表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼女が仕事を辞めた訳

作者: 林檎

彼女が仕事を辞める。

 

私より、3年程前から勤めていた彼女は、もう15年目くらいになる。スタッフが13人程のNPOで、もう最長の次位の経験年数だった。

 

彼女は、悪口を言わない。何か思う所があっても、多分笑い飛ばしてきたんだと思う。そして、何でもないというふりをしてきた。なぜ、彼女がふりをしていると断定するかというと、私もそうだからだ。気にしてない。気づいてもない。何もなかった。人の悪意に気付かない善良で鈍感な幸せな人でいたい。その為に、ヒリヒリした気持ちを押し込めて、何もなかった様に笑う。


 彼女は、いつも笑顔で、とぼけた事を言って皆を笑わせたりしていた。彼女の空気に救われる事も多かった。


 ちょっと抜けている所もある彼女は、たまに失敗したり、忘れていたり、何度言われても覚えない事があった。それでこのところは、NPOのトップにひどく注意されている事が多かった。

 彼女の良さも悪さも。誰にだってそんな物はある。今までだって彼女は変わらなかったし、彼女は彼女のままでいいのだ。私達の仕事では、気持ちや優しさや楽しさが求められる部分がある。彼女の良い所はかけがえがなかった。きっとトップも、具体的な事柄を改善してくれればいいと注意したのかもしれない。


 ただ。

執拗に注意する必要はあっただろうか。一度気になったら何ヶ月も蒸し返してネチネチ言う必要も。皆の前で激昂して追い詰める事は皆の前で落としめる事ではなかったか。その場にいない時に陰でそんなに悪くいう程の事をしたか。

 たかがほんの些細なミスだ。頑張ってやっている上での、落ち度だ。

 トップは失敗したのではないか。彼女を育てるのではなくて、つぶしてしまったのではないか。


 トップはそして、腰巾着になってゴマをすってくる人や、気を使って持ち上げてくる人だけを重用する。そういう人達は、トップが誰かを悪く言えば同意してみせる。


 トップに立つ人は、自分の向く方向に人を引っ張って行かなくてはならないから、自分を強く持たないではできないのかもしれない。強い言葉で引っ張る必要があるのかもしれない。

 そして、トップがトップであるがために、誰からも注意されず反省の機会がない事も、自分がなじられる経験がない故に相手の気持ちが分からない事もあるかもしれない。


 ワンマンな社会では、閉鎖的で独断的になりやすい。世の中のワンマン社長の中には、自分の正義を振りかざし、強く言い返してこない弱い人を無意識で選び高圧的な態度に出る人もいるらしい。本人の抱えるストレスが、無意識にそれをさせる。

 ここで重要なのは、無意識な事だ。本人は、正義を振りかざしているつもりだが、実際やっている事はその人を育てようとかいう事よりも感情をぶつけてけなして立場を悪くしているだけの事だ。

 でも人は弱い。誰でもが加害者になりうる。私も、自分より弱い立場の人にそうならないように、心に刻む。


 ギリギリまで、笑顔で、気にしてないふりで、彼女は行く。いいのだ。彼女は打ち明けてくれた。夢があると。実現可能な夢だ。もう一歩はふみだしていた。

 「本当は、辛いし、今陰で何か言われてたなって空気がわかったし、それでもわかってないふりをしていた。」

 と、話してくれたのは、私も同じ目にあってきたからだろう。

 「よく笑えるなって、思ってた。」

と、私に言った。

 多分、一緒だよ。と伝えた。伝わったかどうかはわからない。


 強く、主張している人が、大人しい人に当たり散らすのは、子どもっぽい甘えだ。わがままな子どもが癇癪をおこしているみたいな物のように見える。

 人の上に立つのは難しいだろう。お互い逆の立場はわからない。でも、上に立つ人は、人を育てる勉強をし続けてほしい。そしてたまに誰かに注意される機会をあえて作ってみてほしい。


 私はまだ、ここでやりたい事がある。トップの為ではなく、自分のために。

 明日も笑っていく。

 

 


読んでいただいてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ