4話:拠点と実験
女神パート。死体を弄び始めます。
拠点を作るにあたってまず必要な物は、土地と資材だと聞いています。
土地は目星がついていますので、資材を確保することにしました。難しいことではありません。城壁を持ち、基地として運用されている建物がどのような資材で出来ているのかを確認したら、道すがら少しずつ周りの物資を頂いていけばいい。
基地として運用されている建物というのもこの近くにありますし、目星をつけた土地に行くまでの道のりで全て事足りそうです。
騒ぎになってはいけないので、バレないように物資を頂きます。内側から頂いて、スポンジのように少し残しておけばしばらくは大丈夫。建物などは少し強度が落ちてしまうかもしれませんが、地面の下や生えてる木などから優先的に頂いてしまえばさほど目につくこともないでしょう。
歩きながら得た資材は私の頭上に集め、見えないように保護をかけて。土地までの道を堂々と進んでいきます。勇者は私の少し後ろをついてきます。
そうして誰にも見つからず、無事に目的地に到着しました。
王国と魔物の領地との境界付近、迷いの森とも呼ばれる鬱蒼とした森の中。魔物の領地に入ってしまえば人間に気づかれることもないでしょう。ここが私の目的地です。
周りには、境界を示すために従魔がうろついているので、建物を建てる予定地付近を掃除することにしました。
勇者に剣を与えます。道すがら取っていった金属を少し取り練り上げ、一本の剣に。それに私の加護をかければ聖剣の出来上がりです。
勇者は与えられた剣を使い、生前と同じ手際で従魔を倒していきます。
急に従魔が減って、魔物達はびっくりするでしょうけど、ごめんなさいね。私の目的のためにあなた達の土地を借ります。
あらかた片付いたのを確認したら、使用する土地を世界から少し隔離します。これで誰も入ってこないし、私は周りを少し俯瞰して見ることが出来ます。人の似姿を取ると、うまく周りが見えなくていけませんね。
こうして、土地の確保に成功しましたので、次は建物を作っていきましょう。得た資材を練り上げ、先程得た拠点らしさのイメージを元に作っていく。やはり人間の建築のことはわからないので、少々違う部分はありますが、概ねいい感じに出来たと思います。
建物が完成しました。元々この地にあった木は、薪や装飾、家具などに作り変えました。これで拠点の完成、復讐の始まりです。
出来た拠点には寝室や食堂など、私には必要のない部屋がいくつかあります。あった方が拠点らしくていいと思ったので作ったのですが、勇者の身体に損傷が見られたので、寝室のベッドで寝かせ、回復魔法をかけておきます。今日は満月。私が魔力をかけなくとも、月の光の魔力で充分回復出来るでしょう。
損傷、というのは難儀なものです。身体に強化魔法をかけても、無理に力が加われば内側から損傷し、崩れてしまう。生きている、というだけである程度の強度が保障されるのが生き物の特権ですので、死体の脆さをきちんと頭に入れておかないといけませんね。
勇者が回復している夜の間、せっかくなのでいくつか実験をしてみましょう。
周りには従魔の死体がそれなりにありますからね。
従魔の死体を庭に集めてきました。内部構造を確かめる為に死体には必ず触れておきたいので、わざわざ手で持って引きずって持ってきました。
狼種、植物種、ゴブリン種の新鮮な死体です。
スライム種はすぐ地面に溶けてしまうため、回収出来ませんでした。彼らはきっと役に立つと思っていたので残念です。
まずは動物と植物の違いを確かめるべく狼種と植物種を一体づつ動かします。
いくら生前の動きが出来るといえど、足が一本ないのでは上手く動けないですね。足のない狼種の足を取ってくるのは面倒なので、その辺の石や木の枝を練り上げて義足を作ってはめ込みます。いくらかマシにはなりました。
植物種はなんだかおかしな動きをしています。自重を切り裂かれた茎で支えることが出来ないためか、地を這うような動きをします。これはこれで愛嬌がありますね。
次は肉体強化の魔法をかけ、損傷具合を確かめます。
狼種に走ったり跳んだりしてもらうと、すぐ変化が現れます。関節あたりの肉の損傷が激しく、また筋肉を無理に動かすことで肉が内側から破壊され、肉体強化の成果なく崩れていってしまいました。
植物種にも動き回ってもらいましたが、こちらは結構よく形を保っていますね。植物そのものが動物と比べて丈夫だからでしょうか。もし植物の要素を動物に取り入れることが出来るなら、関節部の問題は解決しそうです。柔軟性があり、かつ強度の出る繊維質を取り入れるとか。
こうなると、人に近い形をしたゴブリン種の死体が一つ手に入ったのは幸運でした。本来ここには生息していないので、きっと斥候かなにかだったのでしょう。狼種と植物種で得た結果をゴブリン種に組み込み、実際の動きを確認することが出来れば実験はより良いものになるはずです。
夜が明けるまでに大方の実験を終わらせました。大体の死体は使い物にならなくなりましたが、植物種の一つが余ってしまい、損傷も少ないのでこの敷地で育てようかと思います。
使い物にならなくなった死体達を食べさせていきます。植物種は食べた物を高粘度の魔力に変換して消化するので、その機構を動かしてやれば、生前と同じように成長することが可能でしょう。これからは、使い物にならなくなった死体があなたの食料です。
せっかくなので、名前をつけましょう。
植物種、生前より勢いよく食べるようになったあなたの名は…。
バクちゃんです!
さて、そろそろ人間が朝食を取り始める時間。
昼頃までに、勇者の強化を済ませ、出かけたいところですね。
さぁ、最初は誰の元に行きましょうか。
私は姫の死の詳細を知らないし、勇者がいかにして罪をなすりつけられたかも詳しく見ることが出来ていない。女神の視点ではどうしても細かいところを見ることが出来ないのです。この人の似姿ならば、見えてくるものもあるでしょう。
であれば、嘘をつかぬ者からにしましょう。
私のよく知る人間。神官ライヤも特に手塩にかけたという、愛すべき神官見習い。
慈悲深く、しかしその優しさは時に甘さとなり、頻繁に騙され、その度に泣きを見ていた愛らしき者。
僧侶セマ、あなたの元へ向かうとしましょう。