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3.5話:接敵

魔王パート。グロくない。

勇者の死から半日が経った。


魔導兵隊は即座に行動し、足りなくなった人員は頭の良い従魔を動員し、指令を遂行している。


機動兵隊は対女神訓練のカリキュラムを組んでいる。まだ始まったばかり、成果は望めない。


我輩はというと、従魔の生成と調整を行なっている。


従魔とは、我々魔物が女神の元を去った時、女神の加護の代わりに与えられた力である。動物に近い生態を持つ、魂こそないものの意志を持ち忠実に動く我々のしもべ達。それを生み出す力は代々魔王により使われ、少ない魔物達を守る兵として従魔を運用している。人間達は姿形が違うにも関わらず、我々と区別がつかないらしく従魔のことも魔物と呼んでいるようだ。


我輩は、国境付近には境界である事を示すために弱いものを、拠点である我が城に向かうにしたがって強く頭の良いものを配置している。様々な姿のものがいるので、それらをいかに配置するかは魔王によってばらばらだ。


その従魔を、昨日から休みなく作り続けている。対女神用に、改めて調整したものだ。環境の変化に強いもの、女神の力に耐性のあるもの、村一つを強固に守ることが出来るもの、シェルターの役割を持つもの…。魔物を守り、かつ戦いに負けないように。


流石に魔力も切れ疲れ果ててしまったが、月の光があれば我々は少しずつ癒されていく。


今日は満月だ。回復には申し分ない。寝室は月の光を多く取り込めるよう、特殊な大窓がついているため、今晩はそこで眠れば明日には全快することが出来るだろう。






とは言うものの、我輩はあまり満月が好きではない。


昔、まだ小さかった頃、満月で力が有り余った大型の従魔が我輩を加えて飛んでいったことがある。なんとか兄上に助けてもらったものの、あの頃はしばらく従魔が恐ろしかった。


まだ一兵士であった頃、満月による力の増大から気が大きくなってしまった我輩は、同じく強くなっているはずの仲間に勝負を挑んでこっ酷く負けてしまったことがある。ただの自業自得であるが、それ以来満月の時ほど気を引き締めるようにしている。


まだ兄上が魔王であった頃、満月の日に勇者と決着をつけることになった。お互いに長く苦しい戦いだった。我輩は勇者の仲間によって倒され、命こそまだ取られていなかったものの、動く気力も残っていなかった。勇者は最後の力を振り絞って大技を繰り出した。それは、満月から降り注ぐ魔力をもって敵を貫く魔法だった。…兄上は死んだ。相手がほんの一枚上手だったために。


嫌なことが起こるのは、大抵満月の時だ。


だから我輩は寝る。満月など早く過ぎ去れば良いのだ。


我輩は今までいた大広間を離れ、寝室へと向かった。







びりり、と身体を嫌な感覚が走る。


国境付近、森の中で従魔が何かと接敵した。境界沿いに居を構える人間と接触した、刺激を求めて従魔狩りをしている人間と接触した、といった時の、いつもの生易しい感覚ではない。我輩はこの感覚を知っている。


勇者だ。勇者と接敵した。


接敵した辺り一帯の従魔を一層している。







勇者が蘇生するはずがないのだ。女神は裁かれた人間を蘇生することは出来ない。それは物理的に困難なのだ。だから勇者だからといって特別に生き返らせる、などということは出来ない。


ならば何だというのか。勇者の死体を弄ぶ者がいるということなのか、それとも勇者の死は偽装だとでもいうのか。


死体は祭祀場下の死体安置所に一度保管され、罪人であれば軽く葬儀が行われてから埋葬されると聞く。その際に、死術師によって奪われ悪しき事に使われているか、身体だけでも兵として再利用してやろうという事なのか。


勇者の死が偽装であれば、我輩の采配は間違ったことになるが、偽装であるかもしれぬと分かればそれなりの対策を講じればよい。ただし、偽装であれば、こんなところで尻尾を出すはずもない。





勇者は攻撃をやめた。周辺の従魔には勇者が去った頃合いを見て戦いの痕跡を持ち帰ってくるよう命じた。


勇者が去ったらしく、従魔が移動を始めたようだ。


しかし、勇者がいたらしい場所に近づくことは出来ないようだった。結界が張られたようで、そこらの従魔には突破することが出来なかった。


そこで、念のためと近くの施設に配属していた高位の従魔を向かわせようとしたが、その従魔の感覚を感じ取った我輩は戦慄した。


勇者と接敵したあの場所には結界は張られていない。


向かわせているものの、近づいても一向に結界の反応は見えてこない。いや、それどころか…。


あの場所は完全に世界から隔離されている!!






そのようなことが可能な者は、この世でただ一人。


女神のみである。







何故だ?


勇者の死体を持ち出し、しかも動かす、などと!


そこまで勇者に関心があるとは思わなかった!特定の人間に肩入れするどころか、人の心など丸きりわからぬあの女神が!


あぁ、であれば我々は…。


勢いよく扉がノックされ、魔導兵隊の連絡員が入ってきた。


「お休みのところ失礼します、魔王様!!先程境界付近にて空間が丸ごと消失する以上が発生!!その際、女神の物と思われる高魔力反応を確認しました!!」


我々は、完全に後手に回ったのだ。

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