32歳女性の場合 part20
しばらくして、私は彼から離れた。車内には彼が運んできてくれたのだろう。私が買った荷物が置いてあった。
「ごめんね。一人で運ばせちゃって。」
「いいえ。見ていた方に手伝っていただいたんですよ。結構大きな声だったんで、色々聞かれてたみたいでしたが、みなさん優しい言葉をかけてくれました。」
家に帰る最中の車の中で聞いたが、「大切にしてやれよ」とか「ビンタが気持ちよかった」とか。色々と言葉をかけられていたみたいだ。
「そっか。感謝だね。」
「そんなに世の中、捨てたもんじゃないですね。結構な粗大ゴミもいますが、それが見えなくなるぐらい素晴らしい人もいますね。」
初めて彼の口から強めの言葉が出た気がした。
「そうだ。夕飯はどうする?もうそろそろいい時間じゃない?」
「なら、薫の手料理が食べたい。」
少年のように答える彼は私に過度な期待をしているように思えた。
「いいけど、簡単な家庭料理しかできないよ。」
「何言ってるんですか?それがいいんです。」
少し失礼な発言にも聞こえたが、まあいいか。
「じゃあ、何が食べたいの?」
「ハンバーグで。」
これも即答だった。少し手間がかかるが、時間もあるし、手伝って貰えば問題ないと思う。
「わかった。少し大変だから、手伝ってね。なら、早速食材を買いに行こうか。」
「はい。」
宗介は表情を明るくして、自分の手を引いて車から出て行った。ここまでテンションが上がる理由が最初はわからなかった。そうか。彼は家庭の味を知らないんだ。




