22.返礼
「一人の少女を助けた結果、自分自身が悲惨な人生を辿ることになるとは、なんて惨めなのかしラァン!」
「おや、君はそれを惨めだと思うのかい?僕にとっては喜ばしい事だよ!まぁ、君には分からないかなぁ!?」
チャーリーがヒューラに向かって右手の平を向ける。しかしヒューラは、今までチャーリーがそうしてきた者達のように、灰になる事は無かった。
「ざぁんネェーン!その力の対策は既に出来ていますワァン。もうあの時のようには行きませんわヨォン!!自分が与えた力に返り討ちにされてしまうほど、ワタクシはアホウではありませんわよ!」
「もしかしたらって思っただけだよ!万が一に効いたとしたら凄く滑稽だからねぇ!アッハッハ!」
チャーリーの持つ、対象を灰にする異形の力。これは過去にヒューラがチャーリーに、人間の身体を異形化させるを力を使った事で、彼に身についた力であった。過去にチャーリーの能力によって右脇腹をやられたあの日以降、その対策をしていたのだ、。彼女にこの攻撃が効くことは無い。
「死になサァイ!!」
ヒューラの身体に巻きついていた二匹のヘビは地面に降り、そのまま這いずり回りチャーリーに襲いかかる。チャーリーはナイフを取り出す。先に飛びかかってきた蛇をナイフで弾き飛ばす。その隙をみてヒューラも襲いかかってくる。
「楽しいねぇ!!楽しぃねぇ!!!」
軽々とステップしながら、巧みなナイフさばきで攻撃を凌ぐチャーリー。しかし、中々反撃に転じることが出来ない。
「逃げてばかりじゃ勝てませんわヨォン!!」
ヒューラは服の中に仕込んでいたムチを取り出し攻撃する。ムチには無数の針がついており、一発でも当たれば致命傷になる。
「まったく……キモい武器だねぇ!!」
ムチを取り出す素振りを見たチャーリーは即座に、距離を取る。異形の力でムチを灰にする事を試みるが、武器にも対策が施されているようで、それは通じなかった。
「ソォレ!!ソォレ!!死になサァイ!!!」
ムチを振り回しながら、チャーリーの元へと突っ込んでいくヒューラ。ムチがチャーリーの顔にかする。頬に小さな傷が着いた。
「痛いなぁ!!もぉぉぉおおお!!」
怒っているのか笑っているのか分からない。そんな表情と声色で叫ぶチャーリー。ここで距離をとる。素振りを見せたがそれはフェイクであり、逆に距離を詰めた。
「一撃で、殺しちゃおうねぇぇぇえええええ!」
「なっ!?」
高速でヒューラの懐に潜り込み、心臓目掛けてナイフを突き刺した。しかし、ヒューラに巻きついていた二匹の蛇の内の一匹が急いで動きその攻撃を遮断するかのように、ナイフと心臓の位置の間に移動した。チャーリーのナイフは蛇に思いっきり刺さった。蛇は息絶えたが、心臓を貫く事は出来ず、皮膚に傷をつけるまでであった。
「クッ!」
「アハァァァォォァァアアアアン!!」
ヒューラは僅かな隙をついて、チャーリーを足払いし転ばせる。チャーリーは体勢を咄嗟に立て直すことが出来ず、尻もちをついてしまう。そこでヒューラはさらにチャーリーの腹を思いっきり踏みつけ、踏みつけ、何度も繰り返し踏みつける。踏みつけながら顔面をムチでしばきつづけた!!
「痛い痛い痛い痛い痛い!!」
チャーリーの身体は傷だらけだ。胴体の骨も何本か折れている。もう立ち上がる事は出来ない。
「よくもワタクシのきれいなお肌を傷つけてくれましたわネェン!!それにぃ、頑張って生成た蛇ちゃんもこんなにシテェン!!もぅー!!殺しますワァン!!」
メッタメタにひっぱたかれ、踏みつけられまくるチャーリー。声をあげる力ももう無く、意識が朦朧としていく。
「あぁ……これが……死……」
チャーリーの瞼が完全に閉じようとしたその時。ヒューラの持ったムチに一本の短刀が突き刺さる。
「誰ですノォン!!」
ヒューラが振り向いた先には、チヨコの姿があった。
「やっと……見つけた……」
目にも止まらぬスピードでチヨコは走り出し、ヒューラに反応させる事無く、彼女の目の前で倒れていたチャーリーを担ぎ、先程のラドゥーンとの戦いで気を失っているカズヤの隣へとそっと置いた。
「もしかして貴方……あの時のか弱いお嬢ちゃんかしラァン?随分と立派になったわネェン!!」
ヒューラは1度ムチの動きを止め、チヨコの方へと向き直る。舌なめずりをしながらゆっくりと近寄るヒューラに対し、一定の間合いを取るように、また、倒れているカズヤとチャーリーに近寄らせないように後ろへと下がっていくチヨコ。
「今度は……私が助ける番……」
そう呟き、チヨコは再び走り出す。ヒューラはそれを待ち受けるかのように鞭を振り回す。先程は不意打ちを食らったヒューラであったが、今は全ての攻撃をはじき返すかのような気迫で、チヨコを見る。
「う、鬱陶しいわネェン!!貴方も、死になサァイ!!」
攻撃を当てては距離を取り、当てては距離を取り、ヒットアンドアウェイを繰り返すチヨコ。ヒューラに幾つかの傷をつけることに成功した。
「よくも、よくもよくもワタクシの顔を!!身体ぉぉおおおおおおおおおお!!オオオオォォォォォォン!!」
傷ついた自分を見て激高するヒューラ。ムチを先程よりも早く振り回し、チヨコの方へと接近する。
「残念……もう終わり……さようなら……」
「アァレ……身体が……」
ヒューラの体勢が足元から崩れていく。疑問を浮かべながら、そのまま地面に倒れるヒューラ。
「ワタクシに……何をしましたノォン?」
「睡眠毒……ワフ族の作るそれは、世界一の効果を持つ」
チヨコは、倒れたチャーリーをカズヤの近くへ運んだ際に、カズヤの手元から、彼の使っていた睡眠ナイフを取り、自身の懐へと隠していたのだ。ヒューラを傷つけたナイフはそれであった。
「貴方はすぐさま、眠りに誘われる……ってもう聞こえてないみたい……」
眠ってしまったヒューラを背に、チヨコは気絶したチャーリーのもとへとゆっくりと歩みよる。
「やっと……会えた……」