26歳男性の場合 part5
急に強い光を浴びて、気を失ってしまっていたらしい。しばらくして、子供の鳴き声で、目を覚ます。コンタクトをしていないので周りの状況は微かにしか確認できない。体を捻るといつもならそこにいるはずだった妻の姿はない。そんなことを思いながら、重い体を起こす。隣の棚に置いておいたメガネをかける。すると、来年で3歳になる自分の息子が扉の前で泣いていた。
「どうした?」
自分は心配になり、息子に駆け寄る。息子は泣き止まない。仕方なく、息子を抱っこしてリビングに向かう。
リビングからいい匂いが漂ってくる。
「あんた、休日だからって寝過ぎよ。」
自分の母さんが朝食の準備をしてくれていた。
「ごめん。母さん。創が泣き止まなくて困ってるんだ。」
自分の言葉を聞いた母さんは、料理をしていた手を止めて泣いている創を抱き抱えて、慣れた手つきであやす。
「あんたも、辛いだろうけどさ、この子にはもうあんたしかいないんだから少しずつこういうことも覚えておかないと。」
どうやら本当に、元の世界に戻っていたらしい。夢にしてはできすぎてるし、創を抱いている時には温もりを感じていた。母さんの言葉にも、心が揺さぶられている。カレンダーを見ると、自分が自殺してから3日後の世界らしい。
「今日確か、出かけるんだろ。私もついて行くからしっかり準備しな。」
自分が考え事をしている間に母さんは創をあやし終えて、キッチンに戻っていた。
「パパ。抱っこ。」
創が自分にぐずってきた。
「いいよ。おいで。」
自分は創を少しだけ、強めに抱きしめた。
「パパ。痛いよ。」
「ごめんな。ごめん。」
今の自分には謝ることしかできなかった。




