オイラは幼女大好きヘンタイ聖剣! キモイと罵られようがソフィーちゃんがかわいいならそれでOKっす!!
先代の勇者がじじいになった時に、よく口にするようになった言葉がある。
「……幼女ってええなあ」
本気でキモイと思った。
こいつが魔王と数々の死闘を繰り広げた勇者でなければ、間違いなく処刑されていると思う。
いや、社会は許してくれても、オイラだけは一思いにやった方が……
「ちょ、ちょっと待って! 誤解だから!」
「誤解も何も無いっす! この変態老いぼれ勇者め!」
「ちがう、ちがうから! だから、人の家でギ○スラッシュを放とうとしないで!」
オイラは代々勇者と共に戦う、"伝説の聖剣"と呼ばれる類のもの。
この世に悪があるならば、滅ぼすのが生まれた時からの定めだ。
そして、目の前で強大な悪が誕生しようとしている。
これを見過ごす訳には行かない。
「ほんとに良くないから! その攻撃、魔王すらも打ち砕いちゃうやつだからね?」
「うるせえ! オイラは今、強大な悪を滅ぼすところっす」
……なんてのが、先代勇者との余生のやり取りだった。
一応、彼の面目のために言っておくと、彼が言っている「幼女」とは、可愛い可愛い孫たちのことだ。
3歳のシェリーと、4歳のアシュリー、5歳のジュリアとメアリー……それから男他の子達が4人ほど。
子沢山だった先代には、その分だけ孫たちも沢山いた。
みんな先代のことが大好きで、魔王と戦った話を毎日のように聞きに来ていた。
「じいじ、今日は何の話をしてくれるのー!」
「そうだね。それじゃあ今日は、じいじが魔王幹部のバラモスと戦った話でもしてあげようかな」
「やったー! あたし、その話すき!」
幼い孫たちに囲まれてゆっくりお話するじじいの姿は、穏やかな余生そのものだった。
激動の半生を生きてきた勇者だからこそ、あの時間はきっとじじいにとってのご褒美だったのだろう。
「幼女ってええなあ」
「やっぱり、ここで一思いに……」
「いつかお前さんにもわかる日が来るさ」
じじいはいつもそう言って、そして最後には安らかに眠っていった。
最後は孫たちに囲まれながらゆっくりとその人生に幕を終えた。
安らかに見えたその笑顔がいやらしく見えたのはきっとオイラだけなんだろう。
少なくとも、あの変態発言が家族全員に聞かれてないのだけが救いだったと思う。
何はともあれ、先代は良い奴だった。
そんな先代と過ごしてしまったせいだろう。
数十年の時を経て、オイラの心の中にある思いが芽生え始めた。
「ああ、幼女と暮らしたい」
我ながら、名案だった。
今代の勇者があまりにうんちだったということもある。
クソみたいな勇者の周りにはクソみたいな女が集まって、夜通し遊び三昧。
明らかに玉の輿目当てで擦り寄ってくる女どもに癒しなんてなかった。
それにまんまと乗ってる勇者も大概なんだが。
「幼女ってええなあ」
いつしか、じじいの口癖が空耳のようにきこえるようになった。
今代の勇者は、オイラの声なんて聞こうとしていなかったから、話し相手のいないオイラにじじいは何度も囁きかけてきた。
幼女こそ至高。
幼女こそ正義。
幼女は全てを解決する。
じじいの思いは時代を超えて共鳴し、オイラの心を掻き立てた。
正直、世界を救うとかどうでも良くなっていた。
疲れたし。
こんなくそ勇者と過ごすくらいなら、幼女と田舎でのんびり暮らしたかった。
キモイ?
誰だそんなこと言ったやつ。ギ○スラッシュ放つぞ。
オイラの思いはジワジワと広がり、そしていつしか運命をも動かす力を得た。
想いははくそ勇者を動かし、鍛冶屋を怒らせ、そして火の神までもを激怒させた。
そして、オイラを幼女の元へと導いてくれた。
なんやかんやあった。
けど、その辺はあれだ。
なんか別の話に書いてあった気がするっす。
じじいも言っている。
「幼女の前では細かいことなど無用!」と。
そう、幼女こそ至高。
幼女は全てを解決してくれる。
そんなこんなで、おいらは晴れて聖剣としての使命を終えて、小さなキーホルダーに姿を変えた。
そして、ひとりの女の子のもとへと渡って行った……
「……というわけで、オイラとソフィーちゃんは出会ったというわけっす! どうっすか、運命感じるっすよね!」
「なにいってるの? ヘンタイさん?」
「変態なんて、相変わらずひどいっす!」
「キモーイ」
こちら、オイラに罵声を浴びせているのが新しい持ち主のソフィーちゃん。
5歳。
名前の通り、天使のような顔立ちの光り輝く幼女である。
そんなソフィーちゃんにオイラは……紐で括り付けられながら地面を引き摺られている。
その姿は、雑に首輪を付けられたワンちゃんというところだ。
「ちょっとソフィーちゃん! なんかこの道小石がいっぱいあって痛いっす!」
「わかんない」
「ほら見て! 小石にあたってさっきから何回もジャンプしたりしてるっす! これは緊急事態っすよ。ソフィーちゃんがちゃんとオイラのことを握りしめてくれないと……」
「ヤダ。」
ソフィーちゃんの冷ややかな視線がする降り注ぐ。
どうしてこうなったのか。
断じて言えることは、オイラは悪くないということ。
オイラはただ、じじいが孫たちに振舞っていた態度を見本にしていただけだ。
だから悪いのは全部じじいだ。
初めてソフィーちゃんの家にやってきた時だってそうだった。
「これが勇者さまの剣から作られたキーホルダーなのね! すごい!」
目をきらきらさせながら、オイラのことを見てくれるソフィーちゃん。
そんなソフィーちゃんが可愛すぎて、ついオイラもじじいの口調を真似して喋りかけてしまった。
「ぐへへ、そうだよソフィーちゃん。オイラが勇者の剣さんだよ~。一緒に遊ぼうよ~」
「ぎゃあ?!」
ソフィーちゃんの口から出た黄色い悲鳴。
じじいが孫たちに抱きつきに言った時と同じような悲鳴が出ていた。
じゃれあっている孫たちは声を上げながらも、いつも楽しそうだった。
この感覚はオイラも見てきたので、ハッキリわかる。
掴みは上々っす。
キーホルダーがいきなり喋ったことで、ソフィーちゃんも驚いていたみたいだけど、すぐに仲良くなってくれるはずだ。
これに勢い付いたオイラは、ことある事にじじいの真似をしてソフィーちゃんに喋りかけた。
「ぐへへ^q^ ソフィーちゃん。オイラも一緒にお布団入れてよ~」
「ぎゃあ?!」
「ぐへへ^q^ ソフィーちゃん。オイラにもごはんアーンさせてよ」
「ぎゃーーー!!」
「ぐへへ^q^ ソフィーちゃん。オイラと一緒にお風呂に入ろうよ~」
「近寄るな! このヘンタイ!!」
気がつけば、オイラは「ヘンタイ」呼ばわりされる悲しいキーホルダーに成り下がっていた。
最初は可愛く洋服につけてくれていたのに、今では紐に括り付けられて地面に引き摺られている始末。
じじいもお馬さんごっこはしてたけど、こんな扱いはされていなかった。
なんだ?
何が違うんだ?
しかし、ひとつ確かに言えることがあった。
ソフィーちゃんに「ヘンタイ」と言われるのは、別に嫌じゃないのだ。
なんならご褒美なんじゃないかとすら思っている。
ソフィーちゃんはかわいい。
今、こうして地面を引き摺ってくるのも、冷ややかな目で見下してくるのも全部かわいい。
なんかいろいろ言われているけど、おいらとしてはソフィーちゃんがかわいいからそれでオッケーっす!
「なんでじっと見てるのよ」
「いや、ソフィーちゃんはかわいいなぁと思って」
「……ヘンタイ」
今日もソフィーちゃんのご褒美をもらいながら一日を過ごす。
心はそれだけで晴れやかだった。
じじいの所の孫たちと比べてみても、ソフィーちゃんはなかなかに気が強い。
年上の男の子たちに対しても果敢に食ってかかることもある。
それでいて、お母さんの作るご飯が大好きでいつも口いっぱいに頬張って美味しそうにご飯を食べる。
大好きなお母さんのご飯を美味しく食べるために、元気に外で遊び回ってお腹を空かせるのがソフィーちゃんの大事な仕事だ。
「今日のごはん何かな?」
「お魚のフライって言ってたっす」
「ええ、あたしおさかな苦手」
「でもソフィーちゃんが食べれるようにおいしくするって言ってたっすよ」
「……じゃあ食べる」
お母さんの話をする時だけは少しだけ口調が優しいソフィーちゃん。
だからオイラもお母さんからの情報収集はかかせない。
そんな元気いっぱいなソフィーちゃん。
でも、だからこそ、少しだけ心配なこともある。
「おいソフィー。今日もそのキーホルダーを連れ回してるのか」
「ちょっと俺らにも触らせてくれよ」
「なによ、あんたたち」
不敬にもソフィーちゃんに絡んでくる年上の野郎ども。
歳はみんな8歳とか10歳くらいだろうか。
ソフィーちゃんが聖剣のキーホルダーであるオイラを手に入れたと分かってから、絡んでくるようになったクソ野郎たちだ。
こいつら、マジ、ソフィーちゃんがどんなお方なのか、分からせてやろうか?
「聞いたぞ。勇者の剣から出来たキーホルダーなんだってな!」
「だからなによ」
「そんなふうにひでえ扱いさせられて、聖剣様もかわいそ〜」
「ほら、みてみろよ。聖剣様だって泣いてるぜ」
ふざけんな。
勝手にオイラの気持ちを語るんじゃねえ。
オイラは確かにソフィーちゃんから厳しい扱いを受けることはあるけど、これは全て愛の証。
ソフィーちゃんが尊くて泣くことはあるけど、悲しくて泣いたことは1度もない。
まあたしかに、
オイラそう言えば伝説の聖剣だったんだよな、って思う時はあるけど。
でも、ソフィーちゃんが可愛いから全て解決してるのだ。
それをわかったような口利きやがって。
「泣いてないわよ。ヘンタイだもの」
「勝手なこと言うなよ! 聖剣様をお前が独り占めするんじゃねえよ!」
「そうだよ。どこにも冒険なんて行かないくせに!」
「そうだそうだ! そのキーホルダーは、ソフィーが持ってるより俺たちが持ってる方が絶対に役に立つんだ!!」
3人で寄ってたかってソフィーちゃんを攻める野郎ども。
野郎、マジで人の心あるのか?
地獄の雷を今ここに降り注いでやろか?
「お前だってそんなキーホルダー持ってたって嬉しくないだろ?」
「そうだよ。いつもヘンタイヘンタイ呼んで嫌がってるくせに」
「嫌々持ってるなら、さっさと俺たちによこせ!!」
「いやじゃないもん」
「意地はるなよ。嘘つき!」
ソフィーちゃんも少し涙声になってきている。
これはあまりにもかわいそうだ。
でもそっか……
オイラが一緒に居ると、そういう風に見てくる奴らもいる。
(オイラと一緒にいない方がソフィーちゃんは……)
ソフィーちゃんの手から紐を引き離そうとする野郎ども。
そんな野郎共の手をソフィーちゃんは必死に引き離そうとした。
「嫌じゃ……」
そして、手を剣のように左から右に大きく振り払おうとする。
あの構えはよく知っている。
先代が1番に愛用していて、魔王すらもうち砕こうとした奥義。
確かに今は剣はない。
でも、オイラのおかげで勇者の加護が乗っているソフィーちゃんなら……
「ないもん!!!!」
ソフィーちゃんの必死の掛け声とともに、手から放たれた一筋の光。
それは魔王すらも窮地に落とし込む伝説の奥義。
ーーギ○スラッシュ
「「「ふぎゃああああああああ!!」」」
「え?」
情けない悲鳴とともに野郎どもは吹っ飛んだ。
初めて放ったソフィーちゃんの必殺奥義。
まだ未熟だから、彼らを軽く吹き飛ばすくらいの威力しか出なかった。
本当は跡形もないくらいけちょんけちょんにしてやりたかったけどな。
「すごいっす、ソフィーちゃん! それは勇者の必殺技っす!」
「これ、あたしのなの?」
「そうっす!」
突然自分で放った攻撃にびっくりしているソフィーちゃん。
でも、怖がってる様子はなかった。
さすがソフィーちゃん。
やはり幼女は最強っす。
「ソフィー、お前一体何をしたんだ……」
野郎共が何とか起き上がっている。
でも、正直もう足がガクガクしている。
ソフィーちゃんに喧嘩を売るからだ。
「ふん! つぎはもっと強くやるよ!」
「や、やめてくれ〜」
「だったら明日からもうやめて!」
「わ、わかったよぉ」
ギ○スラッシュの威力を肌で感じた少年たちはこうして去っていった。
またひとつ悪が成敗された瞬間である。
これで当分はソフィーちゃんに絡んで来る輩もいなくなるだろう。
でも……
「ソフィーちゃん?」
「なによ?」
「オイラといるのが迷惑だったら、どこかに捨ててくれてもいいっすよ? その方がああいうやつに絡まれないし」
ソフィーちゃんは普通のかわいい女の子。
オイラが幼女と一緒にいたいからと言っても、それでソフィーちゃんの身に危険が迫ったら意味が無い。
お別れは寂しいけど、もう充分に癒しはもらえた。
オイラは満足っす。
「……やだ」
「え?」
「やだって言ってるの」
「でも、」
「だって……聖剣さんは、あたしと一緒に居たいんでしょ?」
まだ涙が残ってる瞳で、オイラに向かってニコッと微笑んでくれたソフィーちゃん。
この瞬間に、オイラのメーターは許容量を超えた。
「フニィアアアアアアアニャニョニャニャニャ!!!」
「え?え? ヘンタイさん?」
「だ、大丈夫っす。ちょっと悶えてるだけっす」
ああ、だめだ。
やっぱり幼女って最高だ。
この沼は恐ろしく深く、1度ハマれば決して抜け出すことは出来ない。
「オイラは一生ソフィーちゃんを守るっす」
「なによ、それ」
「まあ、任せてくれっす!!」
「……へんなの」
じじい、見てますか?
オイラは何とかうまくやってるっす。
先代の意思はオイラが受け継ぐっす。
この世界が滅びようとも、ソフィーちゃんだけは守り抜いてみせるっす。
お読みいただきありがとうございます!
何か言い残すことはありますか?
ーーごめんなさい。
前回書いたコメディに登場した、変態聖剣が書くのが楽しすぎてノリと勢いで書き進めました。
ソフィーちゃんが天使すぎてつらい。