中で、少しでも姿勢を安定させる為、軸足とは逆の脚や銃を持たない方の腕の肘膝(ひじひざ)を、馬鹿みたいな角度に曲げて重圧を堪える力と変えていた。


 かつ銃を構える腕は、狙いを付けるも()()()()()()()()、ただただ()()と前へと伸ばす挙動で、その引き金を躊躇(ちゅうちょ)無く引いていく。


 撃った際の衝撃で、肩が砕ける筈なのである。しかし彼はそうならず、もう何発も撃ち続けている。


 ネイラッハの視線の先の、その男は、視界に彼女の存在を認めながら、狙い通りに弾丸が飛ばない事を、しかし気にしてはいなかった。


 ブレイマーの体躯がデカ過ぎて、多少照準がブレたとしても、その身体の何処かには当たって深く食い込むからである。


 この戦い方を見たネイラッハは、逆に、笑った。ここまで動的(ダイナミック)に空間を使う彼に、伽羅人としての、()えの良さを見出すのだ。


 ……出来(デキ)伽羅人(カラト)は、往々(おうおう)にして視野が広い。そして、自身の思考を複数に分け、それらを同時に走らせる(すべ)にも長ける。


「流石に、しぶといなッ」


 男は突然、そう叫んだ。空を蹴りながら声を出したから、所々で(いき)むような発音になった。しかし男はその荒い口調を、まるで素の自分と地続きであるみたいに、自然なものとしていた。


 彼は、ネイラッハへと投げ掛けるつもりで、その言葉を吐いていた。


 こんな所にわざわざやってくるのだから、あの女もきっと伽羅人なのだろう。――そう予測を立てて、その場の判断で、この戦いの輪に彼女を入れたのである。


(成程、ね……)


 ネイラッハは彼の意図を、直感的に理解した。


「ネイラッハ・クリュスって()うわ! 貴方は?」


 ブレイマーから一定の距離を取る為、奴の周辺をぐるりと回る軌道に陸鳥を走らせ、名を尋ねる。


「―― 珠那ヶ原(しゅながはら)魅是琉(みぜる)ッ!」


 こちらの名前に微かに反応を示しつつも、振り返らずに答えた彼に、ネイラッハは、ふと笑った。


(他者への気の回し方と、あくまで自分の活動には手を抜かない姿勢。その状況で、乱入者の私に対しこれが出来る、か。)


 少なくとも、この時点で半端な男なんかじゃない。


 身長は、こちらよりも高そうだった。赤のメッシュを入れているが、しかし軽薄な(チャラついた)感じはしなかった。


 きっと、こちらよりも少し年下だろう。精悍な顔つきだけど、何処か必死な子供じみた瞳であったから、そう感じた。


 その子供じみた真っ直ぐな瞳が、大型イミュイグ【ブレイマー】への闘志で、烈火の如く燃えている。


 外套(オーバーコート)を風になびかせて、その掛かる重量さえ物ともしない体幹の強さ。


 軽やかとは言えない。彼の動作には、地に足が付いているみたいな、ズシリとくる質感が付き纏っている。


 子供の無軌道さか、歴戦の佇まいか。どちらとも取れる、彼への印象。


 ネイラッハは、答えを出さなければ対処に困る等という安直な考えは持たず、シンプルに、又は、彼女自身の『欲張りな自分』への信頼感から。


 彼――魅是琉の事を、その両方を持ち合わせた男なのだろうと、そう理解し受け止めた。


 彼を只の男とは違っていると見抜き、その事実を受け入れて、心と体が若干の熱を帯びた事を自覚し、そしてそれを嫌がらなかった。


(つば)つけとこうかな。他の雷冥(らいみょう)伽羅人達には、びっくりされそうだけど)


「……どうどう」


 陸鳥の頭をさすりながら、制止の言葉を口にする。


『止まって』と言うよりも、『どうどう』の方が、ネイラッハとしては気分が上がる。乗用動物に対しては、友達意識よりも上下関係で(のぞ)む自分で在るのだ。


 その上がった気分に更に勢いを乗せて、彼女は外套(オーバーコート)を取り払い宙に舞わせる。


 外套が無くなって露わになる彼女の衣装。


 長く、しなやかな脚を包む革製のレギンスに、首部分を覆うタイプの、しかし背中と肩部分は()()()()になっている、袖無し(ノースリーブ)服。


 膝丈の、上質な生地で編まれた腰巻きに、二の腕から下にはデタッチド・スリーブ(分離した袖)を着けている。


誘いの翼(インバイト・ウイング)


 主の命令に従い速度を落とす陸鳥の上で、ネイラッハは自らの背中に白灰色の翼を出現させて、空高く飛翔した。


 ブレイマーは背後に彼女の気配を察し、伸びる一本の鞭腕を、槍の如き直線の動きで狙った。


 枝別れはさせていない。だがその分、力が一つに集約した槍は、速度を増す。


 ネイラッハはその槍の鞭腕に、迷い無く頭から突っ込む角度で挑む。相手の軌道を読み、寸での所まで引きつけて、速度を殺さぬ横に流れるような軌道で、回避する。


 そしてそのまま、魅是琉の傍で滞空した。


「うお! 凄いな、その羽!」


 無思慮な様子で驚いてみせる魅是琉。


 身長、百七十四センチ。齢、二十一。


 彼のその屈託の無い感じに、彼女は若干の芝居臭さを感じ取りつつも、しかし悪い気にはならなかった。


(リアクション、取れるのね――。意図して、コミュニケーションがし易くなるよう気を回してる)


 伽羅人同士ならば、相手が異能を出す事自体は、当たり前の事だと認識しているが、しかし魅是琉は、その異能の裏を勘繰(かんぐ)らずにいた訳である。


 ネイラッハは答えはせず、ただ、彼に肯定的な微笑みを向ける。


「共同戦線、良いかしら? 私も奴を倒す予定だったのよ」


 空を駆ける男と空を翔ける女の、突発的共闘(コラボ)が生まれる瞬間だった。


 ――第一幕 完――

基本的に伽羅人は、自己の表現をこそ()としている人達です。


誰かの事を(方向性は様々に)気に入れば、その気持ちは素直に大事にします。中には『ガチ恋上等!』と、恋に熱く燃えるタイプの伽羅人も存在する位なんですよ。


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