表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

ピンクのクマ


25



「改めて、誕生日、おめでとう~!」

「遥ちゃんもおめでとう!」


結局、瑞希の誕生日は遥希と一緒にお祝いした。


「瑞希、おめでとう。」

俺は瑞希にプレゼントを渡した。


「ほら、瑞希の欲しがってたデーモン変身セットだ。」

「だからデーモン言うな!」

「わぁ~!プリンセスコスメセット~!聡太、ありがとう!!」


やっぱり瑞希の笑顔は可愛い。その瑞希の笑顔を見る、遥希の嬉しそうな顔が…………もっと好きだ。


この前できなかったお祝いを1週間も後になって、やっとできた。お祝いと言っても、普通の夕食に、プレゼントを渡して、ハッピーバースデーの歌を歌って、ろうそくを吹き消して、ケーキを食べただけ。


それでも、瑞希はずっと嬉しそうで、テンションが高くて、なかなか寝付かなかった。


やっと瑞希を寝かしつけた後、リビングに戻ると、遥希はソファーの下で毛布にくるまって寝ていた。


俺はソファーに座って遥希を起こそうとした。

「ほら、こんな所で寝たら風邪引くぞ?」

床暖房やエアコンで温かくしているとは言え、真冬だ。いくら毛布をかけても風邪を引く。


「う~ん…………大丈夫……。」

「大丈夫な訳あるか!」

「聡太~抱っこ~!」

いやいや、お前は大人だろ?


遥希は眠気眼で毛布を引き上げ、グダグダしながらソファーによじ登り、俺の隣に収まった。


すると、遥希は突然こんな事を言い出した。


「聡太、お願い…………聞いてくれる?」

「何だよ?変な事じゃないだろうな?」

「多分…………変な事かな?」


はぁ?


遥希は毛布に埋もれながら言った。


「少し…………甘えたい。」


そう言って、頭を俺の肩に乗せて来た。


「どうした?」


遥希がこんな風に素直に甘えたいだなんて…………珍しい。

「瑞希も6歳なんだなぁって思ったら…………なんか、泣きそうで……。」

「何泣いてんだよ?」

「ごめん……。」


別に…………謝る事じゃない。遥希の今までの苦労を思えば…………涙ぐらい許せる。


俺は黙って遥希の肩を抱いて胸に寄せた。

「…………。」

「ありがとう。聡太。」


何だよ、別に、これくらい……。


「赤ん坊の瑞希と二人きりだった頃…………何度も何度も死のうと思った。その度に、聡太を思い出して止めた。」

「遥希…………。」

俺は言葉を失った。


この時ほど、あの時遥希の手を離した事を、後悔した事はなかった。


「…………聡太と、俊太の事思い出して…………」

俊太は、生まれて来れなかった早織さんの子供の名前だ。


「まだ死ねない…………まだ死ねないって思って、もう少し、もう少し頑張ろうって思ってたら…………聡太に会えた。ごめん、私酔っ払ってるから。」

酔ってたとしても、その弱音は…………冗談には聞こえなかった。


遥希の涙を見るのは辛い……。胸が締め付けられる。


「これからは俺が側にいる。ずっと、同じ屋根の下にいる。」


ずっと、側にいる。


もう、あの時みたいに、『生きてるか?』なんてメッセージを送らなくても、遥希が笑ってる事がわかる。おはようと言えば、おはようとすぐに返って来る。


手を延ばせば、すぐに手の届く所にいる。


「聡太、私、ただ、同じ屋根の下にいるだけじゃ嫌だ。それだけじゃいられないよ。」

「じゃあ…………」


その続きを言おうとすると、遥希が俺にキスをして口を塞いだ。突然の出来事に動揺して、肝心な所を言えなかった。


それが狙いか……。


うるさい心臓の鼓動を何とか押さえつけて、必死に平静を装って言った。


「じゃあ、結婚するか?」

「…………。」

遥希は黙って、下を向いた。

「断るか?そうだよな……。」


わかっていた。答えられないから、遥希は言わせないようにしようとした。恐らく、遥希の結婚したくない理由は2つ。


その1つは…………

「そんなに父親に会いたくないか?」

「…………。」

遥希は何も言わず黙った。


「まぁ、いい。何となく、結婚は断られる気はしてた。」

俺はソファーの裏に隠しておいた誕生日プレゼントを手渡した。

「何?私にもデーモンセット?」

「バーカ。お前はもうデーモン変身セット持ってるだろ?」


遥希は中身を開けた。中身を取り出して、複雑な顔をした。


「ピンクの…………クマ……?」

「リボンの所、良く見ろ。」


クマの首にかけられたリボンに指輪が光っていた。


俺はこれからプロポーズしようと思っていた。思っていたのに…………


「これって…………指輪!?ちょっと待って、写真撮らなきゃ!!」

そう言って、携帯で写真を取り始めた。


お前…………それ、結構萎える。


「瑞希の写真と一緒に、亜希にも報告しよう!」

「いいのか?」

「え…………?」

遥希は思わず写真を取る手が止まった。


「お前が結婚するなら、妹が、じゃあ瑞希の事を迎えに行こうかな?って思うとか……思ってるんじゃないのか?」


そんなもん、なるわけないだろ。そんな理由でなってたら、今頃迎えに来ているはずだ。


遥希の結婚したくないもう1つの理由は…………多分、瑞希。瑞希を連れて、父親に会いには行けない。それでも、勝手に結婚しようと言わないのは、遥希は父親に会いたい気持ちもどこかにあるんじゃないかと思う。


「そんな訳ないだろ。お前が結婚するって指輪の写真送った所で、どうせおめでとうの一言も返って来ないだろ。」


遥希は定期的に、妹に瑞希の写真を送っていた。何度も何度も『帰って来て欲しい。』『瑞希に会って欲しい。』そう呼び掛けても……返事が帰って来る事は、今まで1度たりともなかった。


「なぁ…………もう、妹に瑞希の写真送るのはやめろよ。」

「…………どうして?」

「お前が妹に写真を送り続けてたら、瑞希は遥希の本当の子供にはなれない。」


遥希はいずれ妹に返すつもりで、妹に写真を送り続けていた。それももう、やめればいい。


「送るなら、これがラストチャンスだって伝えろ。もし、これで瑞希を迎えに来なければ、瑞希は一生返さない。そう伝えろよ。」

「そんな、瑞希の事人質みたいな…………」

「人質じゃねーよ!俺は決めたんだ。瑞希の父親になる。これからずっと、遥希と同じ屋根の下にいて、遥希を守る。遥希の大事な物も守る。」


え…………?何でそんなキョトンとした顔してんだ?


「何?それ、プロポーズ?」

「それ以外にあるかよ?」


えぇええ!!うわぁ…………冷静に返されると何だか…………恥ずかしい。


俺はあまりに恥ずかしくなって顔が熱くなった。遥希の顔がまともに見られなかった。


少し遥希の方をみると、意外と恥ずかしいのは俺だけじゃなかった。


遥希の顔が赤くなったように見えた。


そして、お互い目が合うと、可笑しくなって笑った。

「ふっ!あははははは!!」


笑った後、遥希が言った。

「写真はね、送り続ける。これは…………嫌がらせかな。私が、瑞希のお母さんだって証明を見せつけたいのかも。」

「じゃ、結婚するよな?」


俺は遥希の目の前にピンクのクマを突き出した。


「そのムードの無さではできないかなぁ?」


それでも、遥希は笑顔でピンクのクマを受け取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ