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ラブリーキスキス・デスアンドチョコレート  作者: 岩崎シネマ
1章「これを絶望と言わずに何と言うんだ!」
5/20

#4「完全は密室」

【同日 午前10時26分 / 廊下】

ー 今から64分前 ー


櫂は教室の前にいた。

体育館では未だ、二晩教頭による全校集会が行われているが、櫂はそこから抜け出し教室の前までやってきていた。


どうしても気になってしまったのだ。

集会を抜け出した乙木と桜薔薇の様子が。


「あいつら…まさかな」


盗み聴きするつもりはなかったが、二人が話していた内容は櫂の耳にも届いてしまっていた。


『今から二人で話せない?』


『ここを抜け出して、どこかの教室で、いいでしょ?』


覗き見するつもりなど毛頭ない。

二人の様子を確認する、そう、ただそれだけのこと。

それに、桜薔薇のような人間が乙木に気があるとは思えない。


だが、もし万が一のことがあったら…。

親友の乙木についに彼女が。

思わず顔がにやけてしまう。


櫂は教室の鉄の扉を開けようとする。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

時、程なくしてマーガリートのスマホに一通のチャットが届く。


『櫂:お前、今日、日直だったよな?』


次なる王たる身。

マーガリートは大人しく体育館で二晩の言葉を聞いていたが、同時にクラスの長たる身。

クラスメイトの疑問は早急に回答してやらないわけにはいかなった。


『マーガリート:そうだ』


『マーガリート:私はクラスの長たる身。今日だけでなく、”毎日"日直を努めておるぞ』


櫂からの返信はすぐに返ってくる。


『櫂:1年HELL組の教室の鍵って持ってる?』


『マーガリート:鍵?持ってないぞ、どうしてだ?』


『櫂:教室の扉が開かないんだ』


『マーガリート:まさか、鍵なんて今まで一度もかかっているところなど見たこと無いぞ』


『櫂:そうだよな…』


『櫂:ちょっと教室まで来てくれないか?なんか変なんだ』


『マーガリート:分かった』


マーガリートは迷うことなく返信する。

クラスの長たる身、クラスメイトが困っていれば、すぐに助けにいく。それが当たり前の努め。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

体育館から教室までは歩いて10分近くかかる。


マーガリートは困っているクラスメイトのため、足早に廊下を進み、ずらりと並んだ多くの教室から、室内札を確認しながら「1年HELL組」を探す。


1年HELL組の教室を見つけたのは体育館から出て12分後のことだった。


室内札があったのと、教室の前に櫂がいたからマーガリートにもここが自分の教室だと気付くことができた。


普段なら、あともう10分はかかってしまっていたことだろう。


「どうした櫂よ。高貴な血筋の私自らやってきてやったぞ」


「あぁ、ありがとな、マーガリート」


そして櫂は1年HELL組の教室の扉が開かないことをマーガリートに伝える。


「なにかの勘違いではないのか?だがしかし案ずるな、勘違いとは誰しもがするもの。私自ら確認してやろうではないか」


念の為にマーガリートも教室の扉を開かないか試してみる。


教室の扉は、前方と後方の二つ。

そのどちらもマーガリートが押してみるが、中から鍵がかかっているのか開くことはなかった。


「確かに開かない…中に誰かいるのか?」


「もしかたら、乙木と桜薔薇がいるかもしれない。でも扉を叩いても、電話をかけても返答が全くないんだ」


櫂は心配そうな様子でそう呟く。


教室に鍵がかかっていること事態初めてのことであり、どれだけ声をかけても返事は返ってはこない。


しかも、国王選挙の開催が告知されたばかりとくれば、どうしても嫌な予感は過るというもの。


「入学時の説明会で確か聞いたことがあるぞ。守衛が各教室の鍵を持っていると」


「そうか…あぁ、確かに俺も聞いたことがある!流石だよマーガリート」


「ふん、私を誰だと?このクラスの長であり、次なる王たる男、それぐらいのこと当然ながら知っておる」


「なぁ、その守衛から、この1年HELL組の教室の鍵を貰ってきてくれないか?」


「何故、高貴な血筋の私がわざわざ鍵を取りにいかなければならないのだ?」


「それは…乙木が心配なんだ。あいつ俺の親友だし、もう少し、ここから呼びかけてみようと思ってるんだ」


「なるほど…ならばよかろう今回は特別だ。私自ら守衛から鍵を貰ってこようではないか。それがクラスの長たる努めというもの」


そうして、マーガリートは困っているクラスメイトのため、再び守衛室へと向かう。


守衛室は体育館の近くにあると聞いたことがある。

つまりは、往復で20分以上かかってしまう。それでは時間がかかり過ぎる。


クラスメイトが困っているんだ。一刻も早く解決してやらねば…それが自分に課せられた責任。


まだ春だというのに汗が滲む、息が上がる、走る反動で腹が揺れる。

ここまで来るのに体力の殆どを消費してしまっていた。


だが、それでもマーガリートの足は止めることはない。むしろ責任に突き動かされたその足は徐々にスピードを上げ、廊下を全力で疾走するその姿は、まさに王自ら戦場を翔けるアレクサンドロス3世の如くであった。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【同日 午前11時7分 / 廊下】

ー 今から23分前 ー


マーガリートが守衛から鍵を貰い1年HELL組の教室へと戻ってきたのは18分後のことだった。


「ハァ―…ハァ―」


汗は廊下へと滴り落ち、心臓は異常なまでに鼓動を早め悲鳴を上げている。

一方、櫂は教室の扉を叩きながら、中にいるであろう二人に声を掛け続けていた。


ずっとそうしていたからか、櫂はいつの間にか学ランを脱いで白のワイシャツ姿になっている。


「乙木ッ!桜薔薇ッ!!」


だが返事は依然として無いようだ。


「ど、どうやら、ハァ―…わたしは、ハァ―…わたしはここまでの…ようだ、ハァ―…」


「あとは…あとは…頼んだぞ…」


マーガリートはそう言い残し、守衛から譲り受けた教室の鍵を櫂へと託す。


鍵を受け取った櫂が扉に差し込もうとした時だった。

どうやら全校集会が終わったらしく、体育館から同じクラスの萌杉とエドガーが戻ってくる。


二人は慌てた様子の櫂とマーガリートにすぐに気がついた。


「どうした櫂殿、マーガリート殿、そんな慌てふためいた様子で」


櫂は口早に事情を説明する。


「男と女が二人きりで教室で話と…なるほどねー」


「つまり僕の推理によれば、なんらかの話を乙木と桜薔薇はこの教室でしていたようだ」


エドガーが賢そうに顎を撫でながらそう言う。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

1年HELL組 男子 出席番号3番 15歳

『エドガーロック・アポロ』

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


推理などと言って、同じことをそれっぽく繰り返すだけのこの男の言葉に一分一秒を使うのも勿体が無かった。


「このような破廉恥なこと、桜薔薇親衛隊長として聞き捨てならん、絶対にならんぞ!!」


萌杉は櫂から鍵を奪い取ると、すぐに教室の前側の扉に差し込んだ。

鍵はガコンッ、と大げさな音を立てて開くと、萌杉はそのままの勢いで扉を押し開ける。


「乙木迷太ッ!御用改めであるぞぉおお!!」


教室になだれ込む萌杉、櫂、エドガー、そして蹌踉めきながらも少し遅れて入るマーガリート。


四人が見たのは、教室の中央で血を流し倒れている桜薔薇。

そして、その近くで倒れている乙木の姿であった。


「さ、さ、桜薔薇嬢ぉおおおおッ!!」


萌杉はすぐに桜薔薇へと駆け寄る。

櫂は乙木の元へ。


「し、死んでいる…」


萌杉は絶望した様子で呟いた。

心臓を一突き。そして、畳の床に広がった血を見れば確認するまでも無かった。


「乙木は…乙木は息がまだあるぞッ!」


教室は密室。

状況からすれば、乙木が桜薔薇を殺したと考えるのが打倒。

しかし、ここにいる全員がそうは思えなかった。

“あの乙木が”人を殺すなんて想像すらできなかったからだ。


「部屋は密室…誰か、別の誰かが身を潜めているのかもしれん」


萌杉たちはすぐに教室の中を確認した。

掃除用ロッカー、教卓の裏、人が隠れそうな場所を一つずつ確認する。

だが、教室には自分たち以外誰もいない。


「教室の前後の扉は外側からでは開けられず、中に隠れていた人間もいない」


「つまり僕の推理によれば、この教室の扉には鍵が掛けられており、中には乙木と桜薔薇しかいなかったということだ」


エドガーは賢そうに顎を撫でる。


「ハァ―…まさか、ハァ―…乙木が桜薔薇を…ハァ―ハァ―」


マーガリートの一言に全員が顔を見合わせる。

状況からすればそうとしか考えられない。


「だが、鍵…そうだ、鍵があるじゃないかッ!」


櫂は声を上げる。

守衛はこの教室の鍵を持っていた。

つまり、守衛から鍵を借りればこの密室は、誰にでも作ることが可能だ。


「なるほど、たしかに櫂殿言う通りであるな。これは守衛に聞く必要があるな。この教室の鍵を借りた人間が我々以外にいるか」


「マーガリート!」


「ハァ―…なんだ?高貴な…血筋の私に、ハァ―…なにかようか?…ハァ―ハァ―」


「頼む、守衛からこの教室の鍵をお前より前に借りたヤツがいないか聞いてきてくれないか?」


「わたしが、ハァ―…わたしに…もう一度、ハァ―…あそこまで、行ってくれと…」


櫂は頭を下げる。


「すまない。まだこの近くにナイフを持った犯人がいるかもしれないし…乙木の意識がまだなくて不安なんだ」


「ハァ―…わかっ…分かった、ハァ―、私自らいって…行って、ハァ―…やろうではないか」


マーガリートは重たくなった足を無理やり上げて再び守衛室へと走リ出す。

心臓も肺も爆発しそうだった。だが、それでもマーガリートはその足を遅めることはなかった。

何故ならそれがクラスの長たる努めなのだから…。


そして10分後、マーガリートからのチャットが櫂のスマホに届く。


『マーガリート:守衛に聞いた』


『マーガリート:1年HELL組の鍵は』


『マーガリート:この学園に、さっき借りたヤツ1つしかない』


『マーガリート:それに、守衛が鍵を貸したのも今日が初めてらしい』


『マーガリート:さっき私が借りたのが初めてだと』


『マーガリート:どうやら私はここまでのようだ…』


『マーガリート:あとは任せた…』


『マーガリート:・・・』


つまり、この教室を唯一外側から密室状態にすることが可能な鍵は、守衛がずっと持っていたことになる。

完全密室。こうなると桜薔薇を殺すことができたのはただ一人しかいなかった。


教室の中で、気を失い倒れていた乙木迷太だけしか…。

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