第6話 信仰心0
ギルドでクエストに行くパーティからの誘われ待ちをしていた俺とレイラ。
売れ残りの俺たちに声をかけてきたのは小学生ほどの小さなエルフの少年、シオン・デオリシュム・ヴァルトーラ。
“エルフ”は正しくファンタジーの王道だ!
この街でエルフは日本で言ったところの外国人くらいの希少さ。
つまりたまに見かけるレベル。
エルフはよくあるイメージ通り白い肌に長い耳を持ち長寿、加えると美しい見た目をしているものが多く、長い名前が多いのが特徴だ。
俺も何度か見かけたことがあるがこんなに子供なエルフは初めて見た。
「生意気なおこちゃまねぇ! 年上の人にお願いするときは礼儀をわきまえなさい!」
普段礼儀も何もないレイラが威張る。
「僕はおこちゃまじゃない、シオンだ! それに僕は今年でもう50歳になる大人だぞ!」
大人というには子供っぽいシオンが言い返す。
「……マスター、エルフで50歳というと大人なのか?」
「エルフで50っていうと人間の10歳ちょっとってとこだな」
通りかかったマスターはそう言って厨房に入って行った。
50年も生きてるエルフと20代だろう女が子供レベルの言い合いをしているがこれをずっと見ているわけにもいかない。
「おいシオン……、だったか? 俺たちなんか誘ってどんなクエスト行きたいんだ?」
話題を変えるとシオンはこっちに向き直った。
「うむ、よくぞ聞いてくれた! ここフロントの街より西に言ったとこに廃墟となってる教会がある。そこにアンデッド系のモンスターが集まっていて危険だから討伐してほしいという依頼だ。僕は自分の考えが正しいことを証明したい! 頼む、手伝ってくれ!」
廃墟の教会にアンデッド。
これまたよくありそうな王道クエストが来たな。
「何言ってんのよ、ここから西の廃墟ってラムック教会のことでしょ? 無理無理、止めときなさい」
「レイラはその教会知ってるのか?」
「ええ、冒険者たちが噂して怯えてたわ。たくさんのアンデッドに加えて物理が全く効かないゴースト系のモンスターが出るって。何よりアンデッドやゴースト系のモンスターは呪いを得意とするのよ。回復職もいないパーティじゃ呪い殺されるのがせいぜいね」
確かにアンデッド系が呪いを使うのはRPGなんかじゃお約束だ。
俺もレイラも回復魔法ひとつ使えない。
行ってもただの肝試しになって逃げかえるのがオチだろう。
「そこは僕に任せてほしい。僕は確かに見た目は小さいかもしれないけどエルフの中でも特別優秀な僧侶なんだぞ! 実力は保証する!」
シオンは胸を張って背伸びしている。
確かにエルフは魔法が得意なイメージがあるな。
「あなたみたいな子供が僧侶ねぇ、大丈夫なの?」
シオンは周りを見回した後、俺のほうをじっと見てきた。
「君、名前は?」
「え、えっと天勝金治…」
「そうか金治か! 君、背中に怪我してるね。治してあげるよ!」
そう言うとシオンは後ろに回り込んで徐に服を捲った。
確かに背中は昨日のクエストで唯一出来た大きな傷跡、火傷の跡がある。
誰につけられたものとはあえて言わないけどマスターに薬を塗ってもらっただけでまだ少しヒリヒリする。
「これはひどい火傷だ。大丈夫、後も残らず消せるよ。それじゃあ、『ヒール』ッ!」
シオンが呪文を唱えると薄い緑色の光がシオンの手から発生して、俺の背中を照らす。
不思議なことにスッと痛みが消えた!
ギルドの端に設置された鏡で見てみたが跡形もなく火傷は消えている。
「すげえ! これが回復魔法かぁ、初めて見たぜ。シオンありがとな」
「えっへん! これが僕の才能です! 他にも解毒や解呪など僧侶の呪文はしっかり使えるよ。僕と行けば廃墟もアンデッドも怖くありませんね!」
自信満々のシオンに素直に関心してるとレイラも少しはその力を認めたようだ。
「へ、へぇ。なかなかやるじゃないあんた。しょうがないからクエストに行ってあげてもいいわよ! 私のことはレイラさんと呼ぶように!」
「わかったよレイラ。僕の足は引っ張んないでね!」
「レ、イ、ラ、さ、んっ! さん付けしなさいよ、ちびっ子にしか見えないんだから!」
理不尽なことを言ってるレイラをシオンは鼻で笑っている。
なんだか知らんがクエストに行くことになってるな。
まぁ、アンデッドとか見てみたいしいいか!
「そういえばあんた、僧侶っていうけど宗派はなんなのよ?」
レイラはふと思いついたように聞いた。
確かに僧侶っていうのは何かしらの神様を信仰してその力で回復魔法を使ったりするものだ。
それに僧侶がいたり教会があるってことはこの世界にも宗教があるってことか。
「僕は別に宗教は信じてないよ。神様なんていないでしょ」
予想外のことをシオンは言い出したぞ。
「信じないってそれなのに僧侶やってんの?」
レイラも驚くわな。
「僕は回復魔法を使いたいから僧侶をやってるんだ。信仰心なんてなくても回復魔法は使えるし、その強さも本人しだいだよ。……それに神様なんていたとしても人間を助けてくれたりしないし、宗教家なんて同じ宗派を語る連中で群れてるだけのエゴイストだよ!」
シオンはそう言ってうつむいた。
普通の僧侶や宗教家が聞いたら殴り掛かってきそうなセリフだ。
彼は顔を上げると強い目をして続ける。
「だから僕はアンデッド退治のクエストに行くんだ! 神様なんて関係ない、自力で回復魔法も除霊も十分に出来るって証明するために世界中の悪いアンデッドを全部やっつけるのが僕の目標さ!」
力強くそう言い切ると手をグッと握った。
そんな風に言ったら見た目は子供のエルフなのに無性にかっこよく見えるじゃないか!
お金にはあまりなりそうにないけどもうこのクエストを断る理由はないな。
「よっし、そのクエスト俺たちも全力で協力してやるぜ!」
「ええ、このレイラ様にどーんと任せなさい!」
こうして次のクエストが決まったのだった。
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モンスターの情報が書かれた図鑑やフロント周辺の地図をテーブルに広げてクエストの作戦会議が始まった。
最初のクエストは行き当たりばったりだったからこう計画するのもいいな。
シオンは見た目通り理論派らしく、俺たちの戦力でもアンデッドに対抗できるアイデアを次々に上げていき注意点なども事細かに説明してくれる。
隣で頭痛に悩まされてるレイラには難しいようだがな。
「はぁ、こんなに念入りに準備して相手はこわ~いアンデッドモンスターよねぇ。報酬もあんまり高くないし……、もっと美味しくて簡単なクエストに変えない? ほら、こっちのドクロダケ採集のクエストとか報酬いいわよ! それにすこしアンデッドぽいし」
お勉強会に嫌気がさしたのか「どーんと任せろ」とか言ってたヤツが戦う前から逃げ始めてるぞ。
「しょーがないだろ、今回は金儲けが目的じゃなくてシオンのクエストを手伝うために行くんだから。それにここまで準備して行けば楽勝だろうしいいじゃん」
「う~、そうだけどさぁ……。こんなに準備でアイテムとか買ってたら報酬が殆どなくなっちゃうじゃない! 聖水とか結構高いわよ?」
いつも強気だと思ってたレイラがここまで愚図るなんてな。
何か理由があるのか?
「つまりレイラは報酬が心配なんだね? でもかなり期待できると思うけど…」
そう言うシオンは意味深な笑みを浮かべる。
「でも報酬はコレだぜ? 俺もいいとは思えないぞ」
依頼書をひらひらさせながら俺は呟いた。
このクエストの報酬は銀貨20枚。
屋台の串焼きなどと物価を比較すると日本円で二万くらいだろうか。
そのうち五千円ほどは準備で飛ぶ予定なのだ。
山分けすれば一人銀貨5枚……三日と持たないな。
しかしシオンは自信ありげにほくそ笑むと…
「報酬は依頼書に書かれた物だけじゃないよ! 現地で拾ったものやモンスターが落としたものは全部冒険者のモノなんだよね。さらに廃墟は権利者がいないから中にあるものは好きに持ってっても大丈夫さ」
おお、ドロップ品や採取したもので報酬が上乗せされる方式か。
確かにゲームでもレアドロップ狙いで金稼ぎしたりしたなぁ。
「でもアンデッドってロクなもの落とすイメージないわよ? それに下級モンスターのゾンビやゴーストじゃ期待できそうにないわねぇ」
そんなレイラにシオンは手を肩の高さまで上げてヤレヤレと言った感じで首を振る。
まあ腐った肉やら汚い包帯が高額な訳はないな。
「僕らが行くのは100年くらい昔の廃教会。僕が聞いた噂だとラムック教会には貴重な魔法アイテムや秘薬を封印していた隠し部屋があったんだってさ。もしかしたら昔の超レアアイテムが…」
話を察した俺とレイラは顔を見合わせて思わずニヤけた。
もうお宝の予感しかしない。
「怖がってなんかいられないわね! ほら作戦に使うアイテム買いに行くわよ!」
突然元気になったレイラは力強く立ち上がった。
昔のお宝、これはワクワクせずにはいられねぇな!
買出しに出た道中…
「ところでなんで俺たちみたいなパーティに頼んできたんだ? 殆ど戦力にならないだろ」
ふと気になってシオンに聞いてみた。
彼は一瞬顔を背けてから答える。
「……しょうがないだろ、他のパーティにはみんな断られたんだから!」
どうやら俺とレイラは本当に売れ残りだった様だ。