19歳男性の場合 part13
歩いている間、自分たちは無言だった。もう時間がないのに。お互い言いたいこともあるだろうに。最初の一言がお互いに出なかった。収まることのなかったお互いの手が触れた。そこから自然に指を絡めて、しおりは歩きにくくなるだろうに自分に体を寄せた。
その後も無言のまま、自分たちが1番長い時間を過ごしたであろう、仕事場についた。あかりをつけて、手をはなし、いつもの定位置に二人で座った。
「ありがとうな。最後に過ごせる相手が、しおりで本当によかった。」
自分は後悔のないように、重い口を開いた。頑張って言葉を選んで、まず伝えたかったのは感謝だった。そして、自分の正直な気持ちを伝える。
「こんなに楽しい日々は初めてだった。生きていた頃の自分の両親は自分に暴力、暴言が止まらない人たちだった。それが嫌で嫌で、その場から逃げ出して、自分は孤児みたいな感じになった。当時は辛かった。ご飯は食べられない、体は不衛生。しばらくは、誰にも相手にされないまま、幼少期を過ごした。心優しい人に食べ物を恵んでもらったりして、ギリギリで生きていた。そんな生活をしていたある日、恵んでくれた食べ物の中に毒を入れて自分を殺そうとした奴もいた。そいつらは苦しんでいる自分を笑いながら見ていた。そこに来たのが、生前の自分を救ってくれた人だった。今となっては名前すら思い出せないけど、その優しい顔は覚えてる。」
自分の昔話にしおりは何も言わずに耳を傾けてくれた。
「その人に助けてもらって、なんとか自分は一命を取り留めた。そこから、自分はその家にお世話になることになった。その人は医者で、奥さんと二人暮らし。息子のように可愛がってくれた。孤児だった頃とは大きく違う生活。毎日3食食べられるし、体は清潔で、綺麗な衣服を着せてもらえる。でも、自分はどこかで、この人たちのことを信用できてなかった。いずれ捨てられる、いずれ殺されるっていつも思ってた。そんな自分でも、二人は諦めずに、自分の心を開いてくれようとしていた。自分が風邪になれば、一晩中つきっきりで看病してくれたり、自分が興味をもった医学のことについても忙しい中、寝る間を惜しんで教えてくれた。自分が15の時だった。その二人に子供が生まれた。二人にとっては待望の第一子だった。自分に一気に不安が押し寄せた。もしかしたら、捨てられるかもしれないって、でも、そんな心配はその子を抱いた時に、どこかに行った。さっきまで泣いていた子が、自分が抱っこをすると泣き止み、小さな手で自分の指を掴んできた。その時思ったんだ。この子のために生きようって。」
主人公の昔話です。




