会議
その日の夜。
今後の方針と、優崎家に優人のことを報告するために、関係者の部類はほとんど、優人の家に集まっていた。
「そうか。君達、彼女、ウェネトに会ったんだね……」
とは、霊人達の上司。金髪でスーツ姿のルシファーの言葉だ。
いつもなら、大人の余裕を感じさせながらも、時に茶目っ気があるルシファーも、状況が状況なだけあって、超真面目モードである。
なぜ、ここにルシファーがいるのかというと、ウェネトに、
「ま、見ず知らずの神に仮説を唱えられても、信憑性は低いだろうからにゃ。あたしの話の審議はルシファーにでも聞くといいに」
と、言われたからである。
ウェネトの言う通り道を普通に歩いていたとして人に、『私は医者だ! その私が断言しよう! 君は早く手術を受けた方がいい!』なんて言われても、信憑性に欠ける。
なので、その話すのの審議を確めるべく、ルシファーに連絡をとった霊人。
すると、話を聞くやすぐに、ルシファーは話は優人君の家族や、関係者の前でしよう! と、優人の家に駆けつけたのである。
因みに、この場に香菜はいない。
香菜は、あれから、そんなに時間を置かないうちに目をさました。のだが、優人か優人でないこと、ウェネトの考察を聞くと、何かを呟きながら、フラフラとした足取りで、どこかにいってしまった。
優人絶対主義の香菜のことだ。
相当、心に来たのだろう。今はそっとしておいておこう。それが霊人達の共通見解である。
そして、ウェネトとリアだが、あの二人もまたこの場にいない。
来るように一応頼んだものの、
「いやにゃ! せっかく、期限なしに自由に動かせる体になったのにゃ。旨いもんをたらふく食べるのにゃ!」
と、町に消えて行った。
任務を終え合流した、白夜と瑛士は菜乃花同様、重い沈黙に身を落としている。
これに対し、『裏』は相変わらず能天気に、優人の家族達は、緊張しながらも、どこか既に納得しているような、雰囲気で霊人の報告を聞いていた。
「で、どうなんだ? ルシファーさん、ウェネトは信用して良いのか?」
霊人が、ウェネトの仮説の裏を取る。別に信用していないわけではないが、掛け値なしに信用する気もない。それくらい、誠実さの反面、胡散臭い神なのだ。
この問いに、ルシファーは一度頷いたのちに、言葉を選ぶように答えた。
「信用して良いか悪いかで言うのなら、彼女は掛け値なしで信用してもいい神だよ。彼女のもたらす神の情報は、百パーセント真実だよ……」
「なんか含みのある言い方だな」
「まぁ、そうだね。彼女は中立。敵でも味方でもないから、無闇に接触は控えたほうが良いだろう」
中立というのは、どことどこの中立なのかは、聞かなかった。聞かずとも理解出来たからだ。霊管理委員会と、対立している組織は霊人の知る限り、一つしかない。
例の教団てある。霊人がこの場で言及しなかったのは、優人達家族。つまり一般人がいたからというのもある。
名前を知るだけで、危険が及びかねないそんな教団の話しを、無闇に一般人の前でするものではない。そんなことは、分かってはいるが、それでも、霊人はどうしても確認しておきたい事柄かあった。
「裏切ったりはしないのか?」
ルシファーが顎を指に乗せ答える。
「んー、裏切る裏切らないで言うと、彼女は間違いなく裏切らないよ。中立といっても、彼女の現状ではそうせざるを得ないと言うだけだしね」
「どういうことだ?」
「だってほら、彼女って一ヶ月に、一回しか本気を出せないんだよ? そんな彼女がこちら側に付くって言ったら、間違いなく、あちらさんに消されるじゃないか?」
「つまり、その逆もあり得ると、だからウェネトは中立という立場を取っていると言うわけか……」
霊人が、ルシファーの口にする情報を元に自分の推論を口にした。しかし、つぎの瞬間ルシファーの口から発せられるのは、肯定ではなく否定の言葉だった。
「いや、違う。彼女はどちらかと言えば、こちら側の神だからね。毎回無理難題な情報料も、こちら側の場合、返してくれるしね。あちらさんからぶんどった情報料も上乗せして、ね。でも、彼女は基本的に自由奔放だから、保護はされたくないっていう訳さ。あー、でも、今はちょっと不味くなったから、もうそろそろ保護を求めてくるかな?」
「リアが返り討ちにしたから?」
「そう」
と、頷くルシファーは、改めて言葉を続ける。
「にしても、こんなこと言うのは不躾かも知れないけど、君達は、運が良いね」
「ぁん?」
霊人がルシファーに殺気を飛ばす。
そんな一触即発の雰囲気を壊したのは、優人の父親である仁である。仁はこの場の誰よりも落ち着いていた。そう、ルシファーよりも、物事を俯瞰していた。
「運が良かったと言いますと?」
ルシファーはどうどうと、今にも噛みついて来そうな、霊人を手で制しながら答える。
「本当にすみません。ご子息がこんなことになっているにも、関わらず、何が運が良かったんだと思いますよね」
すみませんと、もう一度にわかに浮かべた自嘲の笑みと共に、謝罪をするルシファー。
「いいえ。私には知らないことが多すぎます。ルシファーさんの知識から見たら、今の状況はきっと幸運なことなのでしょう」
ルシファーは仁の言葉に、心底驚いたようで目を白黒させた。
無理もない。息子が息子じゃなくなってしまったのだ。これのどこが運が良いことかと、罵声の一つや二つを浴びせられる覚悟だった。しかし、仁は落ち着いて大人の対応を見せている。
これにルシファーの気持ちを再度引き締まらせる。
「ご子息、優人さんが、かけられた術は、我々、霊管理委員会が封印した禁断の術の一つです」
「禁断の術と聞くと、それまた物騒ですな」
「ええ、現に物騒です。禁断の術と言っても、使ったら術者の魂が汚染されるからや、術者の命が滅ぶから等と、様々な理由から、封印に至りました。中でも優人さんにかけられた術は、自信の魂と引き換えに他者をほぼ間違いなく、死に至らしめる術でして」
「「「!!」」」
そのルシファーの言葉を聞くや、菜乃花と瑛士は絶句。優人の弟と妹は、ようやくことの重大さを知り、泣き崩れ、優人の母、麗花は弟達をあやし、そして白夜は優人の妹、沙耶香に寄り添う。
意外だったのは、『裏』が弟の片方を請け負ったことだ。
霊人は気が動転して、今にもルシファーを殺そうともしていた。
が、その衝動を制したのは、またも仁の声だった。どうやら仁の声には不思議と、他者を冷静にさせる力があるらしい。
「ほぼ、と言うことは、例外もあるということですよね」
「ええ、その通りです。この術そのものでは死に至りません。ただ他者の魂をありとあらゆる世界のどこかに、飛ばすだけのものですから。簡単に言えば、転生物の呪い版と言っても過言ではありません」
「ほぅ? では、なぜ、死ぬのです?」
その仁の問いに答えようと、口を開きかけるルシファーだが、次の瞬間、とある人物の漏らした声により、それは止められる。
「あ……。私、わかっちゃったかも?」
「分かったってなにがだ? 菜乃花さん」
霊人の声に、菜乃花が、う、うん。あのね。と前置きをしたのちにおずおずと言葉を紡ぐ。
「私って、ほら。浮遊霊立ったことあるじゃない? あの時ね。たった二日間だけ、幽体離脱していただけで、体が重かったの。あとで気がついたんだけど、全身の筋力が衰えていたいたの。二日間であれなら……」
そこで、言葉を濁す菜乃花。その仮説に鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で固まる大罪達。
少しの沈黙。
ルシファーが、菜乃花の仮説に穏やかな首肯。
「ああ、そうだよ。菜乃花さんの想像通り、この術は、本来は世界のどこかに他者の魂を飛ばすというだけのもの。でも、飛ばされた後の人間の体は、次第に衰弱して行く。そして、最後には心臓が止まる。そんな副作用があるんだ。身体はね。魂がなければダメになるんだ。昔は持って一ヶ月。そして、延命措置が発達した現代では一年というところかな。その間にこの広い世界の中から、たった一つの魂を見つけるのは不可能。だから、ほぼ間違いなく死に至らしめる術なんだ」
「じゃ、じゃぁ……!」
霊人がある考えに至り、それを確認しようと口を開く。しかし、それより先に仁が喋りだしたので、霊人は押し黙る。
「では、『裏』くんが入っている優人の体に限っては、その時間制限はなくなる。ということでよろしいですか?」
ルシファーの首肯。
「ええ、そうです。そして、優人さんの魂はどんなに時間が掛かろうが、絶対に我々が見つけ出して見せます!」
ルシファーの力強い宣言に、この場の誰もが、大小はあれど、希望を見いだした。