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12.暗闇の中で

【ハーブフォーの洞窟】

 アレス達は、人目に着くことの無い森の洞窟でひっそり戦闘訓練をしていた。彼らとモリスの繋がりを黒の番犬(ケルベロス)に認知される事によって、疑いの目をかけられる可能性も考えての事だった。


「ふっ!はぁあ!やっぱりやるなぁ!兄貴は!打撃の一発一発が骨まで響く!」


「そうだろう?これも鍛錬の成果だ!アレス、お前も中々のものだぞ。しっかり、沢山の戦いを乗り越えてきた物の拳をしている」


「兄貴に褒められると、嬉しいぞお!よし!この調子でぇ!!」

 アレスとオリオンは、お互いに肉弾戦の訓練をしていた。二人は、幼き頃によく力比べをしてしていた事をを思い出しながら、特訓に望んでいた。お互いがお互いより強く、更なる高みを目指す為に拳を打ち続けた。黒の番犬(ケルベロス)に対する恐怖など、忘れてしまう程に……


 その頃、ルリアーンとチヨコは洞窟の奥を歩いていた。凶暴な動物達を狩る事で、実力を磨くチヨコ。ルリアーンは投げナイフを使った戦闘が、チヨコはクナイを使った戦闘が得意であった。お互い、投擲する刃を使うものとして意気投合し、簡単な物であれば連携も出来るようになった。


「私達、結構相性良いかもねー。よーし、どんどん行こうー!」


「油断は禁物よ。いつこの暗闇から何が飛び出して来るのか分からないのだから」

 前へと早足で進むルリアーンをチヨコは軽く静止する。二人もまた、今まで学んできた投擲の技術などを共有しながら成長していった。


「……何かいる!?」

 洞窟の奥深く、蠢く何かにチヨコは気がつく。ルリアーンが腰に携えるランタンの光が届かない暗闇の先で、蠢いている。


「ネム……タイヨ……」

 年老いた男性のようにも、幼い少女のようにも聞こえる声が、蠢きの元から聞こえてくる。チヨコ達は様子を伺いながらゆっくりと近づく。


「……異形(ヴァリアント)!?」

 声の主は異形(ヴァリアント)だった。それは巨大な蜘蛛の見た目をしていた。しかし、足は人間と同じ物がそのままの形で、ついているようだった。一つ一つの脚に太もも、ふくらはぎがあり、足の先には五本の指も生えている。顔には六つの赤く巨大な目が着いていた。


「人の言葉を話す異形(ヴァリアント)なんて見たことがない!もしかしたら、人間が食べられていて……中から声を!?」

 先程聞こえてきた声はやはり人間の物では無いかと考えるルリアーン。それほどに異形(ヴァリアント)が喋るということは有り得ないのだ。しかし、それを否定するかのように異形(ヴァリアント)は言葉を発する。


「アタタカイモノガ……ホシイヨ……」

 異形(ヴァリアント)は苦しそうに、切実に願うように話す。チヨコはクナイを構えるが、攻撃する事を躊躇っている。ルリアーンもまた、異形(ヴァリアント)が喋るこの状態を受け入れられずにいた。


「昔、聞いた事があるの。異形(ヴァリアント)は、悪い事をした人間の生まれ変わりだって。御伽話や何かだと思っていたのだけど、今は本当なんじゃないかって」

 過去の罪人が異形(ヴァリアント)に転生するという話はアイゼン王国内では知らない人の方が少ない。子供の躾や噂など、様々な形で広がっているひとつの説だ。


「一旦引く……?」

 チヨコは状況整理の為に一度撤退する事を提案する。しかし、後ろを振り向くも、逃げ道には縄と言っても差し支えがないほどの太い糸が張り巡らされていた。異形(ヴァリアント)はその見た目に相応しく、糸を展開し獲物を捉える習性があるようだ。


「逃げるより戦った方が安全かも知れない……一旦変な推測は止めて、生き残る事だけを考えるしかないみたい」

 ルリアーンは覚悟を決めた。彼女はいつまでも目の前の恐怖に対して動きを止め続けてしまう程、弱くは無い。ナイフを取り出し、異形の目に向かって投げる。六つある目のうちの四つが潰れる。ルリアーンに続いてチヨコもクナイを投げる。クナイは残りの二つの目に向かって突き刺さる。異形(ヴァリアント)の視界は、完全に奪われた。


「やったねチヨコ!後は胴体に攻撃を!」

 ルリアーンとチヨコが一斉に異形(ヴァリアント)へと攻撃を始める。ナイフとクナイの連撃が異形(ヴァリアント)の身体を切り刻む。次第に異形(ヴァリアント)の動きが鈍くなっていく。更に攻撃を繰り返し、機能停止まで追い込んだのだった。


「サムイヨォ......」

異形(ヴァリアント)はそう言葉を残して、崩れ落ちていった。己の悪い思考を抑え込み、何とか勝利したルリアーンとチヨコだったが、異形(ヴァリアント)を倒した今、もしもあれが元々人間であったらと考えてしまい、力が抜け、その場に座り込んでしまう。


「帰ろうか、モリスさんの所へ」

 半分放心状態であったチヨコが言う。二人は立ち上がり、洞窟の出口の方へと向かったのだった。洞窟の暗闇が、彼女達をより不安にさせた。ここから先の未来は、暗く冷たいのだろうか。太陽の当たる場所へと顔を出す事は出来るのだろうか。

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