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25.エピローグ

黒の番犬(ケルベロス)本拠地:闇の柱前】

アレス、ルリアーン、オリオン、カッツが、闇の柱の元へと集った。柱の前には、黒い煙を身体に纏った、見るだけで死を感じさせる男の姿があった。


「おぉ!英雄ヘルよ!ついにこの世にお戻りになられましたか!」

バデスはヘルに頭を垂れ、讃える。その姿を、ヘルは見下ろし、一言告げる。


「よくやった」

ヘルがゆっくりと、アレス達の元へと歩み寄ってくる。その一歩一歩から恐怖を感じる歩みに、一同は構えた。


「怯えるな。お前たちは強き者だ。私の敵として相応しいくらいにな」

不気味な笑みを浮かべながら、ヘルはアレスの目の前まで来て止まる。そこで、アレスが口を開く。


「お前を、倒す!!」

「……面白い」

アレスがヘルに向かって殴りかかろうとする。ヘルはそれを綺麗に身体を添わせて避ける。そして、反撃の膝蹴りを入れた。


「んぐほぉ!!」

アレスは悶え苦しみながらも倒れる事は無く、すぐに態勢をたてなおした。そこに、オリオンが加勢する。オリオンはヘルの腕を掴み、投げようとするが、ヘルはすぐさまそれを解き、オリオンを殴り飛ばす。


「こんなものではないだろう?立ち上がるが良い」

 ヘルが、倒れているアレスとオリオンを見下ろし、そう告げる。二人は同時に立ち上がり、息を合わせてヘルに殴りかかるが、アレスの拳はヘルの右手に、オリオンの拳は左手に受け止められる。そこに加勢しようと、カッツに乗ったルリアーンが走っていくが、その先に、バデスが現れる。


「ヘル様の手を、これ以上煩わせてはいかんのでな」

バデスは掌から無数の闇の弾を生み出し、ルリアーンとカッツの方へと飛ばす。ルリアーンを乗せたカッツは真横へ飛び、闇の弾を避けようとする。しかし、少し遅れ、このままでは弾がルリアーンに当たってしまう。


「!?」

 カッツ、ルリアーンの前に、大きな盾を構えた男が突然現れる。恐怖を乗り越え、覚悟を決めた表情で、その男は立っていた......


「アーカイ隊長!!」

 カッツが驚き名前を呼ぶ。闇の弾の攻撃を巨大な盾で受け、かき消す。アーカイを見ていたバデスも困惑している。アーカイは、カッツの方へと振り返る。


「僕がもっと早くに動いていれば......抗っていれば......一歩前に踏み出せたのなら、こんな結末にはならなかったのかもしれない......僕はなんて事を......」

アーカイはうつむきながら、カッツとその周囲で戦う人々へと謝罪の言葉を述べた。アーカイは何年も前から黒の番犬(ケルベロス)の真の目的に気が付き、それを止めたいと考えていた。しかし、自分が始末される事を恐れ、大人しく組織に従っていたのだ。


「僕が......僕が......クソッ!」

「隊長もずっと一人で苦しんでいたんですね......隊長!今からでも、まだ間に合います!ここで!ここでヘルを!バデスを止められれば、悲劇は終わるんです!だから!」

「ああ......そうだね......もう償えるとも、許されるとも思っていない。だけど、僕は自分が正しいと思った方へ向かう事にするよ」

 アーカイはそのまま巨大な盾を正面に構え、バデスの方へと突進する。バデスは闇を纏った両手で、盾を受け止める。そしてアーカイへと問いかける。


「貴様は何故......異形(ヴァリアント)になっていない?黒の番犬(ケルベロス)の構成員は全員、異形(ヴァリアント)化の処置を施しているはずだが?」

「気がついていなかったんだね......」

 アーカイは盾を思いっきり押しその先にいるバデスをよろめかせる。その一瞬のスキで自身の鎧の中から青黒い石板を取り出し、カッツの方へと投げる。カッツは石板を口で受け止める。それをルリアーンが受け取り、手に取る。バデスはその石板を見て、冷静さを失った。


「それは、オルペウスの詩の歌詞が書かれた石板だよ!七節で構成されたその詩を、七人でそれぞれ一節ずつ読み上げるんだ!そうすれば、それを聴いた異形ヴァリアントになった人々は皆、もとに戻り、暗黒の一族も倒す事が出来る!」

 アーカイは思いっきり声を振り絞ってそう叫んだ。声はルリアーンとカッツだけでなく、ヘルと戦っている、アレスとオリオンの元にも響いた。ルリアーンは石板に書かれたオルペウスの詩の一節目を大きな声で読み上げる。


「このままでは!!」

 ヘルは先ほどまでの余裕を失い、必死になる。ルリアーンの方を睨みつける。


「私は闇へと飛び込んだ、愛する貴方を救う為」

 ルリアーンが一節目を読み上げると、暗闇に包まれた空に僅かながら光が差し込む。ヘルは、石板を取り返そうとルリアーンの方へと走って向かうが、アレスとオリオンがすかさずそれを止めようと、同時に拳をぶつける。ヘルは少し怯むが、二人を薙ぎ払い、ルリアーンの元へと走っていく。バデスも、それと同時にアーカイを思いっきり吹き飛ばし、疾走する。


「石板を返すのだ!」

 バデスがカッツとルリアーンを追いかける。ヘルとバデスから距離を取るように、ルリアーンを乗せたカッツが全力で走る。それとすれ違うように、遠くから大量の矢とクナイが飛んでくる。矢はバデスの頭に、クナイはヘルの足に直撃した。


「カズヤ!チヨコ!」

 ルリアーンが矢とクナイが飛んできた方向を見ると、そこには、チャーリーを支えながら立つチヨコと、傷だらけでありがらも堂々と立っているカズヤの姿があった。


「話は聞いていたよ!さぁ、石板をこっちに!」

「うん!」

 ルリアーンがカズヤの方へと思いっきり石板を投げた!カズヤはしっかりと受け取り、二節目を読み上げる。ヘルがその手前まで目にも止まらぬスピードでやってくるが、その後ろから追いかけてきたアレスとオリオンにがっちりと捕まれ、身動きが取れなくされる。


「恐怖を乗り越え踏み出した、底の見えない暗黒に」

 カズヤが二節目を読み終える。空の暗闇はさらに弱まり、光の線が地上へと差し込む。その光を浴び、ヘルとバデスの力は弱まり、動きが鈍くなる。ヘルは力を振り絞り暴れ回り、彼を掴んでいたアレスとオリオンを吹き飛ばす。カズヤは直ぐにチヨコへと石板をあけ渡し、ヘルに向かって矢を放つ。


「この......この私がぁ!!」

 カズヤの矢を受けながら、石板を取り返そうとするヘルだったが、その前にチヨコが三節目を読み上げ始める。


「止まることなく進み続けた、光が見つかる事を信じて」

 空の暗闇は完全に消え去り、まばゆい光が降り注ぐ。バデスとヘルはその光を浴び、大きく怯んだ。ここでチヨコが隣のチャーリーへと石板を渡す。チャーリーが四節目を読み上げる。


「身体は闇に蝕まれたが、それでも前を向き続け」

 辺り一面に草木が生い茂り始める。周囲の異形(ヴァリアント)達も、戦いをやめ、静かにたたずみ始めた。ヘルとバデスは更に強くなる光に耐え切れず、地面へと這いつくばった。チャーリーは視線の先にいたアーカイへと石板を投げる。アーカイは躊躇しながらもそれを受け止める。


「アーカイ隊長!それを読む資格が、貴方にはあります!」

 カッツが戸惑うアーカイの背中を押す、アーカイは五節目を読み上げる。


「心が荒み始めても、決して折れないように進むと」

 涙を流しながら、アーカイは石板を読み上げた。異形(ヴァリアント)達を包む黒い煙は少しずつ払われていき、人の姿を取り戻しつつある。アーカイは、近くに歩いて来たオリオンへと石板を手渡しする。オリオンは直ぐに読み上げた。


「失いたくは無いからと、強くあろうと胸を張り」

 仲間たちの負った傷が、癒えていく。バデスとヘルは負けを確信した。全てを諦め光に包まれた。皆が微笑み、アレスの方を向いた。オリオンはアレスの肩をポンと叩き、石板を渡す。アレスは笑顔で受け取り、最後の七節目を読み上げる。


「あらゆる困難を乗り越え、力の限り戦った」

 光がアイゼン王国全土を包む。バデスとヘルは光に包まれ消滅した。各地の異形(ヴァリアント)達は元の姿を取り戻していく。異形(ヴァリアント)にかけられた呪いは完全に解け、つけられた傷も全て癒えた。




 私は闇へと飛び込んだ、愛する貴方を救う為


 恐怖を乗り越え踏み出した、底の見えない暗黒に


 止まることなく進み続けた、光が見つかる事を信じて


 身体は闇に蝕まれたが、それでも前を向き続け


 心が荒み始めても、決して折れないように歩んだ


 失いたくは無いからと、強くあろうと胸を張り


 あらゆる困難を乗り越え、力の限り戦った


                  ――オルペウスの詩



「終わった......俺たちの戦いは終わったんだな!!」

 アレスが満面の笑みで話す。周囲の仲間たちも、笑顔で頷いた。戦いが終わり、喜びに包まれる一同。そこに向かうように、遠くから誰かがこちらにやってくる。


「みんな!見て!」

 ルリアーンが溢れんばかりの明るさで遠くに指をさす。


 アレスが振り向いたその先には、彼らが、あの日救えなかった友の姿があった。

長い間投稿に空きがありましたが、3年の時を経て完結です!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!

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