17.集結
オスカーの呪いを解き、異形と化した人間を元に戻す事が出来るオルペウスの詩。その楽譜を隠し殺戮を繰り返す黒の番犬の司令官バデス。彼を止め、詩の楽譜を手に入れる為、アレス達は共に戦う仲間を募る。しかし、残された時間は少ない。入団試験の現場で人間の異形化があった事。そこで証拠を消そうとしたヘブロスが拘束された事。黒の番犬の真実が明かされようとしている今、組織が動かないわけが無い。
【マテロ地方黒の番犬本拠地】
「我々の平穏を乱す者が現れたか……あのヘブロスも裏切ったとな……もう英雄の真似事も潮時か……しかしもう、フフフ……その必要もないか」
逆だった白髪に皺だらけの顔をしているが、その奥底から恐ろしい力を感じる。そう、彼がバデス。黒の番犬の頂点に立つ男だ。
「オルト……ヒューラ……ラドゥーン……黒の番犬の全員をここに招集しろ。理由は分かるな」
バデスが名を呼ぶと、その三人は何も無い空間から闇を纏いながら現れた。
「はい、仰せのままに……」
黒いローブを着た、虚ろな目をした少年とも言えるほどの体格をした男、オルトがバデスへ頭を垂れながれ答える。
「つっ!ついに始めるのですねぇ!バデスぅー!ワタクシ……ゾォクゾォクしてきましたワァ……」
深い緑色のドレスで女王のような格好をした女性。身体に巨大な蛇が這いずり回っている。ヒューラは舌なめずりをしながらバデスの肩を指で撫でる。
「遂にワシらの主と再会出来ようとは、涙がこぼれようぞ……」
この世界では竜人と呼ばれている。とは言っても御伽噺の世界にしか存在しないとされている空想と言われているはずである。竜の頭、手足、皮膚を持つラドゥーンが涙を流している。そして、三人は散り散りになった。バデスの司令の通り、黒の番犬に所属する者達を招集しに行ったのだ。
「ついに始まる......終わりがな......」
バデスは不敵に笑いながら、その場を去って行った。
【ザゼンタウン:異形討伐隊ギルド前、広場】
アレス達が黒の番犬入団試験に参加してから二日、モリスの根回しによって黒の番犬の真実とオルペウスの詩についての話は国中に広がっていった。それを聞きつけた各地の異形討伐隊のメンバーが彼らの元へ集う。ただの噂話だと信じない者も多かったが、それでも多くの人々が集った。その数はおよそ二千にも及ぶ。
「こんなにも沢山の人が......凄いなモリスさん!これ程の人を集めるなんてなぁ!」
「私はただ、人脈が広いだけです。本当に凄いのは貴方ですよ、アレスさん。あのへブロスを打倒し、こんなにも早く闇を暴いたのですから。それに......それだけではありません......」
モリスがアレスに対して何かを言いかける。アレスは首をかしげる。彼はそんなアレスの腕を引っ張り、二千人の人々の正面に連れていく。そして、全員に届くよう声を響かせる。
「皆さんお聞きください!!彼が今回の作戦のリーダー、アレスさんでございます!!」
ざわめく人々。アレス自身も困惑している。モリスがここからの計画も進めていくのかと思っていたアレス。自身が突然モリスからリーダーを任せられたのだ。
「モリスさん!!何故!?何故俺がリーダーに!?」
「貴方は私を信じ、戦ってくれた。それに、貴方は炎のように熱い魂と、光のように輝ける心を持っている。だから、任せたいんです」
モリスが人々へと目を向ける。それに合わせるようにアレスも辺りを見渡した。皆、アレスに期待の眼差しを向けている。彼の今までの異形討伐隊での活躍や人助け、へブロスとの戦いの事も、ここの人々には伝わっていた。それを聞いてアレスについて行こう、彼の背中にならついて行けるという者が、ここにいる人々なのだ。この景色を見て、アレスはその事に気づいた。深呼吸をして、一歩前へと歩いた。アレスには様々な思いがあったが、ただ一言を口にする。
「皆、よろしくなぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
ここにいる約二千人の同胞たちが歓声を上げた。