26歳男性の場合 part4
数日後。再び男の裁判を行うことになった。しおりに危害が及ぶのを恐れて、今度は自分1人で男の元に向かった。裁判の時に問題を起こした人間は生前重罪を犯した人間と同じところに収容される。1人ずつの監獄に入れられて誰に会うこともできない。お腹が空いても死ぬことがないので、食事も出すこともない。娯楽もなければ、人と話すことも叶わない。言うならば人間を人間として扱っていない場所だ。どの人間も虐殺や、大量殺人を犯した人間ばかりなので同情の余地は一切ない。
「お疲れ様です。」
看守の方に挨拶される。自分は持ってきた資料を見せた。
「この人間をよろしくお願いします。」
「わかりました。少しお待ちください。」
看守が扉を開けると、すごい声が聞こえる。罪人が暴れる声。扉があいたことで、誰かが来たということで反応したのだろう。何もできない空間で何日も過ごすと人間はおかしくなるらしい。看守は男を連れてきた。
「今度は俺1人だ。警備隊はいない。大人しくついて来れるか?ダメなら、また数日ここにいてもらうけど?」
男はこの中の環境に耐えきれなかったのか自分の言葉に執拗に頷いていた。何度もこういう事があったが、この場で反抗した人間は1人もいない。相当この環境が応えるのだろう。
「ならいい。看守さん、ありがとうございました。」
「お疲れ様です。」
看守さんは敬礼して自分たちを見送る。男は本当に大人しかった。反抗することもなければ、自分に引っ張られるまま裁判所につく。
『今日ここでお前の裁判するから、大人しくするように。あと、質問には素直に応えること。今度暴れたら、わかるな。』
男は頷いた。まだ一言も発していない。
「お帰りなさい。もう準備はできてます。」
しおりが迎えてくれた。先日の大掃除でかなり綺麗になった。整理整頓が行き届いていて、自分が置きっぱなしになったものは、しおりが片付けてくれている。
「そうかなら早速始めようか。そこの椅子に座ってくれ。」
男は自分が指定した椅子に座る。しおりと自分もいつもの席に座った。自分は男の資料を開く。男の名前は佐久間勉。26歳。職業はサラリーマンで子供が1人いる、幸せそうな感じだ。死因は飛び降り自殺だ。
「あなたが自殺した理由について教えてください。」
自分は勉さんに投げかける。
「妻が交通事故で亡くなって、それに耐えきれなくなりました。」
勉さんは自分の質問に普通に答えてくれた。つまりは後追い自殺ということだ。
「そうでしたか。お子さんは?」
「わかりません。何も告げずに自殺しました。」
「わかりました。では、判決にしましょうか。」
勉さんは少し驚いた感じだった。
「自殺に関する判決は一つしかないので、一応確認事項を確認できたらすぐに判決を出すことになっているんです。」
勉さんから質問がないのでそのまま判決を言う。
「あなたには1日だけ差し上げます。あなたが死んだ後の世界に。そこで自殺したことを悔いてください。以上です。何か質問はありますか?」
勉さんは再び驚いた顔をしていた。そして口を開けた。
「それだけですか?」
「まあ、そうなりますかね。自殺自体は日本では罪にならないのですが、ここは天界なのでいろんな国の人がいるためある程度平等にしなければいけないんです。自殺の人に苦痛を与えることは良しとはなってませんから。」
勉さんは理解したみたいだ。
「あと、もう一ついいですか?」
「はい、どうぞ。」
「私は妻に会えるのでしょうか?」
後追い自殺の場合、こっちで会えると思い込んで自殺をする人もいる。残念ながら合わすことは絶対にない。でも、そのまま伝えるのはよくないと思ったので伏せることにした。
「その質問にはお答えできません。理解してください。」
勉さんは顔を伏せてしまった。
「時間もないので早速いいでしょうか?」
「はい。お願いします。」
「しおり、準備はいいかな?」
しおりは奥の部屋に入り、準備ができているかどうか確認する。
「大丈夫です。」
「では、勉さん。奥の部屋に来てください。」
勉さんを連れて、奥の部屋に入る。勉さんは少し驚いた様子だった。
「このカプセルの中で寝てください。そうしたら、かなり強い光に包まれるのでそこから1日後にお迎えにあがります。それまでは自由に過ごしてくださいね。」
勉さんは大人しくカプセルの中で横になった。
「では、始めます。悔いのない1日を過ごしてください。」
自分はスイッチを押して、カプセルを起動させる。勉さんは強い光に包まれていった。




