第7話 幽霊退治
周囲は真っ暗、前方にはそれっぽい雰囲気たっぷり出てる中世っぽい教会の廃墟がある。
本日の目的地は何を隠そうこの廃墟、ラムック教会跡なのだ。
「ねえ、本当に夜来なきゃならなかったの? 昼間のうちに聖水なり除霊の魔法陣なり貼っとけばよかったんじゃないの?」
さっきまで堂々と先頭を歩いていたレイラは委縮している。
「作戦立ててる時に僕が何度も説明しただろ! アンデッド系は夜にしか出現しないんだ。それにモンスター化したような悪霊は半日で設置できるような除霊魔法じゃ居なくならないよ」
シオンは小さいながらも伊達に長く生きていない、かなり肝が据わっているようだ。
「ここまで来たんだ、レイラも腹くくれよな。あんなに作戦立てて準備してきたんだから大丈夫さ! それにアンデッド退治には慣れてる僧侶もいるしな」
視線に気づいたシオンが反論してきた。
「……ん? 僕はアンデッドと戦ったことはあるけどこんな大きな標的ははじめてだよ。まあ、知識はばっちりだから僕に任せてといてよ!」
うーむ、自信が半減してしまったぞ。
舐めてかかってひどい目に合う、お約束のパターン臭がプンプンする。
ゆっくり近づいて行くと教会の入り口前にあるお墓の周りを数体のゾンビがうろついている。
教会といっても半分は墓地だ。アンデッドが沸くのも納得がいく。
このアンデッド系モンスターの基本、『ゾンビ』についてはばっちり予習済み。
ゲームとかでお馴染みのゾンビと同じで要は動く死体。
体力が多いが魔法には弱い。
付け足して言うならこの世界のゾンビに噛まれても痛いだけで別にこっちもゾンビになったりはしないそうだ。
「よし、まずは先制攻撃だ。レイラ魔法行け!」
ゲームでも現実でもしっかり攻略法を考えてからくると実にスムーズに事が進む。
作戦通り先制攻撃となる魔法をレイラに指示した。
「わ、わかったわよ。それじゃ、『ファイアボール』ッ!」
火の玉がゾンビに当たって爆散、バラバラになって吹き飛んだ。
……なかなかグロいな。
「行くぞ金治! 突撃だ!」
シオンの掛け声とともにこっちを向いたゾンビたちの前に飛び出す。
俺は素早く短剣を抜き、肩にかけた聖水入りの壺の中に刀身を突っ込んだ。
これはシオンの提案でアンデッド対策に用意した即席の攻撃手段だ。
普通、アンデッドをたくさん相手にする剣士はアンデッド系によく効く聖なる力が込められた武器か魔法の力を込めた剣で戦うらしい。
しかし聖なる武器は高くて俺たちの所持金じゃとても買えない。
さらに武器に属性を付ける魔法なんて知らない。
そこで、武器に直接聖水をかけて攻撃するというのだ。
一見マヌケでローカルな作戦だが意外とよく効く。
タフなはずのゾンビを簡単に倒せるし、何より聖水の節約になる。
「くらえゾンビめ! うりゃぁ!」
聖水を刀身につけた短剣で切り裂くとジュゥゥゥゥ、と音を立てて煙が噴き出す。
アッと言う間にゾンビはボロボロと崩れる。
「悪しきアンデッドよ天に召されるがいい……、『ヒール』ッ!」
シオンは回復魔法をゾンビに向かって唱える。
魔法の光をもろに受けたゾンビは土になって崩れ落ちた。
これまたゲームとかである回復魔法がアンデッド系の弱点だったりするアレだろう。
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最初に見た数体に加えて追加で地面からゾンビが沸き出したがすぐに全滅させることに成功した。
レイラの攻撃魔法にシオンの回復魔法、そして俺の聖水剣。
弱点を突くことで素早く敵を倒すという攻略的なことができて我ながら満足だ!
「何よあっけなかったわね。これなら楽勝ね! さあ、教会に入りましょ」
「うん、予想以上にこっちの攻撃が効いてる。これなら大丈夫だね」
なんかフラグ臭いことを……。
でも俺もかなり自信が出てきたぞ!
「よし、パッパとアンデッドどもを駆逐して早く帰ろう!」
そっと俺たちは壊れかけた扉の隙間からそれなりに大きな教会を覗き込んだ。
教会は大きいが中は礼拝堂だけで他の部屋はなさそうだ。
『ゾンビ』に加えて骸骨のモンスター『スケルトン』が中をうろついている。
この『スケルトン』はたしか頭を壊さないと何度でも復活するんだったな。
こいつも予習はばっちりだ。
「よし、開けるぞ」
2人が頷くのを確認してから教会の扉をけり破った。
中はボロボロで瓦礫が散乱している。
俺は聖水の壺に漬けていた短剣を持ち直して一番近くにいるゾンビに切りかかると、ジュッという音を立てて俺の剣は軽々とゾンビを切り裂いた。
レイラとシオンも魔法で攻撃を開始した。
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最後のスケルトンの頭に聖水剣を突き刺して粉々に砕いた。
周りを見回すがもう敵はいないようだ。
「これで全部……、かな?」
「ええ、私の魔法で一撃だったわ! アンデッドなんて怖いのは見た目だけね」
レイラは得意げだ。
「こんなはずじゃ……、こんなにアンデッドが集まってるんだから大物がいると思ったのにな。……あ、あれか?」
辺りを見回すシオンが何かに気が付いたらしく駆け出した。
ついていくと瓦礫に隠れて気づかなかったが地下室への階段があった。
「この奥で最後だね。情報通りだと地下室が一部屋あってそこにいろんな魔法アイテムとかを保存してたらしいんだ。古い魔術にまつわる道具はアンデッドを引き寄せる場合もあるから確認しないとね」
……そう簡単に言うけど妙に引っかかる。
何かこう、いかにもヤバいヤツがいるタイプの状態じゃね、ソレ。
「何よ、あとは地下室だけね。この私を怖がらせといて全然大したことないじゃない! さ、とっとと片付けてギルドで打ち上げよ!」
……マズいな、これは確実にフラグじゃね?
「私が先頭で行くわね! ついてきなさい!」
「あ、待ってよ! 僕が先に行くよ! 貴重なアイテムがあるかもしれない!」
止める間もなく仲間たちは我先にと入っていく。
慌てて俺も階段を駆け下りる。
追い付く前に先に入った二人の悲鳴が響き渡った!
一歩遅れて地下室に入ると奥には赤く透けてる巨大な骸骨のようなものが浮いていた。
その中心の骸骨から赤い霧のようなもので繋がってこれまた大きな赤く透けている手の骨に繋がっている。
……一目でわかる、コレはかなりヤバいモンスターだ!
「シオン、このモンスターもアンデッド?」
「……こいつは、す、『スカルゴースト』! こんなとこには居るはずのないA級の危険アンデッドモンスターだよ!!」
ただの初心者向けアンデッド系討伐のクエストで終わるはずだった夜の冒険はすごいピンチに陥っているようだ。
俺の運はステータス上は高い。
実際この世界に来てここ1週間ほど、俺は魔法の腕輪をいきなり見つけたり、仲間や周りの人に恵まれていたと思う。
……でもどうして、クエストが終わりそうなタイミングでいつもおかしい強敵が出てくるんだ?