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除霊出来ないピュア系男子~Invisible Friends Intact Forever  作者: 石山 カイリ
悪魔の分岐点
3/44

怠惰と暴食と他二人+αによるピュア奪還作戦

 菜乃花は学校の屋上で遥か数分前に黒い彗星が宇宙目掛けて、消えて行った方角を見つめていた。

 手には少女ステッキを握りしめ、優人と零人の無事を祈っていた。

 そんな少女のいたいけな祈りを嘲嗤うかのように、遥か上空から落ちてくる、何かが見える。


 その何かを菜乃花は目視こそ出来なかったが、菜乃花は直感で悟る。

「零人くん!!??」

 菜乃花はいても立ってもいられずにステッキに魔力を込める。

 そして、変身を開始。


  * * *


 同刻。

 暗雲立ち込める黒海、海上。

 異界の魔王と対峙している、死神の鎌を思わせる武器を持つ女子。

 栗色髪のポニーテール。前髪はシースルーにした可愛らしい見た目の中にクールさを兼ね備えたそんな風貌を持つ女子。


 七つの大罪、《怠惰》を冠した女子こと、西源寺香菜。

 優人の彼女でもあるこの香菜は、優人が好きすぎるあまり、とある特殊能力に目覚めていた。

 それは、優人の危機を感知する能力――能力と言っても、実際にはそんな能力は存在しなく、ほぼほぼ、彼女の第六感に近い――。


 そんな直感ともいえる能力で優人の危機を悟った香菜は、魔王、そっちのけに急いで優人のもとに行こうとした。

 だが、それを許さない魔王。

『どこへ行クつもりだ。大罪ヨ……』

 機械で出来た体の魔王が背中を見せた香菜に言葉をかけ終わったのと同時に、主砲を浴びせる。


 主砲が過ぎ去ったあと、そこにいたはずの香菜の姿は、どこにもなかった。

『フフフ……。大罪など、所詮、我ヲ前にしてはこノ程度よ……。バカめ。我ニ背中を見せたからコウなるのだ……』

 小気味よく笑う機械の魔王。次の瞬間、背後から死が聞こえて来て手を出したことを後悔する事となるとは知らずに……。


「そうね。本当にバカ」

「ハ……?」

 その声を認知した瞬間、魔王の体は鉄屑と化す。

 宙に舞う鉄屑を黒海に到達するより前に、怠惰の悪魔。白鯨のエイグが残さず平らげる。

 香菜はそれを見下しながら、冷徹な声。


「私を見逃していたらあなたは助かった。でも、それなのに、あなたは私の逆鱗に触れてしまった……。あなたって本当にバカ……」

 言い終わったのと同時に、鉄屑をたいらげたエイグを戻した香菜はテレポートを開始。



  * * *


 同刻。

 上葉町外れの森。

 一際高い木の上に寝ている全てを呑み込む黒髪で西欧風の顔立ちの男。

「ったくよ。あの零人とかっていうやついけ好かねぇ」


 その声に反応する呆れ、猫のような声で鳴く白兎。

『にゃぁ……』

「ケッ……! わぁてるよ。ウェネト。今上空にいやがる蛇をやつらと倒しゃいいんだろ? そうすりゃ、委員会っていうやつに入ることが出来るんだろ? 行くぞ!」


 落ちて来ている零人に向かって、まるでそこに階段があるかのように、空中を歩くように登って行った。

 その後を追うようにピョンピョンと、跳ねるように付いていく。

『ニャアア!!』


  * * *


 自由落下している零人。

 身体は大部分が回復したものの、いまだ動かせない。

 クソッ! もうすぐで体を動かせるようになるっていうのに、もう地上に着いちまう……!

 回復速度と落下速度から推測するに間に合わねぇ!

 そうなると一から再生になっちまう!!!


 クソッ! こっちは一刻も早く、喰われた優人を助けに行かねぇと行けねえのに……。

 誰か頼むから俺を受け止めてくれ!!

 そのような希望的観測に浸っていると、途端に零人の体が浮遊感に包まれる。


 半秒後。落下は完全に止まる。

 それとほぼ同時に、優しく包まれる感触。

 誰かが自分を受け止めてくれのだ。と理解する。その人物の服装はピンク色のフリフリ衣装の女性だった。

 そこまでを知覚した零人。


 同時に聞き慣れた清らかで清掃な声。

「零人くん! 零人くん!!? ねぇ、返事をしてよ!! 零人くんってば!!!!」

 それは菜乃花の声で、次第に嗚咽混じりになって行く。

 そんな菜乃花には申し訳ないが、回復を優先させる。


 零人が話せるようになったのは、この数分後のことだった。

 その間にもう一人と一匹が合流する。

「死んじゃやだよ!! ねぇ! 返事してよ……。零人くんってば……」

 泣きじゃくって、顔がしわくちゃになっている菜乃花。


 そんな菜乃花の心配を払うような猫の鳴き声。

『ニャア! ニャニャニャ』

 それは雪のように白い兎だった。

「う、さぎ……?」


 菜乃花が嗚咽しながら呟くと、白兎、ウェネトの飼い主であるリアが、気まずそうに首筋を手でさすりながら、ウェネトの言葉を翻訳する。

「あー、嬢ちゃん。安心しろ。ウェネトが言うには、そいつは死んでも死なねぇんだと」


「死んでも、死なない……? それってどういうこと……?」

 両手を顔の位置まで持ち上げ、肩をすくめ、ため息混じりに言うリア。

「さぁな……。詳しいことは俺にもわかんね。ただ、ウェネトが言うにはフェニックスの権威とやらで、そいつは心臓を貫かれようが、灰になろうが復活するんだとよ。ま、回復には時間が掛かるがなって、話しだ」


「それ、本当だよね!??」

 鬼気迫る菜乃花の問いに、リアは押し切られる形で答える。

「お、おう……。このウサギは一応神なんだぜ。神の言うことは信用出来るだろ」

 リアがいたずら少年のように微笑む。


 その微笑みに菜乃花は安心して、落ちつきを取り戻す。

「う、うん」

 それを知覚したリアはようやく本調子に戻る。

「に、しても情けねぇな。それでも男かよ。男なら女を泣かすんじゃねえよ。あーあ、情けねぇ」


「ちょっと! 他にもっと言い方っていうものがあるでしょ!」

「さてね。俺は思ったことをそのまま言っただけだ……」

 そう言いながら、リアは見えない階段を登っていくように、上昇を開始。

「ちょっと、どこへ行くっていうの!?」


 菜乃花の叫びにリアは立ち止まり、ため息をつくと同時に、顔だけ向き直る。

「どこって、決まってんだろ? ソイツの尻拭いだ」

「ッ!!」

 菜乃花はリアの失礼な物言いに腹を立てるも、怒りが頂点に達した人物はなかな言語化しようにも出来ないもので、黙っていると、リアが上空にいる七色に輝く蛇を見つめながら言う。


「アイツはほったらかしにしておいたら、マジでやべぇからな」

 呟くように言いきったリアは再び見えない階段を歩き、再度上昇を開始。

「最強の零人くんでも勝てなかったんだよ!? そんな、相手に君が勝てるわけ……」


「確かに俺一人じゃ厳しいかもな……」

 二、三歩上昇したリアは再び足を止める。

 そんなリアの柄でもない弱気な本音に、菜乃花は思わず声が漏れる。

「へ……? そ、それじゃあ……」

 菜乃花の動揺を取り払うようにリアは笑って見せる。


「はは……。心配すんな。上であの蛇と戦っているヤツが嫌がる。ソイツとの共闘するさ。

「上? 香菜さん……!」

 リアの言葉につられるように上を見上げた菜乃花は、そこで、ようやく上空で憤激し、攻撃を繰り広げている香菜を認識する。


「それに、こっちにはウェネトもいるからな。いざとなれば、力を解き放って……」

「あー、悪り。そのウェネト神の力を俺のために解き放ってくるないか……?」

 その声は唐突に聞こえてきた。


 刹那。殺気だつリアと、感涙する菜乃花。そして、それらを静かに見守るウェネト。

「ぁん?」 

 リアの低い声を合図にしたかのように、零人は菜乃花の体から起き上がる。

 同時に真剣な声。


「頼む。俺の奢りであいつに優人が喰われちまった。俺の失態だ。俺が優人を取り戻すために協力してくれ!」

 零人は腰を直角に折り曲げ、リアに頼み込んだ。

 目前で動いている零人を見ていると、安心して菜乃花は今すぐにでも、彼の胸に抱き付き、泣き出したかった。


 しかし、今はそれどころではない。と理性が働き、踏み止まっている。そんな菜乃花の心情を察知することなく、男二人はこんな言葉を交わしていた。

「ケッ! 嫌なこった。俺はお前に力を貸す義理はねぇよ」

「頼む、そこをなんとか!」


「第一、お前は最強なんだろ? だったら俺らの助け要らねぇんじゃねぇの?」

 リアの言及に、零人はバツが悪そうに答えた。

「それが、出来ねえんだ……」

「は? どういうことだよ?」


「俺は怠惰の制限で普段、霊力に制限を掛けられているんだ。そして、それは敵が強いほど解除されることになっている。だが、あいつは回りにいる奴らの能力変化は解除されないんだ。よって、俺はあいつの前じゃ、弱いままなんだ」


 零人の説明を聞き終えると、ほぼ同時。

 白兎のウェネトが唐突に目映く光だした。

 刹那、母性という言葉がよく似合う声。

『なるほど。そう言うことでしたか……。なら、私が力を貸しましょう』

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