いつもの日常
ここはT県、上葉町。
とある雪降る冬の日。
真昼に町に差し込み、影を一切許さないような陽の光のような、クリーム色の少年、勇崎優人と、空と海が地平線でぶつかり合った色の如く清んだ青色の瞳を持つ青年、真神零人は夜の町を歩いていた。
「ねぇ、零人くん、今日の討伐対象の霊ってはどんな敵なのぉ?」
優人の楽観的な物言いに、いつもなら軽口で返す零人だが、今回は違った。
「今回のは、マジでやばい……」
「え!? 零人くんがそこまで言うなんて、その霊はそんなに強いの!?」
「いや、強さ事態は普通の悪霊より劣る」
「じゃ、じゃぁ、何が問題なの?」
優人が首をこてんと倒し聞く。
「そいつは姉や妹に強い執着する男を籠絡させ、操るんだ。しかもだ。とり憑かれた男は少なからず、霊能力を使えるようになりやがる」
「えっと……?」
脳内でハテナマークが群れをなしている優人に、零人はより噛み砕いた説明をする。
「つまりだな。相手が弱いせいで俺は能力の制限を外せねぇ。そのうえ、操られている男がそいつを守りやがるから、物理干渉力が強いお前は簡単に手を出せねえって、話だ」
「ふーん……。ってええ!? めちゃくちゃ相性悪くない!?」
ようやく事の深刻さに気が付いた優人の叫び。零人はというと、不満と怒り、憂鬱といった感情が入り乱れた声。
「あぁ、あのクソ上司。何が『君と優人くんなら余裕だよね? ちゃちゃっと倒して来てよ?』だ。相性っていうもんを考えろよ。相性をよ!?」
因みに零人が、ここまで激怒していたのは、明日が零人の楽しみにしていたスナランというゲームのリアルイベントの日だからだ。
零人は明日のために、霊力を毎日コツコツと貯めていた。それが今日の任務でパーになるかも知れないのだから、零人が腹を立てるのは仕方ない。
さっさとやっつけて帰るか。と思っていた零人の眉間には血管が浮き出されていた。
人気のない夜の町を歩くこと数分。
こちらにゆらゆらと歩みを進めている人物が表れる。
「姉貴。コイツらをヤれば良いのか?」
そう物騒な言葉を発しながら、向かって来ているのは、黒髪の同年代の男子だった。
その男子の背中には、『クスクス……』と不気味に笑う女性型の悪霊。その悪霊は肩上と脇下から手を回し、その男子にベッタリと密着している。
都合上、シスターズと名付けられる種類のその悪霊は、従順な男子の耳元で何かを囁いた。
「悪いが、今日の俺は、不機嫌だ。即効性で決めさせてもらうぜ」
零人が身体能力強化術を使い、加速。一気に男子の懐に潜り込む。そのまま、みぞおちに鉄拳を叩き込もうとする。
が、男子は咄嗟にバク宙で躱わす。
「へぇ。やるじゃねぇか……」
「不意討ちたぁ、粋じゃねぇなぁ……」
首をゴキゴキと鳴らしながら言う男子は、右手に剣を出現させた。
その男子が、出した剣の鍔の両端から柄頭まで、延び繋がった純白て天使よ羽を思わせる装飾。柄頭の先端からは水色の星のストラップ。
そして、極めつけは、氷のように冷たさの中に、青空のような暖かさを醸し出す水色の刀身。
敵意を全開にした男子。その時だった。零人の脳内に、
『条件を満たしましたので、『怠惰』の制限わ一部解除します』
機械音声のような声が響き渡った。
「へぇ……。ルシファーさんも随分と羽振りの良いことしてくれるな。さぁ……。こっからは無双の時間の始まりだ!」
零人が叫ぶと、ほぼ同時に零人の右側の大気に亀裂が入る。零人はなんの躊躇もなく、その亀裂に手を突っ込む。
その半秒後。零人はその宙に空いた深淵の穴。そこから光をも飲み込む、ブラックホールを連想させる純黒の刀を引きずり出す。
亀裂が元通りになるのと、同時。黒剣の柄頭についた黒鎖が生き物のように零人の腕に巻き付く。
その剣の名は、【斬霊刀】。七つの大罪が一人、怠惰の能力者のみが使える武器である。
そこまでを待って、男子は声を発する。
「無双の時間とは大きく出たもんだな。だったら俺ァ、エクストリームな時間と行くか?」
優人もエメラルド色の剣を錬金術で作り出し、臨戦態勢に入る。
その気配を察知して、零人はいう。
「おい……。優人。お前は手を出すんじゃねぇぞ……」
「え? でも?」
「ハッハァ! 俺にサシで挑むたぁ、随分と粋じゃねぇか!」
その男子は豪快に言い切りながら、零人に突っ込む。その動作を確認した零人も男子に向かって行く。
ガァン……!
静かな夜の町に響き渡る黒刀と水色の剣の衝突音。黒と水色、そして白の火花が両者の周りを淡く照らす。
二人は同時に後ろに飛び退き、角度を変え、突撃。
何合かの打ち合いの末に、二人は鍔競り合いまで持ちこんでいた。その勝負は制限を一つしか外されていない。という枕詞が付くものの、世界最強の存在と、拮抗していた。
「ハッハァ!! どうしたどうした? さっきの意気込みはどこへ行っちまったんだ?」
「うるせ。お前が弱すぎて本気に慣れねぇんだよ……。それに、この刀を出すのだけでも相当霊力使うんだよ」
「それはそれは負け犬の遠吠え、ご苦労様だな!」
その発言にカチンと来た零人。
「テメッ……! 言わせておけば……! ハンッ。まぁいい。お前みたいなやつには、結果で語るしかないからな。っていうか、お前いったい何者だ?」
しかし、これで怒りのままに攻撃しようと思ったが、それは少々大人気ないので止めた。何より優人が見ている。優人にそんな無様な勝利を見せたくはなかったのだ。
「ぁん? 俺か? 俺は。そうだな……。リアだ。リア・アブソリュート・シュタウト。それが俺の名だ。ちゃんと脳内メモリーに刻み込どけよ! 三下ァ!」
「そうか。リア。じゃぁ、聞くが、お前はそのシスターズに操られている訳でも、Arthurの奴らと関わりあるわけでもないんだな?」
「ぁん? 俺がコイツに操られているって? 冗談キツいぜ。俺はコイツらを姉貴を見る道具として使っているだけだ。第一、俺の姉貴は俺に『誰かを殺せ』なんか命令しねぇよ!! 俺の姉貴は過保護なんだ。それにArthurだぁ? んだ? そりゃ! そんなもん聞いたことも見たことも……。ん?」
そこで、リアは戦いの最中考える余裕まで見せる。これには零人も怒りが噴火寸前だったのだが、何か情報を入手出来るかも知れない。と思い何とか堪えた。
『クスクス……』
その最中、リアの背中で笑っているシスターズは、とうとうリアの怒りに触れてしまったようだ。
「あぁ! さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ! 本当の姉貴じゃねぇのに、俺に指図するんじゃねぇ!!」
言葉の最後に、リアは徐霊の光を最大出力で発動させ、シスターズを一瞬で徐霊した。その後、数秒に渡り、考え込んだリアはやがて、何かを思い出しだかのように「あ!」と、声を張り上げた。
「あぁ、そういやぁ、いたは。Arthurとか名乗る集団。あまりにもとんちんかんなこと言うんで、返り討ちにしてやったがな!」
その答えを聞いた零人は苦笑。
「そうか……」
「っていうか、お前こそ何者なんだ――」
とたんにリアに、下に沈む感覚に目線を落とすと、足がコンクリートに沈んでいた。
「――どうなってんだ!? これ!?」
「あ、それ、俺の霊術」
零人が至って平然にそう答えると、沈下は足首より、少し上の高さで止まった。リアは足を抜こうとするが、ほんの刹那まで、意図も簡単に沈んでいたコンクリートだが、既に元の固さに戻っていた。
なかなか、抜け出せなく苦戦していたリアを横目に零人は、斬霊刀を元に戻すと、優人に向けて歩き出す。
「さて、任務達成だ。帰るぞ……」
「へ? でもあのお兄ちゃんは?」
「あぁ、あれだけ強けりゃ問題ねえだろ? ま、一時間もありゃ、抜け出せるだろ?」
「うん。零人が言うなら。それでいいや!」
「は!? ざっけんな!? 良いから出しやがれ! おい。聞いてんのか!?」
優人は零人に連れられるがまま、叫ぶリアを放置して帰っていった。
これが、零人とリアの初の邂逅である。