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響いた言葉


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帰宅すると、家で待っていたのは、早織さんだけだった。

「おかえりなさい。」

「ただいま。瑞希は?」

「さっきまで、二人の事待ってるって言って頑張って起きてたんだけどね……力尽きて寝ちゃった。」


寝室のベッドを見ると、瑞希がろうそくを握りながら寝ていた。


「ごめん……。」


そこに、遥希も帰って来た。


「ただいま!遅くなってごめん!」

玄関の鍵の開く音が聞こえたと思えば、遥希がバタバタ入って来た。そんな遥希に、早織さんが口の前に人差し指を立てて注意した。

「しーっ!遥希寝てるから。」

「あ…………もう寝ちゃった……?」


ダイニングテーブルの上には、早織さんと瑞希だけじゃ食べきれなかったごちそうと、4枚のケーキの皿が並んでいた。


「手洗って来て。お腹すいたでしょ?こっち座って。」

俺達は上着や荷物を片付けて、ダイニングの椅子に座った。


「ごめんなさい……。」

「いいのよ。今年は残念だったけど、明日も明後日もお祝いするチャンスはある。生きていれば、来年も再来年も誕生日は来るんだから。」


それは…………そうかもしれないけど……。


早織さんがコーヒーを淹れてくれた。

「二人とも、そんなに落ち込まないで。出産の時に来てくれない人よりマシでしょ?」


あ、今それ出しちゃう?遥希には余計落ち込む材料じゃない?


「私、子供の時、家族の大事な時はみんないるのが当たり前だと思ってた。それが、親が離婚して、特別なんだって事に気がついたのに……気がついたはずなのに……」

自分が親の立場になると、それはなかなか難しい事だった。


「それは…………毎日一緒にいるんだもの。毎日特別じゃ特別じゃないでしょ。」

「今だって、早織さんだって聡太だって、一緒にいるのが当たり前じゃないのに……当たり前だと思ってた。」

「何言ってんだよ。当たり前だろ。」


すると、早織さんは思い付いたように言った。

「当たり前か…………じゃ、結婚すれば?」

いやいやいや!じゃ、コンビニ行けば?のノリで言う?


「え~!事実婚で良くない?」

いやいやいや!めんどくさくない?みたいなノリで返す?


早織さんは、ずっと昔から俺の気持ちに気がついていた。離婚しなかったのは、多分俺のため。


でも、俺は早織さんが離婚しても、ずっと早織さんを支えるつもりでいた。支えられないなら……死んでもいいと思っていた。


早織さんが子供を亡くしてから、しばらく家の中は沈んでいた。早織さんは、しばらく有給を取って休んでいた。


俺は早織さんが心配だった。包丁を眺める度に、そのまま首を切るような気がして、気が気じゃなかった。俺は堪らなくなって、こんな事を言ってしまった。


「早織さん、俺を1人にしないで。もし早織さんが死ぬなら、俺の事も、片付けてからにして。」

「それ…………どうゆう意味?」


その後、すぐに自分の発言が愚かだった事に気がついた。

「どうしてそんな事言うの?俊太の分まで強く生きようって……前向きに……」

「…………ごめんなさい。」


前向きに生きようとしている早織さんに対して、何て事を言ってしまったんだろう……。


1人にしないでくれなんて、俺は結局自分の事しか考えていない。たった1人の家族なのに、早織さんをちゃんと思いやれていない。


俺は何も言えず何もできず…………


ただ、同じ屋根の下にいるだけだった。


そんな事を思い出していると、早織さんの淹れてくれたコーヒーがすっかり冷めてしまった。コーヒーに映る情けない自分を、スプーンで揺らして消した。


遥希は不安そうに言った。

「瑞希に謝るのが怖い。どんなに言い訳しても……信じてもらえない気がする。」


早織さんは飲み終わったコーヒーカップを持って立ち上がった。

「勇気を出して言ってごらん。言葉って、意外と大事よ?」

そのコップを流しに置くと、早織さんは話を続けた。


「父を亡くした時に、言葉なんて無意味だなんて思った事もあるけど……」

じいちゃんは、遥希が出て行った後すぐに亡くなった。残念ながら、俺には言葉を無くす経験が何度かあった。


「俊太を亡くした時、聡太の言葉に救われた。1人にしないで。って言ったの、覚えてる?」

「それは…………」

言ってはいけなかったと後悔した言葉だった。それが、意外にも俺の気持ちは、ちゃんと早織さんに伝わっていた。


「私は必要なんだって気がついたの。それに、浩司さんの言葉にも……」

「あいつ…………?」

遥希はその名前を聞いて嫌な顔をした。


「君が無事で良かった。」


それは、子供が残念とかではなく、早織さん自身の無事を願っていたという言葉だった。


「そんな風に言ってもらえると思ってなかったから、それだけで良かった。その言葉だけで良かったの。」

「そんなの…………契約者としての、良かった。じゃないの?」

それを聞いた遥希は、何だか納得いかない様子だった。


「そうかもしれない。でも、その時の私には、その言葉が響いたのよ。」


誰にどんな言葉が響くのかはわからない。でも、声をあげなければ、何も伝わらない。


「だからね、生きてさえいれば、伝えるチャンスはいくらでもあるのよ?」


俺は、誰に何を伝えたいんだろう?


隣を見ると、頭を抱えた遥希がいた。


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