表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

ただそれだけで


26



胸に耳を当てて遥希が言った。


「聡太、大丈夫?心臓の音が半端ないスピードだよ?」


その前に座れば、心臓が壊れるんじゃないかと思うほど、その動きの速度を上げた。


ただ同じ屋根の下にいるだけでは、体感した事のない感覚だった。


体が熱くなる。


でも今はただ、同じ屋根の下にいるだけなのに…………


「お、お、おジョーさんを僕にくだたい!」

「噛んでるし!!」

「聡太、緊張し過ぎ。」


俺は3年ぶり、遥希は5年ぶりにあの家に戻った。早織さんと浩司さんの住む、あの家に。俺達は、ソファーに座っている浩司さんの前、ローテーブルを挟んだ所に、並んで正座して座った。しばらく遥希は気まずそうに下を向いていた。


「あの…………。」

「遥希、おかえり。」


浩司さんの笑顔に、遥希は一瞬固まって、堰を切ったように泣き出した。


「…………ただいま。」


浩司さんは、優しくおかえりと言ってくれた。俺は泣きじゃくる遥希の背中にそっと手を置いて慰めた。


すると、ダイニングテーブルでお絵かきをしていた瑞希が、遥希を心配してリビングの方にやって来た。ちょうど紅茶を持って来てくれた早織さんが、瑞希を自分の膝に座らせると説明した。


「みーちゃん、遥ちゃんは大丈夫だよ。ちょっと安心しただけだから。」

「遥ちゃん、安心した?」

「うん。でも、もう大丈夫。こっちにおいで瑞希。」


遥希は瑞樹を側に呼ぶと、浩司さんに紹介した。


「私の娘の、瑞希です。」

「娘…………?」

「娘?」

瑞希が首を傾げて訊いた。


「瑞希、これからは、お母さんって呼んで。」

「どうして?」

「私、瑞希の本当のお母さんになるから。」


瑞希は混乱していた。本当のお母さんになるという事は、本当のお母さんは別にいるという事。その事に、その小さい頭では気がついてはいなかった。


いずれ、瑞希がもっと大きくなったら、真実を話す時が来る。それまでは…………


「瑞希、ごあいさつして。」

「藍野 瑞希です。」


どうか天使でいて欲しい。


浩司さんは瑞希の挨拶を見ると、目を細めて嬉しそうにしていた。

「はじめまして。藍野浩司です。お母さんのお父さん、君のお祖父さんだよ。」


浩司さん…………。


「おじいちゃん?はじめまして。」

浩司さんはいい子だねと言って瑞希の頭を撫でた。すると、瑞希は恥ずかしがって、遥希の後ろに隠れた。


「またあっちでお絵かきしてくる?」

「うん。」

遥希がそう提案すると、瑞希はまたダイニングテーブルでのお絵かきに戻った。


「いやぁ…………いつかこんな時が来ると思っていたけど……とうとうその時が来たんだね。」

そこに、早織さんはお盆をダイニングテーブルに置くと、浩司さんの隣に座った。


「あの……遥希は…………その…………」

「さっき私も聞いたんだけど、おめでたとかじゃないんですって。」

「そうなのか……一緒に住んでるからてっきり……。」


涙を拭いた遥希は、ハッキリとその勘違いに突っ込んだ。

「やだな~!聡太とはまだそうゆう関係じゃないよ!」


何故か早織さんと浩司さんは驚いていた。

「え…………?」


そして、早織さんは浩司さんに耳打ちした。それは、完全にこっちにも聞こえた。

「そういえば…………高校生の時、聡太の部屋に……その……男同士のそうゆう漫画が…………」

「いや、それ遥希のだから!早織さん見たの!?」

「ごめんなさい。掃除しようかと思ったら…………」


この期に及んでホモ疑惑!?いや、結婚するって言ってるじゃないのよ!


「あぁ、聡太は、ほら、草食…………いや、絶食?」

「いやいや!違うだろ。それは、目の前に肉が無いだけで…………」

「肉が…………無い?ちょっとそれどうゆう意味!?」

俺の一言に遥希がキレた。


俺達の様子を見て、早織さんが浩司さんにこっそり伝えていた。

「浩司さん、孫は期待しないでいましょうね。」

いや、だから聞こえてるって!


「ほらほら、二人とも喧嘩は辞めて、お茶にしよう。」

お茶を飲んでいても、遥希は悪態をついていた。


「はぁ?聡太となんか、ただ同じ屋根の下にいるだけなんだからね?」

「だったらその指輪外せばいいだろ?」

「これは誕生日プレゼントにもらったんだもん!指輪に罪は無いもん!」


まるで、時が昔に戻ったようだった。早織さんがいて、浩司さんがいる。隣には遥希がいて、今は小さな瑞希もいる。


僕達はきっと、ただ同じ屋根の下にいる訳じゃなかった。この家で過ごした日々は…………


その笑顔に安らぎを覚え、


その言葉に喜びを感じた。


その手をとれば温もりを感じ、


肩を寄り添い合えばよく眠れる。


家の中は、紅茶と甘いクッキーの匂いでいっぱいだった。そこは、今までにない、柔らかな空気が広がっていた。


きっと、この先、大変な事もきっとある。それでも…………


この時間を慈しむ事ができたなら、僕達は


ただ同じ屋根の下にいるだけ


ただそれだけで、幸せだ。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。今回は、情景描写の訓練のために、どこにでもありそうなお話を目指しました。やっぱり情景を説明するのは苦手です……。そして、時間が無いのに、どんどん書いてしまう。寝不足と疲れで熱を出す。そんな事はどうでも良くて、とにかく誰かの暇潰しになれば幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ