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2話:愛しき者を殺した者達へ

前回より長いです。まだグロくないです。

勇者の肉体。魂は安息の旅に出かけ、今や抜け殻のようになってしまった、愛しきあなたの体。


あなたは死んでもなお、あなたをこんな目に合わせた者達の罪を問おうとはしないでしょう。私がどれだけ怒りを伝えても、「理由があったのだから」と私をたしなめるのでしょう。


しかし、ごめんなさい。私はあなたの肉体を借り受けます。私自身の怒りを示すために。


私は勇者の肉体に、私の思ったままに動くよう魔法をかけた。縫われた首は少し不安定ですが、おおよそ生きた人と同じように動くことが出来るでしょう。


あなたの肉体を使ってでも、私は成し遂げなければならないのです。あなたを殺した者への復讐を。




あなたがきっと許してしまうその「こうなってしまった理由」こそが、私が絶対にして欲しくなかった事なのですから。







麗しの姫君、シェリエ。王国の皆に愛された人。


私も、彼女を愛しておりました。人の営みを見守る役目を持つ私にとって、皆に愛し、愛された彼女はまさしく私の思い描いた国の象徴。人間の良心、優しさ、聡明さ、少しの厳しさ。それらを併せ持つ彼女こそ王に相応しい、勇者と共にあるべき人。


姫は私の血を引いています。女神の血は、女神が認めた者にのみ授けられるもの。私は彼女にも特大の愛を注いできました。


その血と、高潔な魂を、辱めた者達がいる。


その罪を全て勇者に着せた者達がいる。





少し、昔の話をしましょう。


大きな大きな厄災が降りかかったことがありました。それは剥き出しの力そのもので、多くの人間と魔物が傷つき、死んでいきました。その頃も人間と魔物は仲良くありませんでしたが、全てを根絶やしにせんとばかりに振るわれる力を前にしては、団結するしかありませんでした。


その時の私は彼らに関心がありませんでしたが、世界が滅ぶかもしれないとなれば協力せざるを得ませんでした。


人間と魔物の区別なく、皆が生きることを望み、前に進もうとしていた。お互いに手を取り、立ち向かう。そのための力を、私は惜しげも無く与えていきました。


気づけば私は彼らの側で、一緒に戦っていました。傷ついた者を癒し、彼らを鼓舞していく。命を削ってまで魔法を使い、彼らに助けられて、そうしてようやく厄災を倒すことが出来ました。


数多くの犠牲が出ました。


倒した厄災の体を三つに分けて、一つは私に、一つは人間に、一つは魔物に、と分け与えていきました。こうして私は死者を蘇生させる力を、人間と魔物は私と同じように魔法が使えるようになりました。


そして、厄災の邪悪な魂と、人間や魔物にとっては手に余る力とを固く封印し、世界の危機は去ったのです。





その、封印した厄災を、解放しようとした者達がいる。


私が愛した勇者は他の勇者とは違う。魔物との戦いを収める為に今までを生きてきた。魔王と度重なる交渉の末、もうすぐ和解が成立するといったところだった。


もちろん、皆に反対されました。勇者といえど和解は無理だろう、より民を傷つけることになるだろう、と。彼の仲間には魔物に傷つけられた者もいたので、和解は到底受け入れられないということでした。


勇者の周りから、一人、また一人と去って行き、気づけば彼を支持する者は姫君のみとなっていました。姫君は和解の為に動くことは出来ないので、勇者は一人でその重荷を背負い続けました。


国王や元仲間達は、この代で魔王との戦いを終わらせようと躍起になっていました。勇者は使い物にならないから、別の力を使い、魔王を打ち倒そう。そんな話で持ちきりでした。


そして、国王は言いました。


「古より伝わる厄災を、なんとか手懐けられないものか」





彼らは城中を調べ、その手がかりを見つけていく。


厄災を目覚めさせるには、女神の血が必要。とどめを刺した私を今でも恨んでいるから。厄災を大人しくさせるには高潔な魂が必要。卑しい存在である厄災にとって眩しいものだから。


なんと人間本位な、勝手な考えでしょう。


そんなものを捧げても、復活させることは出来ません。そのように封印しましたから。封印の前で女神の血を流せば、ほんの少しだけ力が漏れ出してしまうこともあるでしょう。私にとっては本当に些細な規模の力ですが、人間にとっては人一人吹き飛ばす程の力が勢いよく放出される。その程度です。


私には人の心がわかりません。ですので、この計画を何を思って立案し、何を思って賛成したのかはわかりません。しかし、私を祭祀場から動けなくし、一部始終を見ることしか出来なくしたのですから、後ろめたくはあったのかもしれません。





そうして、封印を解くという計画は満場一致で可決、生贄に姫を選び、儀式は行われて、失敗しました。


姫の魂はよじれ、潰れ、私の手では蘇生出来ないほどぐちゃぐちゃになっていました。死んだ人間のように肉体との繋がりがふつりと切れる訳でもなく、罪を犯した者のように繋がりを切られるわけでもない。魂そのものが、痛々しいまでに変形していた。これでは、死後の世界へ赴くことも、生まれ変わることも出来ない。魂の死。この世の誰もが経験しなかった凌辱を、なぜ何の罪もない姫が受けなければならないのでしょう。


姫の体は血が止めどなく流れ、放出された力によって体がねじれ骨が砕けていました。人間でも肉体の死は観測出来る。その場にいた者達は彼女の死をもって、儀式の失敗を知ることになりました。






自らの過ちを、全て勇者になすりつけたあなた方は、勇者が死にゆく時何を思っていましたか?


私にはわかりません。


勇者も、あなた方もずっとこの目で見てきましたが、最後まであなた方の気持ちはわかりませんでした。






国王ヴァルディン、かつて勇ましく魔王に立ち向かった先先代の勇者であった者よ。


大臣トック、頭の良い参謀で、家族を何より大事にしていた者よ。


第二王子ファロン、妹である姫君シェリエを兄弟一愛していた者よ。


魔術師ミレーヌ、勇者を愛し、誰よりも勇者の役に立とうとしていた者よ。


戦士コウゾ、傲慢だが仲間の中で誰よりも力強く人を守ることが出来た者よ。


盗賊ヤーベン、勇者に命を救われ全うな道を歩もうとした者よ。


剣士ムカネ、家族の仇を取る為に血の滲むような努力をした者よ。


僧侶セマ、私に仕える者の中で一番熱意と愛らしさのあった者よ。




私はあなた方を許さない。

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