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除霊出来ないピュア系男子~Invisible Friends Intact Forever  作者: 石山 カイリ
悪魔の分岐点
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奪われたピュア

 それは、ある晴れた春の日。

 それは唐突に上葉町の上空に表れた。

『クカカカ……。それでは滅ぼそうとしよう』

 それは、虹色に輝くウロコを持つ羊頭の龍だった。

「クソっ! 一年前のアンラマンユ襲撃の次は、ケルト神話の竜神にして、魔神バロールが産み出した邪龍、クロムクルアハかよ!」


 上空を飛ぶ巨大な龍を見上げ、低く声を荒げた。

 その横にいる優人は、

「あの蛇さん。そんなにヤバイの?」

「ヤバイっていうもんじゃねえぞ。前に言ったよな? 神はその信仰、認知度で格が決まるって……」


「う、うん。そう言えば言ってたよね。でも、僕クロム、くるあは? だっけ? そんな神がいたことなんて初耳だよ?」

「ま、日本ではそうだろな……。だが、ヨーロッパのほう。とくにアイルランドでは有名なんだ。なんたって、アイルランド人の祖先として語り継がれているからな」


「えぇ!? 邪龍が祖先って、それどういうこと!?」

 驚愕する優人。零人はその疑問に答えるべく説明を続ける。

「俺もわかんねえんだ……。委員会も、奴のことについて調べているが、奴はなにぶん謎が多くてな。他にもクトゥルフ神話や土地の名前の元になっているというものなんてものがある。ま、あのクソゼウスの上位互換のようなもんだ。っつうことで片付いちゃぁいるが、実際はあのクソ野郎より、質が悪いのは確かだ。なんせ、あのクソ野郎は一応善神。こっちは邪神だからな……」


「ぜ、ゼウスの上位互換……」

 その恐そしい言葉を繰り返して、優人は生唾を音を立て飲む。

「あぁ、そうだ。あのクソ野郎は人間がただ、苦しむ姿が好きで気まぐれに悪戯する程度だが、こっちは、気まぐれに破壊したり、自分の利益のために人助けしたりするからな……」


「ねぇ? 零人くん……」

 優人がかなり深刻そうな顔で名前を呼んで来たので、零人もそれ相応の顔となる。

「ん? どうした?」

「僕、ゼウスのほうが質が悪いと思う……」


 その優人の唐突な告白に、零人は思わず笑いが、吹き出る。

「…………っ! そうだな、確かにな。ゼウスのクソ野郎のほうが質が悪い……。さて、じゃぁ、行くか!」

「うん!!」

 二人はピクニック気分で邪龍を討伐しに上空へと向かった。


  * * *


 雲をも越えた遥か上空。

 近づくと、その巨体さが際だっている。全長四十メートルはあろうかという巨体は暴食よ悪魔エイグを凌ぐ。

 そんな中、零人はとある違和感を抱いていた。その違和感の正体に気が付き、それを悔やみながら優人に報告する。


「優人。すまない。こいつもどうやら俺の力の抜け道を知っているようだ。だから――」

 ――俺が時間を稼ぐ。その間にお前は町の避難誘導をしろ!

 そう言おうとした。したのだが、クロムクルアハがその言葉を遮る。


『クカカカ……。難癖付けるのは寄せ。我は寛大だ。せっかく我の近くにいる者の状態変化を半永久的に作用する術を発動しているまでよ。勝手に弱体化しているのはウヌであろう?』

「あぁ、そうだな……。確かにお前の言う通りだよ……。なぁ、寛大な寛大なクロムクルアハ様。その術を解いちゃぁくれねぇか?」


『すまぬな。それは出来ない相談だ。なんせ、我のこの術はもうかれこれ一億と二千年前から掛けていてな。解き方等、とうに忘れてしまったのだ……』

 クロムクルアハが嘲嗤うように説明を付け足した。

 クソッ! こりゃ、本格的に腹を括るしかねぇか……。


 零人が、そのような考えを巡らしていると、優人の的確な指示が飛んでくる。

「零人君は下がってて! ここは僕が時間を稼ぐよ!」

 その声に思わず零人の苦笑。

「はは……。優人。お前はそういうヤツだった。良いぜ。俺とお前で時間を稼いでやろうぜ!」


「え? でも……」

「あぁ、俺はクロムクルアハの余計な計らいで、本来の力を出すことは出来ない。出来ないが、それだけだ。俺は強いし、幸い、〝フェニックスの権威〟は正常だ。残り残機がゼロのお前とは違って、俺は残り残機無限大だからな。もしもの時はお前の盾くらいには役にたてるだろ……」


「それは止めてね!?」

 優人の心の底からのツッコミに零人は苦笑混じりに、「それに――」と、言葉を繋げる。

「――俺はお前の師匠だからな。師匠が弟子一人を戦わせて、高みの見物なんてダメだろ? ま、そんな師匠もいるっちゃ、いるが友だちとしては失格だ。だから、俺も戦うぜ……」


 優人はこれに、天使のような笑みを醸し出し、頷く。と、同時に声。

「うん。わかった。でも、無理はしないでね!」

「それはこっちの台詞だ……。優人! 今回の俺たちの勝利条件は香菜、シロ、瑛士、真一、透真、もしくはルシファーのいずれかが来るまで時間を稼ぐことだ!」


「わかったぁ! それで具体的にはいったいどれぐらい稼げばいいの?」

「あぁ、それなんだが、今日はあいにく、このメンバーはいずれも上葉町の外にいる。真一と透真は委員会のとこで、定期診断。ルシファーさんは今日は天国でバンドの助っ人を頼まれているからこの三名は今日中に駆けつけることは絶望的だ。香菜は異世界の魔王と戦っている。メール送りゃすぐさま飛んで帰ってくるかもだが、その分、あっちの魔王がほったらかしになっちまって、あっちに被害が出る可能性が高い!」


「わかったぁ! じゃ香菜ちゃんには連絡しないでぇ!」

「最後にシロと瑛士だが、アイツらは俺の指示のもと、一緒に任務に行っている! あいつらにとっちゃ簡単な任務だが、あいつらどうせ足引っ張り合うから。あと一時間ぐらいで戻ってくんだろ……」


「うん、わかったぁ! とりあえず一時間だねぇ!」

 優人の威勢の良い返事を終え作戦会議が終わりを向かえる。

 それを舞っていたかのように、クロムクルアハの嗤い。

『クカカカ……。もう作戦会議は終わったのか?』

 零人の鋭い睨みを伴った苦笑。


「ああ、おかげさまでな。お前、実はそこまで悪い奴じゃないんじゃねぇの?」

『クカカカ……。我は寛大なだけである。それにウヌらの絶望が見たい。そのためにはいかなる手間も惜しまむだけのことよ……』

「前言撤回だ……。行くぞ! 優人!」


「うん!」

 優人がそう応じた、その刹那。

 クロムクルアハが大口を開けた。

 口の中には、禍々しいほどに黒い球体があった。

「しまっ……!」


 零人が声を荒げ、咄嗟に優人に守りの結界を張る。

 自分のは間に合わず、零人と優人は黒い球体から伸びる光線に呑み込まれる。

「零人君!?」

 光線の中で親友の名を叫ぶ優人。


 しかし、どんなに眼を凝らしても何も見えない。どんなに叫ぼうとも自分の声すら聞こえない。匂いもしない。言うならば虚無。

 そんな状態が永遠に続くかと思えた数秒が経ち、優人の五感が元に戻る。

 正常に戻った資格で隣にいたはずの零人を探すも、その姿はどこにもなかった。


 そして、見つける。

 零人の左肩とそれに繋がる頭は、上空からゆっくりと降下していた。

 そんな零人の身体の残骸を見つけ、優人はにこりと微笑む。

「良かっ……」


 バクンッ……。

 優人は大口を開け迫っていたクロムクルアハに呑み込まれてしまった。

 同時に、意識はあるが反応出来ない降下し続けている零人を見下し嗤う。

『クカカカ……。さぁ、絶望するがよい。さすれば我は気が済む。この集落への破壊行動は辞めるぞ』

 はい!

 すみません!

 このクロムクルアハ。自作に出てくる最強の敵のモチーフとなった神です!

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