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32歳女性の場合 part9

私が意識を取り戻したのは見知らぬ部屋のベッドの上だった。確かさっきまで裁判を受けていて、変な機械の中に入れられて。そんなことを考えていると扉がノックされた。


「目が覚めましたか?」


白衣を着た少し歳のとった男性が部屋に入ってきた。


「すいませんが勝手に財布の中を確認させていただきました。黒木薫様でよろしかったですか?」


「はい。」


「記憶がないみたいなので状況を説明しますね。あんたがここに運ばれてきたのは昨晩の深夜3時ごろでした。お連れ様が倒れたということで救急車が呼ばれて、眠っている間に検査をしました。急性のアルコール中毒でした。昨日かなり飲んだんじゃないですか?」


断片的な記憶だがだんだん思い出してきた。確か、彼の浮気が発覚して、同居していた家を出たのはいいものの行く宛がなくて会社の後輩の宗介に連れられて、やけ酒をしたんだった。


「先輩起きましたか?」


少し甲高い声の後輩が目を覚ました自分に駆け寄ってきた。昨日出社したままの姿で、手には温かいココアを持っていた。


「さっき状況を説明しました。何も問題はなさそうなのですぐにでも退院していいですよ。お金も後日払っていただいて結構です。」


「ありがとうございました。」


白衣の医師は病室から出て行った。


「宗介くんが救急車呼んでくれたの?」


「はい。めちゃくちゃな量飲んでいるので心配してたんですけど、案の定倒れてしまって、意識もなかったんで急いで呼びました。」


「ありがとね。助かった。」


「いいえ、いつも先輩には助けてもらってばかりだったのでこのくらい。かなり傷心していたみたいだったので、飲みに誘ったのは僕でしたし。」


「昨日の私、変なこと言ってなかった?」


「言ってましたよ。私を捨ててあんな女に手を出すなんてとか、あんな女のどこがいいのかわからないとか。もう、お店の中で結構なボリュームで話していたんで先輩を抑えるのに必死でしたよ。」


酔った勢いとはいえ少し恥ずかしい。


「ごめんね。」


「いいえ。僕も思いましたもん。先輩という方がいながら他所で子供作るなんてって。」


「もしかして、私、そこまで言ってた?」


「はい。大きな声で。」


酔った勢いで自分が発した愚行に、恥ずかしさがさらに込み上げてくる。宗介くんから目を話して正面を向くと時計とカレンダーが見えた。


「今日って何曜日だっけ?」


「木曜日ですけど。」


「早く会社行かないと。」


時刻は9時。行ったところで遅刻は免れられない。


「大丈夫ですよ。会社には休むっていておきましたから。部長も仕方ないから今週はもう来なくていいって言ってくれましたし、僕も特別に先輩のお世話ならと、休みいただけました。」


「もしかして、会社にも話しちゃったの?」


「はい。いけませんでしたか?」


宗介くんは素直でいいのだけども、少しだけデリカシーがないところが玉に瑕。そんな宗介くんにため息が出た。


「あと、先輩、帰る家ないですよね?次の家が見つかるまでうちに来てください。一人暮らしには少し広いので先輩1人くらいなら何にも問題ないですよ。」


急な展開だったが、その言葉に甘えるしかなかった。家がないのは少しまずい。


「そう?なら少しだけお世話になります。」


行く宛もできたので私は、退院の準備を宗介くんと一緒にした。



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