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精彩乱舞のストラグル・スター  作者: 神代零児
1/8

序幕 余裕の女、ネイラッハ・クリュス

作者の神代零児(かみしろ・れいじ)です!


今作は男女ペアによる相棒(バディ)物、ディストピア系アクション・アドベンチャー物語となります。


神代にとって初となる、荒廃した日本が舞台となるディストピア・ジャンル。


そこに或る現代要素を、原形がギリ残る塩梅で混ぜ込んでみました。


分かる人には何の要素なのか分かるかもしれません。


ただこの先その原形元に寄せる意図はありませんので、あくまでエッセンスの一つとしてお楽しみ下さいませ!

 風荒(かぜすさ)ぶ荒野。走る一羽の陸鳥(アクパル)の、その背に横向きで腰掛ける女が、気分良さげに歌っていた。


(あっちもー、こっちもー、イミュイグだらーけー)


 伸びやかに、美しくも凛とした声質は、彼女の麗しくも力強い外見と非常に合致(マッチ)する。


悪者(わるもの)ー、イミュイグー、私が(ころ)ーすー)


 歌詞の内容だけが物騒千万(ぶっそうせんばん)。しかし風になびく銀色の長い髪には、美麗絢爛(びれいけんらん)の言葉が相応しい。


(ああ、何故何故ー、イミュイグは出て来るのー)


 この日本という国が文明的な意味で一度滅びて、既に十の年を数度経ているが……。


(そんなの、知らんー、(わたし)ぃがー皆殺(みなごろ)しー)


 今この地に住まう人々は、元気である。彼女を含む伽羅人(カラト)と呼ばれる者達は、尚の事元気である。


「……作詞ネイラッハ・クリュスで『皆殺しの歌』、かっこかり。うん、流行る確率三十七パーセントってトコかな」


 歌い終わった彼女――ネイラッハは自身の歌をそう評価した。


 外国人の名前のようだが、彼女はれっきとした日本人だ。混血(ハーフ)という訳でも無いし、髪も染めて銀色にしたのではない。


 数年前伽羅人(カラト)になった時から、彼女はそういう個性となったのだ。


「ん――」


 水筒に入れた(ほう)じ茶を口に含む。歌って戦える伽羅人として、渇きで喉を痛めないよう注意を怠らない。


 荒野の旅に適した衣装、その上に厚手の外套(オーバーコート)を纏う。


 身長、百七十センチ。一人旅であるにも関わらず、心に溢れているのは余裕の気持ち。


 前方から、陸鳥より一回りは大きい体躯をした、猿のような姿のイミュイグが迫って来ていた。


 本物の猿と明らかに違うのは、頭部。違うというより、無いと形容した方がまだ意味が通じ易いか。


 正確には首ごと体内に埋もれていて、微かに目だと分かる赤い二つの斑点と、無理矢理こじ付けたみたいな大きな口だけが、(ヤツ)の顔を形成していたのであった。


 異形だが、イミュイグとは大体はそうしたものだ。種類があり、同じ種類のイミュイグ同士は、外見の型もほぼ同じ。


 奴等は、かつて日本が文明的に崩壊した時に発生した存在。スクラップ・アンド・ビルドという概念が、人の文化で無く、自然の大地から起こって生まれ出た、それがイミュイグである。


 奴等は人を襲う。何故かは分からないが、人と出会ったならとにかく襲い掛かってくる。


 が、人も既にイミュイグの存在自体は受け入れて久しい。出てくるというのなら、対処する気構えだって見せていた。


 あの猿型については【ガトゥバ】という呼称で知れ渡っている。


「見方次第では、割と可愛げも感じられるけれどね」


 ネイラッハは微かに顔を前に向ける仕草で、ガトゥバに対しそんなことを呟く。


 四つん這いの姿勢で、両手両足を地に着けて進んでくるガトゥバのスピードは、速い。


 腕が脚並みに長いから、そんな走り方が可能なのだ。前の二本と後ろの二本、それぞれを一組にして、前が地を突けば後ろを離し、後ろが地を突けば前を地面から離す。


 対するネイラッハは、呑気(のんき)


「えっちらおっちら、えっちらおっちら」


 奴の動作に合わせて()(おん)を取ったネイラッハは、軽く愉しい気分になってきて、つい「ふふ」と笑ってしまった。


 齢、二十三。この今の時代の中で二十三年の時を生きれば、仮に元がエキセントリックな少女だったとしても、自立した強く(たくま)しい大人へと成長を遂げ得る。


 今ここで()()()()()をガトゥバに見出す、このネイラッハ・クリュスは。


 相当、自立した女だということだ。


「ギシャアアアッ!!」


 ガトゥバが勢い付けて飛び掛かる。


 その長い左腕を振り被り、彼女の首筋に狙いを定めて叩き込もうとする。


 しかしそれでもネイラッハは冷静で、大人の余裕を崩しはしない。


 彼女の中の、勝てるという算段――。


秘密の鋭牙(ヒドゥン・バイト)


 刹那、ネイラッハの右掌(みぎてのひら)から巨大な【白灰色(しろばいいろ)をした獣の口】が生じて、その鋭い牙がガトゥバの胴を、猛威と呼ぶべき力で骨ごと噛み砕いた。


 耳を()()()()ような苦悶の咆哮(ほうこう)。白灰獣の口内に、奴の血が(したた)っていく。


 ネイラッハには、肉が牙に食い込んでいる感触こそあるが、味覚については、白灰獣のそれと通じてはいなかった。


 しかし彼女は呻くガトゥバの顔を平然と見ながら、自分から想像をするのである。


 ――雷冥檎渧(らいみょうごてい)の神さまから貰ったこの霊威の口の味覚には、きっと合う味なんだろうな。獣をモデルにしてるんだから、生で食べるのが寧ろ標準(デフォ)だろうし。独特の臭みが鼻の中に抜けるも、コリコリと弾力ある食感と相まって、気付けばクセになっている……的な? 多分、そんな味合いなんでしょ?


 そうしたイメージを、心の中でしっかりと定着させると、ガトゥバの胴を白灰獣に食い千切らせて、残りは慣性に任せ宙へと舞わせた。


 ガトゥバの事は元より、自分の行動にさえ怖気付(おじけづ)いたりはしない。


 白灰獣の口を掌に還し、彼女は――また一つ良い経験をした、何処かで誰かにこの話をしよう――と、自身の話のタネにする。


 ()()()はきっと違っていたのだろうが、その()()()に比べて、今は娯楽探しに難儀(なんぎ)する場合も出てくる世の中だ。


 語れる話、聞ける話が有る事は、それ自体が人々にとって、()()()()()が和らぐ事なのである。


 話のタネがバラエティに富んでいるなら、それは上々。ネイラッハは話のタネを大事と考えていた。


 ずっと変わらず走り続ける陸鳥。ネイラッハは、その後頭部を優しく撫でる。


「臆せずに自分の役目を果たすの、偉いね。ありがとう」


 声色も、優しく。


 ……ネイラッハは想像力に優れている。発想力、とも言い換えられる。


 それは彼女の人生から退屈を押しのけさせる力だ。退屈を押しのけさせられるというのは、尋常ならざる、輝きの源泉だと言って良い。


 発想が豊かであり、『起こった物事をしっかりと楽しむ』という視点で、その瞳に映る世界を自らで(いろど)っていくのだ。


 軽やかに、力強く。


 伽羅人とは、現代の日本に現れた新たな神々に、その発想力を愛され、霊力を与えられた者の総称だ。霊力の性質は、その者自身の発想に依って形作られる。


 それを可能と出来る創造的な感性を活かし、伽羅人はどんな状況でも、自分なりの思考で活路を見出し表現する。


 ネイラッハ・クリュスはその中でも、頭ひとつ()()()()女だ。人は彼女を、伽羅人派閥の最王手、雷冥衆(らいみょうしゅう)が誇るトップスターだと評している。


 彼女の本名は別にある。繰り返しになるが、彼女はれっきとした日本人である。


 伽羅人は伽羅人になる際、神の啓示に依って新たな名を(いただ)くのが(なら)わし。


 彼女は、その時に貰ったネイラッハの名で、自身の伽羅人活動を行なっている。


 名とはその者の人生が被る(かんむり)だ……とは、最初期の伽羅人が、自身の信徒に向けて言った言葉だが。


 伽羅人はそれまでの自身の人生と同じ位、伽羅人としての名とその人生に、誇りを抱いているのであった。


 ネイラッハは、今回の旅の目的を思い返す。


「私が自分の活動予定に組み込んでいた、大型イミュイグ【ブレイマー】討伐。それを伽羅人派閥に属してもいない個人勢が、一人で先に倒そうとしてる」


 その者の名についても、彼女が所属する雷冥衆(らいみょうしゅう)の、組織としての運営を担う雷冥神官達から聞いている。


珠那ヶ原魅是琉(しゅながはら・みぜる)、か。……私と対峙(コラボ)をして、ケガしてしまわない程度の伽羅人なら良いけど」


 ここで言う『ケガ』とは物理的な事では無く、ネイラッハの発想力に圧倒されて、自身はロクな立ち回りも出来ずに泣いて帰る事であるが――。


 しかし。


 彼女がこれから経験する出逢いは、彼女の伽羅人人生の中でも類を見ない程の希少事象きしょうじしょうなのだった。


 ――序幕 完――

次回、もう一人の主人公が登場です!


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