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言わされた




俺が2階の自分の部屋に戻ると、遥希がドアをノックして声をかけて来た。

「聡太~いる?」

「何だよ。」

「ちょっと、いい?」


遥希は俺の部屋に入ると、気まずそうに謝った。

「えっと…………あの、今朝は……ごめん。」

「髪……美容院行ったんだな。」

遥希の髪は、ロングから肩くらいの長さに整えられていた。


「あ、これ?早織さんがとりあえずやってくれた。私、人に髪の毛触られるのが苦手なんよ。」

「だから切ったのか?」

「別に?めんどくさいから切っただけじゃ。」


めんどくさい…………?これだけ周りに気を使ってもらって、考えてもらっているのに…………めんどくさい?


俺は腹が立って、遥希の腕を掴んで、ベッドに押し倒した。顔と顔が極限まで近づいた。


「これでもめんどくさいか?これでも、めんどくさいとか言ってられんのか?」


両腕を捕まれて、ベッドに倒されて、上に乗られて、普通の女子なら絶対恐怖心を抱くはずだ。


はず…………なのに…………


遥希の顔は…………怯えた顔じゃなかった。何の顔色も変えず、軽く言葉を返してきた。


「おう、めんどくさい!」


何だかガックリした。


「もう、いいや。」


何をむきになっていたんだろう。冷静になって考えてみたら、ここを出てじいちゃんと暮らすのに、別にこんな回りくどい事をしなくても良かった。


ベッドから起き上がろうとした瞬間、遥希にワイシャツの裾を引っ張られて、ベッドに倒された。


そして、逆に遥希が俺の上に馬乗りになった。


え…………?何故…………!?


「前からこうゆうの、興味はあったんだよね~!」

そう言って俺のワイシャツのボタンを外し始めた。

「え?いや、ちょっと待て!」

「え?なんで?誘って来たのそっちやん!あれ?ボタン全然外れん!」


え…………?いや、誘ってた訳じゃ……。


遥希はなかなかはずせない俺のシャツのボタンと格闘していた。


「誘ってない!怖がらせようとしたんだ!ただ、脅かそうとしただけ!」

「え…………?なんで?なんで脅かそうとすんの?私の事いじめようとしてた?え?でも、そんな事したら…………」


遥希は少し考えて、俺の意図にやっと気がついた。


「ここを…………出るつもりなん?」

遥希を襲ったら、多分俺はここにはいられない。そのつもりで、遥希を襲おうとした。それなのに…………

「どうして?」


どうして?そんな事…………聞いて何になる?


「俺は…………異物だから。」

「イブツ?それ、あれか?巨大地蔵か?」

「それ、大仏。俺はここにいるべき人間じゃない。あるべき場所になければ、ただの異物なんだ。俺は、俺がここにいるのが、なんだか気持ち悪い。」


そう、俺はここにいなくてもいい。ここじゃなくても、どこにもいなくていい。


「聡太のいるべき場所は、ここじゃないんか?だったらどこ?じいちゃん家か?」


俺はゆっくり首を横に振った。


「多分、両親の所。」

「でも…………聡太の両親は…………」

「本当はさ、俺も一緒に行く予定だったんだ。それなのに…………」


最後まで言い切る前に、顔を殴られた。それも、グーで。普通に拳で。

「いってぇっ!!」

頬がめちゃくちゃ痛い!!


「馬鹿野郎!!謝れ!!みんなに謝れ!」

「…………みんなに?」

みんなにって……ざっくりだな!そんな説教の仕方があるかよ?俺は頬に手を当てながら片肘をついて、何とか少し上体を起こす事ができた。


「両親に、早織さんに、友達に、全人類全ての人に謝れ!!」

全人類にまで、謝る事を要求された。遥希は俺の胸ぐらを掴むと、全力で揺さぶった。


「たかがお前1人受け入れられんほど、心の狭い人間じゃねーんだよ!!見くびんな!!」

「いや、別に見くびってる訳じゃ…………」

「じゃ、何だ?自分も死ねば良かったとか、自分は可哀想だ~とか、思ってんのか?」


その次の台詞は同時だった。

「思ってねーよ!」

「ふざけんな!!」


まだ遥希は止まらなかった。

「じゃ、何だ?早織さんを取られる~!とか思って拗ねてんのか?」


その次の台詞も同時だった。

「思ってねーよ!」

「取ってねーよ!」


その次の台詞も。

「バーカ!!」

「バーカ!!」


その次も。

「バカって言った奴がバカだ!!」

「バカって言った奴がバカや!!」


すると、ドアをノックする音がした。まずい…………きっと早織さんだ。

「二人とも、どうしたの?」

「え?いや、あの!」


早織さん開けちゃダメ。部屋のドア返事無しに開けたらダメだ!!早織さんがドアを開けた時、まだ遥希に乗られたままの状態だった。


「…………。」


早織さんは無言でドアを閉めた。

「え、あ!いや、これは!早織さん!」


俺はまるで、浮気現場を目撃されたクズみたいだった。


「お前いい加減、俺の上から退けよ!!」

「何だよ!誘っといて食わねーのかよ!」

「誘ってねーよ!」


おいおい…………何なんだ?このやり取りは…………。


俺は遥希に向かってはっきりと言った。


「お前とは、同じ屋根の下にいるだけだ!それ以外、何でもない!!」


遥希は、あの時みたいに、鼻で笑った。

「ふっ!そうだな。お前とは、同じ屋根の下にいるだけ。」


すると、遥希は勢いよくベッドの上で立ち上がると、大きな声で言った。

「お前が異物だろうと、何だろうと関係ない!!」


そして、八重歯を見せて笑った。


「同じ屋根の下に、いるだけだ。」


そう言って、軽やかにベッドから降りて、俺の部屋を出て行った。


その後、下の階でこんな会話が聞こえて来た。


「早織さ~ん!聡太押し倒してみたけど、ダメだった~!」

「え?ええっ!?ダ、ダメ?ダメって!?」

早織さんが始終困惑していた。


多分…………遥希に言わされたんだ。


『お前とは、同じ屋根の下にいるだけだ。』


それは、お前と同じ屋根の下にいて何とも思っていない。何とも思っていないからこそ、ここにいる。


ここにいる。


そう、言わされたんだ。


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