18.追憶-出会い-
黒の番犬との戦いを控えた夜。アレスは、自身が異形討伐隊に入った時の事を思い出していた。時は過去にさかのぼり、三年前へ......
~三年前~
【バロメの街:異形討伐隊試験会場】
異形討伐隊の加入条件は十八歳以上から受けることが出来る討伐隊許可証取得試験に合格する事である。今年十八歳となったアレスは、早速この試験に臨もうというのだ。
「師匠!期待して待っていてくれよ!オリオン!今追いつくからなぁ!!」
今まで自身を鍛え上げてくれた師匠と、一年前に異形討伐隊へと入り各地のギルドを回る旅を始めたオリオンの事を思い、進むアレス。受付を済ませ、会場へと走って行く。会場は受付をしたバロメの街の外れにある草原であった。同じく草原へと向かって行く受験者を追い抜き、アレスは駆け抜けていった。
「ここが、会場かぁぁぁあああああ!!」
スタッフと思われる人に案内された立ち位置につく。参加者は皆それぞれ、指定の位置に一定間隔を空けて立っている。これから始まる試験を前にして緊張する者、期待する者、集中する者様々だ。アレスは気持ちを昂らせていた。スタッフが紙を配り始めた。暫くして紙は全員の手元に渡り、それと同時に試験管らしき男が説明を始める。
「これより試験を開始する!内容は簡単だ!この草原には、商人や旅人を襲い貪り食うヴォルフが大量に生息している!このヴォルフを一頭捕獲し、俺の元に連れて来た者を合格とする!制限時間は1時間だ!」
ヴォルフ、深い毛並みを持つ四足歩行の動物である。草原で群れをなし、見つけた動物に素早く近寄り狩り食す。力なき者であれば命を奪われてしまう危険な動物だ。
「細かいルールやヴォルフについては今渡した紙に書いてある!それでは今より……始め!!」
間髪入れずに試験が開始した。試験の内容については事前に説明があったため、皆すでに準備をしてこそあるが、流れるように始まった試験に、少しだけたじろいでしまう者も多かった。しかし、アレスは試験開始の合図と共にすぐ、ヴォルフの群れがよく見られる南へと向かった。
「一番乗りで合格してやるぞぉ!」
遠くにヴォルフの姿が見えた。目標に向けて更に加速しようとするアレスだったが、その時、真後ろに何か気配を感じた。真後ろには笑顔で走る、背中に槍を背負った細身の男がいた。背後に誰かがいた事に一瞬驚いたアレスだったが、すぐに声をかける。
「よぉ!あんたも参加者かぁ?」
「そうさ、僕はオスカー。よろしく。君の名前は?どうしてそんなに急いでいるんだい?」
細身の男は自身の名をオスカーと名乗った。二人はスピードを落とす事無く、疾走しながら会話している。他の参加者が遅れて後ろからついてくるのを見た二人は、少しだけ加速した。二人は会話を続ける。
「よろしくなぁ!オスカー!俺の名前はアレス!!この試験で一番に合格したいから急いでるんだ!!そういうあんたはなんだぁ?」
「やっぱりね。僕も同じだ。せっかくだかっら一番に合格しようと思って走ってる。僕たち気が合うんじゃないかい?ほら、そろそろ戦いの時間だよ」
「ガッハッハ!同志だな!!そうだ、良い事を思いついたぞ!!試験に合格したら一緒にパーティを組まないか?リーダーは先に合格した奴って事で」
「お、いいね。僕も丁度仲間を探していたんだ!よし、いいよ。君とは楽しくやれそうだ!」
ヴォルフの群れの元へとたどり着く。オスカーとアレスの近くに丁度二頭、少し離れた所に三頭のヴォルフが、今さっき群れで狩ったであろう草食動物を食べていた。オスカーは背中から槍を引き抜き、一頭のヴォルフの方へと向けた。アレスは構えを取り、近くにいたもう一頭のヴォルフへと距離をつめた。ヴォルフ達もその事に気が付きこちらを鋭い眼光で睨みつける。
「さぁ、狩りの時間だ!」
オスカーとヴォルフはお互いに一定の間合いを空け、様子を見合っている。どちらが先に飛び掛かるのだろうか。そのタイミングは数秒後にやってきた。ヴォルフがオスカーへと飛び掛かり、腕を鋭い牙でかじろうとする。オスカーはそれを咄嗟に槍の柄で受け止める。槍の柄に嚙みついたヴォルフを振り払う。吹き飛びそのまま姿勢を立て直そうするヴォルフの右前足を槍で素早くつく。そして流れるように連続で左後ろ足をついた。ヴォルフが槍で突かれた部分を引きずりながら、逃げようとする。もう狩りをする時のような俊敏な動きは出来ないだろう。それをそのままオスカーは縄で縛り担ぐ。そしてそのまま試験官の方へと帰ろうとする。
「悪いねアレス!パーティのリーダーは僕になりそうだよ。ってえー!」
アレスとヴォルフが戦っているであろう、オスカーの背後を向き勝利宣言をしようとするオスカーだったが、そこにあったのは、さっきまでアレスと戦っていたヴォルフが、泡を吐いて気絶している姿だけだった。何かと思い辺りを見渡すオスカー。最初に確認したターゲットのヴォルフとは別の、少し遠くにいた三頭のヴォルフ。これと戦うアレスの姿があった。後ろにはヴォルフにやられて負傷している小柄な弓を持った男と、それを魔法で治療する黒髪で白く綺麗な肌の女性がいた。
「僕との勝負を忘れてしまったのか......いや、そうではないね」
ニコっと微笑みながら、オスカーも三頭のヴォルフの方へと向かう。しかし、オスカーがそこにたどり着く手前で勝負は決した。アレスは一頭を掴み怪力で締め付け気絶させた。しかし、その瞬間に残りの二頭がそれぞれアレスの右脇腹と左足に噛みついた。
「んぐぉおおおお!」
痛みに耐えかね、声を上げてしまうアレスだったが、そのヴォルフ二頭もすぐに地面へと倒れ込んだ。先ほどまで治療されていた小柄な男が二頭の背中の柔らかい部分を的確に矢で打ち抜いた為である。倒れ込んだ内の片方が起き上がりそうだったが、丁度ここにたどり着いたオスカーが追い打ちをかけ、身動きを奪った。
「はぁ......はぁ......ありがとな!!」
「いや、お礼を言うのはこっちの方だよ。ありがとう」
微量の血を流しながら矢を放った小柄な男に礼を述べたアレス。その姿を見て黒髪の女性は咄嗟にアレスの傷を魔法で治そうとする。
「まさか三頭のヴォルフに襲われた後に、すぐ立ち上がってすぐにあんな正確な矢を放てるなんて、あんたも中々根性があるなぁ!!」
「いや、この子の治癒魔法のおかげだよ。直ぐに傷がふさがったんだ。ほら、君のも」
アレスの血が流れる程の傷は既に回復していた。回復魔法をかけられている事にさえ気が付かなかったアレスは衝撃を受けた。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!凄い!!凄すぎるぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!しかも、もう全然痛くないじゃないかぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!あ、ありがとなぁ!!」
「どういたしまして!えっと......私はルリアーン。見ての通り回復役だよ!あ、でも戦闘も出来るよ!君たちほどじゃないけどね」
感激するアレスに笑いながら自己紹介をするルリアーン。オスカーとアレスも二人に名を名乗った。小柄な弓使いも、そこに混ざるように声を出した。
「俺はカズヤ。よろしく」
「おうおう!カズヤもよろしくなぁ!そうだ!!ここの四人でパーティを組まないか!!優秀な弓使いと回復役がいたら俺もオスカーも、思いっきり前に出て戦える!!それに、楽しそうじゃないか?」
アレスの提案を聞いて、考えるカズヤとルリアーン。二人とも、試験終了後に答えを出すという事になった。今の戦闘で四人が捕獲したヴォルフを一頭ずつ試験官の元へと運ぶ事となった。残った一頭もアレスが運び、一緒に引き渡した。結果は勿論全員合格。晴れて異形討伐隊に入る事が出来た。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!ついに、ついに異形討伐隊になれたぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
喜びの雄たけびを上げるアレス。ずっと夢に見ていた異形討伐隊にやっと入る事が出来て大感激だ。隣で見ていたオスカーも、ガッツポーズをした。そしてその後、会場から出てすぐ、二人の元へルリアーンとカズヤがやって来た。
「私も、一緒に行くよ!」
「俺も......俺も連れてってくれ」
こうして、四人の異形討伐隊としての人生が始まったのであった。
~時は現在へ~
「オスカー......待っていてくれ。必ず......」
必ず作戦を成功させてみせる。そんな思いを胸に、アレスは眠りについたのだった。
エピソード0