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好かれる努力




過去を思い出すのは苦手だ。それは、必然的に両親の事を思い出すからだ。


それでも、遥希の事だけ。遥希の事だけを思いだそう。小3の頃の遥希は、今思うとめちゃくちゃ可愛かった。


「聡太、お願い!!」

遥希は給食の時間が始まると、すぐに手を合わせて頼み込んで来た。

「煮物のにんじん、食べてくれない?」

「また?この前は食べてたじゃん。」

「シチューは大丈夫なんだけど、煮物はダメ~!プリンもつけるから!お願い!!」

そういえば、小3にもなって、遥希はにんじんが苦手だった。


にんじん…………苦手だ!!


俺は最低だ。バカだ!バカ!!


大馬鹿野郎の俺は、早織さんに遥希の嫌いな食べ物を教えてしまった。意図していなくても、これは完全に嫌がらせだ。


そう思うと、遥希の早織さんに対してあの神対応…………どうゆう事なんだ?


全然わからない。


じゃあ…………遥希の本当の好きな食べ物って何なんだ?


…………ダメだ。全然思い出せない。


甘い物?でも、甘い物は嫌いって言ってたよな?


『甘い物が嫌いな女の子なんていないんじゃない?』

そう、母さんが言っていたのを思い出した。


『女の子じゃなくても、聡太は甘い物が好きだもんな~』

父さんがそう言っていつも笑っていた。今は甘い物はそうでもないよ。


早織さんと浩司さんのおかげで、別に暮らしに不自由してる訳じゃない。友達もいるし、寂しくもない。だけど…………


もう、自分の幼い頃がどうだったか聞く事はできない。


訊く相手がいない。


そうと思うと…………結構辛い。


そんな事をベッドの上で寝ながら考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「聡太、早織さんが呼んでる。」


俺は起き上がると、深く深呼吸した。深呼吸して、呼吸を整えて、静かにリビングに降りて行った。リビングには誰もいなかった。ダイニングの方に、早織さんと遥希がいた。


「聡太、聡太の好きな、サクランボ!初物だよ~!みんなで食べよう!」

「聡太、サクランボ好きなんだね~♪私も好き~!」

「それは…………」

好きだけど、恥ずかしくて好きとか言えない……。男子高校生がチェリーが好きとか…………


それでも、好きな食べ物は我慢したくない。俺がさくらんぼのへたを取って、口に投げ入れていると、それを見た遥希が呟いた。

「共食いだな。」

「うるせー!」


遥希の皿から自分の皿に、さくらんぼを移した。

「あー!聡太ずるい~!」

「もっともっと共食いしてやる~!」

「お前はゾンビか!チェリーゾンビか!」


早織さんは笑いをこらえながら、まぁまぁ、と言って俺達の喧嘩を止めようとした。


嬉しそうにさくらんぼを食べている遥希を見て、自分の皿のさくらんぼを遥希の皿に全部乗せた。そして、遥希に頭を下げた。


「…………ごめん。間違えて、嫌いな食べ物早織さんに教えて…………」

「え?もしかして、にんじん?好きな食べ物じゃなかったの?」

「俺の記憶違いで、嫌いな食べ物だったんだ……やっと思い出した。」


遥希が早織さんに慌ててフォローしていた。

「いえ!好きではないけど、全然大丈夫だよ!食べられなくは無いし、あ、煮物は普通に美味しかったし!」


その後、遥希は山盛りになったさくらんぼを横から眺めていた。

「いい眺め。それで、お詫びにこれ全部私にくれちゃうの?」

「考えても考えても、遥希の好きな食べ物がわからなかった。だから、これが俺の、遥希に好かれる努力。」

「えぇ?!」

驚きの声が二人同時だった。


「ふっ!あはははははははは!!聡太、私も、もう少し努力してみる。私、聡太にも早織さんにも、もっともっと好かれたい。」


その笑顔は、俺の思い出にあった、あの頃の笑顔と同じだった。


「じゃあ、私からも、好かれる努力。半分あげる。早織さんにも。」

そう言って山盛りのさくらんぼを他の皿に取り分けた。

「そうだね。食べ過ぎるとお腹こわしちゃうしね。」

「えぇ?そうなの?!」


これでやっと、遥希に再会した気がした。


「そうだよ~。小さい頃は聡太もよくさくらんぼ食べ過ぎてお腹こわしてたの。聡太、よくお姉ちゃんに叱られてたっけ。」


思いがけず…………過去の話が聞けた。


「バカだよねぇ~!」

「あはははははははは!!聡太可愛い~!」

「可愛いか?」


笑われているのに…………何だか嬉しかった。


大丈夫だ。俺には鎧がちゃんとあって、生きて行ける未来がある。


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