ピンクのクマ
25
「改めて、誕生日、おめでとう~!」
「遥ちゃんもおめでとう!」
結局、瑞希の誕生日は遥希と一緒にお祝いした。
「瑞希、おめでとう。」
俺は瑞希にプレゼントを渡した。
「ほら、瑞希の欲しがってたデーモン変身セットだ。」
「だからデーモン言うな!」
「わぁ~!プリンセスコスメセット~!聡太、ありがとう!!」
やっぱり瑞希の笑顔は可愛い。その瑞希の笑顔を見る、遥希の嬉しそうな顔が…………もっと好きだ。
この前できなかったお祝いを1週間も後になって、やっとできた。お祝いと言っても、普通の夕食に、プレゼントを渡して、ハッピーバースデーの歌を歌って、ろうそくを吹き消して、ケーキを食べただけ。
それでも、瑞希はずっと嬉しそうで、テンションが高くて、なかなか寝付かなかった。
やっと瑞希を寝かしつけた後、リビングに戻ると、遥希はソファーの下で毛布にくるまって寝ていた。
俺はソファーに座って遥希を起こそうとした。
「ほら、こんな所で寝たら風邪引くぞ?」
床暖房やエアコンで温かくしているとは言え、真冬だ。いくら毛布をかけても風邪を引く。
「う~ん…………大丈夫……。」
「大丈夫な訳あるか!」
「聡太~抱っこ~!」
いやいや、お前は大人だろ?
遥希は眠気眼で毛布を引き上げ、グダグダしながらソファーによじ登り、俺の隣に収まった。
すると、遥希は突然こんな事を言い出した。
「聡太、お願い…………聞いてくれる?」
「何だよ?変な事じゃないだろうな?」
「多分…………変な事かな?」
はぁ?
遥希は毛布に埋もれながら言った。
「少し…………甘えたい。」
そう言って、頭を俺の肩に乗せて来た。
「どうした?」
遥希がこんな風に素直に甘えたいだなんて…………珍しい。
「瑞希も6歳なんだなぁって思ったら…………なんか、泣きそうで……。」
「何泣いてんだよ?」
「ごめん……。」
別に…………謝る事じゃない。遥希の今までの苦労を思えば…………涙ぐらい許せる。
俺は黙って遥希の肩を抱いて胸に寄せた。
「…………。」
「ありがとう。聡太。」
何だよ、別に、これくらい……。
「赤ん坊の瑞希と二人きりだった頃…………何度も何度も死のうと思った。その度に、聡太を思い出して止めた。」
「遥希…………。」
俺は言葉を失った。
この時ほど、あの時遥希の手を離した事を、後悔した事はなかった。
「…………聡太と、俊太の事思い出して…………」
俊太は、生まれて来れなかった早織さんの子供の名前だ。
「まだ死ねない…………まだ死ねないって思って、もう少し、もう少し頑張ろうって思ってたら…………聡太に会えた。ごめん、私酔っ払ってるから。」
酔ってたとしても、その弱音は…………冗談には聞こえなかった。
遥希の涙を見るのは辛い……。胸が締め付けられる。
「これからは俺が側にいる。ずっと、同じ屋根の下にいる。」
ずっと、側にいる。
もう、あの時みたいに、『生きてるか?』なんてメッセージを送らなくても、遥希が笑ってる事がわかる。おはようと言えば、おはようとすぐに返って来る。
手を延ばせば、すぐに手の届く所にいる。
「聡太、私、ただ、同じ屋根の下にいるだけじゃ嫌だ。それだけじゃいられないよ。」
「じゃあ…………」
その続きを言おうとすると、遥希が俺にキスをして口を塞いだ。突然の出来事に動揺して、肝心な所を言えなかった。
それが狙いか……。
うるさい心臓の鼓動を何とか押さえつけて、必死に平静を装って言った。
「じゃあ、結婚するか?」
「…………。」
遥希は黙って、下を向いた。
「断るか?そうだよな……。」
わかっていた。答えられないから、遥希は言わせないようにしようとした。恐らく、遥希の結婚したくない理由は2つ。
その1つは…………
「そんなに父親に会いたくないか?」
「…………。」
遥希は何も言わず黙った。
「まぁ、いい。何となく、結婚は断られる気はしてた。」
俺はソファーの裏に隠しておいた誕生日プレゼントを手渡した。
「何?私にもデーモンセット?」
「バーカ。お前はもうデーモン変身セット持ってるだろ?」
遥希は中身を開けた。中身を取り出して、複雑な顔をした。
「ピンクの…………クマ……?」
「リボンの所、良く見ろ。」
クマの首にかけられたリボンに指輪が光っていた。
俺はこれからプロポーズしようと思っていた。思っていたのに…………
「これって…………指輪!?ちょっと待って、写真撮らなきゃ!!」
そう言って、携帯で写真を取り始めた。
お前…………それ、結構萎える。
「瑞希の写真と一緒に、亜希にも報告しよう!」
「いいのか?」
「え…………?」
遥希は思わず写真を取る手が止まった。
「お前が結婚するなら、妹が、じゃあ瑞希の事を迎えに行こうかな?って思うとか……思ってるんじゃないのか?」
そんなもん、なるわけないだろ。そんな理由でなってたら、今頃迎えに来ているはずだ。
遥希の結婚したくないもう1つの理由は…………多分、瑞希。瑞希を連れて、父親に会いには行けない。それでも、勝手に結婚しようと言わないのは、遥希は父親に会いたい気持ちもどこかにあるんじゃないかと思う。
「そんな訳ないだろ。お前が結婚するって指輪の写真送った所で、どうせおめでとうの一言も返って来ないだろ。」
遥希は定期的に、妹に瑞希の写真を送っていた。何度も何度も『帰って来て欲しい。』『瑞希に会って欲しい。』そう呼び掛けても……返事が帰って来る事は、今まで1度たりともなかった。
「なぁ…………もう、妹に瑞希の写真送るのはやめろよ。」
「…………どうして?」
「お前が妹に写真を送り続けてたら、瑞希は遥希の本当の子供にはなれない。」
遥希はいずれ妹に返すつもりで、妹に写真を送り続けていた。それももう、やめればいい。
「送るなら、これがラストチャンスだって伝えろ。もし、これで瑞希を迎えに来なければ、瑞希は一生返さない。そう伝えろよ。」
「そんな、瑞希の事人質みたいな…………」
「人質じゃねーよ!俺は決めたんだ。瑞希の父親になる。これからずっと、遥希と同じ屋根の下にいて、遥希を守る。遥希の大事な物も守る。」
え…………?何でそんなキョトンとした顔してんだ?
「何?それ、プロポーズ?」
「それ以外にあるかよ?」
えぇええ!!うわぁ…………冷静に返されると何だか…………恥ずかしい。
俺はあまりに恥ずかしくなって顔が熱くなった。遥希の顔がまともに見られなかった。
少し遥希の方をみると、意外と恥ずかしいのは俺だけじゃなかった。
遥希の顔が赤くなったように見えた。
そして、お互い目が合うと、可笑しくなって笑った。
「ふっ!あははははは!!」
笑った後、遥希が言った。
「写真はね、送り続ける。これは…………嫌がらせかな。私が、瑞希のお母さんだって証明を見せつけたいのかも。」
「じゃ、結婚するよな?」
俺は遥希の目の前にピンクのクマを突き出した。
「そのムードの無さではできないかなぁ?」
それでも、遥希は笑顔でピンクのクマを受け取った。




