32歳女性の場合 part14
コップをテレビ前のテーブルにおいて隣り合わせになってソファーに座る。
「さっきの話の続きが聞きたいな。」
私がそういうと、彼はコップに注いだミネラルウォーターを口に運んでさっきの話の続きをしだした。
「実はうちの父親がよく違う女性を連れてくるような人で、その人たちが毎回同じように僕に当たってきたんです。そこから女性が怖くなって、学校でも学校の外でも女性を避けるようになったんです。うちお金持ちなんで、うちに来る人が全員父親の財産目当ての人だけでした。そこから、自分によってくる女性はみんな財産目当てだって思うようになって、女性が好きになれなくなったんです。」
いわゆる女性恐怖症なのかな。まあ、昔から女は美貌、男は権力とはよく言ったもので、権力やお金の持っている男はモテる。それ目当てで近寄ってくる女も少なからずいるだろう。とはいえ、彼の父親はとことん女を見る目がなかったみたいで、その被害が彼に降りかかってきたみたいだ。
「なんで私は大丈夫なの?」
「薫は僕のこと知らなかったし、今まで敏感に女性に反応していたから、ある程度どういう人かわかるんです。この人なら大丈夫だな、お金目当てじゃなくて自分のこと見てくれる人だなって。」
「そうなんだ。」
恐怖を感じるからこそ、その存在のことをよく見ることができる。彼は知らず知らずにそういうことができてしまっていたのかもしれない。
「僕の家に先輩を呼ぶのが怖かったんです。もしかしたら、自分のことを見る目が変わってしまうかもしれないって。でも、薫は変わらなかったから。」
彼の手を見ると少しだけ震えているのがわかった。たとえ、自分の目で確かめても不安な部分が拭えていないのだろう。彼が少し子供っぽい雰囲気を持っているところも今までの話を聞いていて、説明がつく。1人で苦しんでたんだ。誰にも明かさずに。そんな彼が愛おしくなって、震える手を取り、自分の胸に抱き寄せた。
「そうか。ありがとう。話してくれて。大丈夫だから。これからは私もいるから。」
彼は自分の腰に手を回して、強く私を抱き寄せた。初めて女性から感じる安心感だったのかもしれない。自分が着ているワイシャツが湿っていくのを感じた。




