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除霊出来ないピュア系男子~Invisible Friends Intact Forever  作者: 石山 カイリ
悪魔の分岐点
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クロムクルアハ討伐

『なるほど。そう言うことでしたか……。なら、私が力を貸しましょう』

 確かにに白兎の、ウェネトはそう言ったのだ。

 しかし、今霊人達三人の目前にいるのは白兎じゃない。

 そこにいるのは、頭が白兎、体は浅黒い肌人間の体を持つ何かだった。


 いや、何かという曖昧な物体ではない。それは言うなれば神だ。女神だ。上空のクロムクルアハと比べたら、強さの程度がいくらか低い女神が、右手に左が上がりきった天秤を持った十メートル程の女神がそこに出現した。

「ま、まさかとは思ったが、本当にエジプトの女神、ウェネトだったとはな」


 霊人の苦笑。

「あ? おい。ウェネト! どういう事だ!」

 リアがウェネトに心底機嫌悪そうに問う。

 ウェネトはそんなリアをなだめる母親のように、優しい眼差しを差し延べながら言う。

『すみません、リア。時間制限がある私なんかより、ここで、全力を出し、あなたを本気を出さずに破った、そこの方の全力を開放したほうが、確実だと判断しました』


 リアが頭をかきむしりながら、あーわかったよ、と渋々承諾した後に、菜乃花に申し訳なさそうな顔で言う。

「あー、嬢ちゃん? 悪ぃが、たぶんウェネトは、その野郎に、全身全霊の一撃を叩き込むと思うんだわ。そうしたら、飛行能力とか、もろもろ使えなくなっちまう。いや、違うな。意識もなくなっちまうと思うんだわ。だから、ウェネトがもとの白兎に戻ったら、保護しといてくんね?」


『私からも頼みます』

 ウェネトも頭をペコリと下げ、菜乃花に頼み込む。

「わ、わかりました。だから顔を上げて下さい。ウェネト様」

 菜乃花は一応、霊人の口から、ウェネトが神様であるということが告げられているので、咄嗟に畏まった口調で、それを承諾。

 すると、ウェネトがゆっくりと頭を上げる。


『ありがとうございます。あなたは、私のような聞いた事もない神相手にも、敬意を払ってくれるのですね』

「へ!? い、いや、どんな神様相手にも不敬を働いたら、バチがあたるかな、と……」

 もごもごと口を動かす菜乃花。その姿をウェネトは気に入ったようで、上品に笑う。


『どうです? この弟子の変わりに、私の弟子になりませんか?』

「おい!?」「へ!?」

 菜乃花と、リアに怒声やら、驚声やらを浴びせられるウェネト。

『ふふ、冗談ですよ』

 上品に笑い続けるウェネトに、見限りを着けたのか、リアが振り返る。


「ケッ! おい! 俺ァ先に上へ行ってるぞ。お前も、ウェネトに一撃を叩き込んで貰ってから、さっさと上がってこいよ。ノロマ」

 そう、言い残した後に、上昇を開始。

 その背中を見ながらウェネトは、育て方間違えましたかねという、意味深な言葉をため息と共に吐き捨てると、霊人と菜乃花に改めて向き直る。


『さて、人間、霊人でしたか? いろいろ質問したそうですが、私がこの姿を、保っていられるのも、ほんの一時です。私があの可愛らしき姿に戻る前に、霊人に問います。あなたはこの()エジプトの守護神である私、ウェネトの全力の一撃を、受け止められるというのです?』


「なるほどな。お前も俺と同じで制限持ちていうわけか……。いいぜ、こっちも時間もないんだ。来いよ! 菜乃花さん危ないから下がっていてくれないか」

「わ、わかった……」

 菜乃花を下がるのを横目で確認し終えると、いつでもいいぜと、眼でウェネトに訴えかける。


『では、行きますよ!』

 ウェネトは。そのように前置きをすると、同時に右手に持つ天秤の右に傾き出す。

 それに連れ、雪のように白い、兎の頭がどす黒いモノへ、瞳も血を思わせる赤黒いモノへと変わっていく。


 更には、口元が裂け、肉食銃めいた、凶悪な歯が顕になり、最後に一対の剛健な黒翼が背中に生えたところで、天秤の右が上がりきる。

 と、ノイズが混じったかのようなしゃがれた声。

『我ノ、渾身の一撃をくらうが良イ』


 口をガバッと開き、エネルギーを白と黒の螺旋が蠢く球体に溜めて行く。

 僅か一秒後、直径三メートル大にまで膨らませたソレの膨張が止まる。

 来る!

 霊人がそう確信し、力を込めた半秒後。


『条件を満たしましたので、『怠惰』の制限は全て解除します』

 例の如く機械的な音声が脳内に響いた。その刹那。気色悪い球体から光速の光線が霊人に着弾。

 凄まじい爆発が起こる。

「霊人くーーん!!」


 菜乃花はたとえ、霊人が死なない体であることを知っていても、叫ばずにはいられなかった。

 霊人のいた場所に白い煙が立ち込めて、彼の安否を確認出来ない。

 視覚はダメだ。


 菜乃花はすぐさま、視覚に見限りをつけ、目を閉じ耳を澄ます。

 ここより上空のクロムクルアハとの戦闘音が、ここまで響き渡り戦闘の苛烈さが聞くだけで分かる。

 その凄まじい戦闘音の中で、確かに菜乃花の耳は聞いた。

『ミ、ゴト……』


 と、いうノイズが混じったかのようなしゃがれた声を。

 ハッと目を開け、すぐさま目下落ちて行っている雪のような白く小さい塊を追う。

 この時、菜乃花の心に不安という感情は消えていた。

 確かにウェネトは元の姿へと戻る前に行ったのだ。「見事」と。それは相手を褒め称える言葉である。


 この場合、ウェネトが何に称賛を送ったのか。それは明白だ。自分の全身全霊の攻撃を破った霊人に送ったのだ。

 となれば、霊人は無事。

 そのように、菜乃花は思考を巡らせ――考え、信じ――、菜乃花は自分の責務を果たすべく、白煙のすぐ橫を効果を開始。


  * * *


 辺りは、白煙に包まれ、一寸先は闇ならぬ、一寸先は白煙。

「視界は最悪」

 結界を発動してダメージこそは免れたものの、衝突から生まれた轟音の影響を諸に受け、耳鳴りが酷く、周囲の音が一切聞こえない。


「耳の感度も絶不調と来た。避けても良かったんだがな、そうすると、地面に着弾しちまうからな……、角度的に。ったく、ウェネトも、もう少し計算して撃てよ。ま、文句を行ってもしゃぁねえか。俺が全力を出せるようにしてくれたんだ。聴覚のハンデは安いもんだし、さて、行くか……」


 霊人は、上昇を開始し、瞬く間に白煙から抜け出した。向かう先はもちろんクロムクルアハのところ。目的は、奪われた親友にして相棒を取り戻すため。

 その為に、霊人は突き進む。

「さぁ、無双の時間の始まりだ……!」


  * * *


『バカな、バカな、バカなァ…………!! この我が、高々人間二人に負けるだとォ! あってはならヌ。決してあってはならヌことでアる!』

「うるさい、黙れ駄蛇(だじゃ)

 香菜は、鎌で代表を切り裂くと、同時に、冷たく凶刃のような声で、クロムクルアハの精神をも切り裂く。


 その狂気にあてられた、高飛車だったリアも黙々と、クロムクルアハの体を切り刻んで行く。

『あり得ヌ、あり得ヌ!』

 狂ったように叫びながら、命の危機を感じたクロムクルアハは、身を反転し、一目散に逃げ出す。


 だが、皮肉なことにクロムクルアハの体はあまりにも巨体だった、巨体過ぎた。

 故に方向転換をする際、大きな隙が産まれるのは必然である。

 その隙をみすみす逃す二人ではなかった。

 リアの持つ白剣が、硬い鱗を剥がし、香菜の鎌が顕になった柔らかい肉を骨ごと断つ。


 体の三文の一とあえなくお別れすることになった、クロムクルアハは野太い悲鳴を上げる。

 しかし、そんなことはお構い無しに、逃げる速度を緩めなかった。むしろ、体が切断されたことで、軽くなり逃げ足が速くなった。


 * * *


 クロムクルアハは逃げる。逃げる。どす黒い血液を撒き散らしながら。

 逃げる、逃げる。背後に押し寄せる死から逃れようと。初めて感じた命の危機から。

 初めての敗走だ。


 とにかく逃げる。自分より遥かに強い者達から。体から次から次へと流れ出る呪いの血を撒き散らしながら。

 クロムクルアハは、逃げる。

 前方に小さな人が立っているのもお構い無しに。

 それが何者であるかも、できないくらい錯乱していた。


『そこを、退け! そこの人間。我は一億と二千年も生きたクロムクルアハなるぞ!』

「あー、いるんだわ。たまに、自分の生まれた時から、記憶を持っている勘違い野郎が、悪い。潔く死んでくれ」

 それが、クロムクルアハの耳に届いた最後の言葉である。


 は?

 何をされた?

 分からない。分からない。分からない。わからないわからないわからないわからないわからない。

 体が動かせない。視界が霞む。


 我は、死ぬのか。殺されるのか。

 しかし、ただでは、殺さねぬ。我を痛め付けたやつを呪ってや……。


 * * *


 クロムクルアハを一瞬で、討伐した霊人。

 あまりの怒りのあまり、自分が何をしたかも良く覚えていない。

 しかし、そんなことは、霊人には些細な事であった。

 討伐したあと、一瞬だけ彼の魂を保護する『アズの呪い』が解除された気がした。だが、そんな事も些細な事。


 今、霊人にとって、何より大事なこと、それは――――。

「クソッ! どこだ! どこにいる」

 クロムクルアハの肉体が、消滅していく中、霊人はクロムクルアハに呑み込まれてしまった優人を探していた。

 それは、香菜も例外ではなかった。


 リアだけは、戦いが終わるや、地上へと戻って行ってしまったが。

 そして、やっとの思いで見つけた。純粋無垢に安らかに眠っているクリーム色の髪をした少年、優人を。

 死んでいるわけではない。


 身体強化の術の一つである、視覚を強化する術を使って、霊人は優人を見た。すると、微かに呼吸で胸が動いているのが見えた。

 優人は、確かに寝ているのである。

 それが分かっただけで、霊人は胸がいっぱいになり、視界がぼやける。


「ったく……。人の気も知らないでよぉ……!」

 嗚咽混じりの声で、何とかそれだけを発言し、自由落下を開始している優人を迎えに行った。

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