中学一年生男子の場合 part35
自分は幸助くんのことを握っていた掌を見つめた。
「本当に何も残らないのですね。」
「そうだな。」
会話は少ない。会話をするような雰囲気ではない。何度も経験してきたこととはいえ、何の感情もないわけではない。この虚無感にはいくら経験してもなれる気がしない。何もない。何も感じない。存在が消えるということがどれだけ怖いことか。ここに来るたびに実感させられる。振り返るとしおりの顔は悲しさで溢れていた。
「大丈夫か?こんなことが毎日続く。嫌ならやめてもいい。上に俺から言っておく。」
この光景が耐えられないものだということを知っているからこそ、自分もあえて簡単にやめられることができるようにしている。逃げ道を作っておかないと、悲惨なことになることを俺は知っている。自分はもう腹を括っているから大丈夫だ。自分がやらないといけない使命感でなんとかここまで繋いできた。
虚無の中に2つだけひかるものがあった。自分はそれを拾い上げる。
「なんですかそれ?」
「幸助くんが生きていたという最後の証だよ。」
しおりに見せる。
「これまで消えてしまうと俺たちも幸助くんのことを忘れてしまうからね。そろそろ、帰ろうか。」
自分たちは幸助くんの世界があった場所からもとの世界に戻った。証だけを手に持ち、完全に消えた存在を思いながら。
次回、幸助くんの物語の最終話です。




