第5話 他力本願
「はい、金治さんのレベルが4に上がっていますね。おめでとうございます!」
俺はギルドの隣の神殿に再び訪れている。
昨日のクエストをクリアしたことでレベルが上がったようだ。
……しかしなぜこうもゲームのようにシステム化されているのだろうか。きっと考えても答えは出ないんだろうな。
「なるほど、ゴブリン7匹にゴブリンロード1体の討伐ですか。いきなりすごい冒険をしたのですね…」
神殿のお姉さんは冒険者カードの裏側を見ながら感嘆している。
冒険者カードの表側には名前や職業、ステータス、魔法等のスキルが表示されている。その裏面には倒したモンスターが記録される優れものだ。
……なんでこんな機能があるのか考えても(以下略)
「ステータスも少しですがアップしてますね。これなら戦士系職の基礎に当たる『ファイター』の職に転職できますがいかがしますか?」
ステータスが必要分あればその職業に転職できる。
冒険者の基本だ。
「うーん、戦士系かぁ。……魔法を使える職業ってできませんか?」
やっぱりファンタジーの世界に来たんだ、魔法は使ってみたい。
レイラも魔法だけはかっこよかった。
「『ファイター』では魔法は使えませんね。他の職になるにはステータスが足りませんし。……あ、現在の『遊び人』も一応魔法を習得することができますよ」
「詳しくお願いします!」
説明によるとスキルはレベルアップで覚えるものと特別なアイテムの使用や他人から教えてもらうことで習得できるもがあるそうだ。
レベルアップで覚えるスキルは職ごとにあらかた決まっているが個人差があり、同じ魔法使い同じレベルでも使える魔法が違ったりするのはよくあることだとか。
いや、そんなことより『遊び人』だ!
『遊び人』は基本はレベルアップでスキルを習得しないが人によっては自然に役に立たない魔法を覚えたり変な特技を習得したりイレギュラーなことが多い職業らしい。
しかしアイテムや伝授による習得は職業関係なく習得出来るとか。
すなわち、今俺が魔法を習得するには魔法を覚えるためのアイテムを見つけるのが手っ取り早いということだ。
ただ残念なことにそんなレアアイテムはここのような駆け出しの街なんかにあるわけがないって言われたけどね。
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神殿の隣のギルトに戻るとレイラがいつものカウンター席で手を振ってきた。
「どう? 転職できたの?」
山盛りのご飯に特製ソースとチキンをふんだんに乗せたこのギルド名物“フロントプレート”をほうばりながら声をかけてきた。
この女、それなりに露出が多い格好なのに全く色気がないな。
「……いいや、魔法が使える職にはなれらかったから『遊び人』のままだよ。それより魔法習得用のアイテムって知らない?」
「そりゃかなり高価な魔法アイテムだぞ! 王都とかならともかくこんな田舎にはないだろうな」
あからさまに?を浮かべているレイラの代わりにマスターが答えてくれた。
この世界王都とかあるんだ。
……てかここ結構大きな街に見えるけど田舎なのか。
「そんなことより金治! 昨日気絶したあなたを背負ってここまで引きずってきてあげたのはこのレイラ様よ! もっと感謝してお酒でも奢るべきよね! よね!!」
「ゴブリンにぺちゃんこにされるとこだったのを助けたのは俺なんだから感謝して欲しいけどな。マスター! ガブル酒二つ!」
「!! さっすが私のパートナーね! ありがとーっ!」
この世界ではオーソドックスらしい甘めのビールみたいなお酒をレイラの分も注文する。
「あ、マスター。これ掲示板にお願い」
ガブル酒をすすりながら1枚の紙をマスターに渡した。
ここ冒険者の酒場、もといギルドには冒険者向けの“掲示板”がある。
そこには冒険者へのクエストが張られたものとは別にパーティ募集の板がある。
このパーティ募集には行くクエストは決まってるから手伝ってくれる人を探すための募集とクエストに誘ってほしい人が呼び出してくれるのを待つ募集の2種類がある。
今回は後者の掲示板に俺とレイラの情報を貼ってもらって、別なパーティのクエストにお供しようという作戦だ。
理由としては簡単だ、俺とレイラじゃパーティとして非力すぎる。
基本職の『魔法使い』と『遊び人』。
盗賊職もないからダンジョンにはまず行けない。
……レイラは初心者向けダンジョンに一人で行って死にかけたそうだ。
さらに回復職がいない上に決定打もない。
『ダイスの腕輪』は使えば強くはなるが戦闘のたびに気絶しているわけにもいかない。
おまけに昨日のゴブリンロードで俺たちはビビリきっている。
これらのことにより、当分は他のパーティのおこぼれを狙ってお金を稼ごうというマヌケな計画が立てられたのだ。
「なるべく強くて人数も多くて、私たちはただ荷物持ちでもしてるだけでモンスターを片付けてくれるようなパーティに誘われたいわね!」
……そんなパーティが俺らなんて誘うわけがないだろう。
無謀な希望を持ちながらギルトで待機開始だ。
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「来ないわねー。全くどのパーティも見る目がないわ!」
翌日、朝から誘われるのを待ち続けてもうすぐ昼だ。
周りで同じく誘われ待ちしていたパーティはほとんど誘われてクエストに出発して行った。
待機用のスペースにはもう自分たちしかいない。
「やっぱ初心者『魔法使い』に『遊び人』なんていらないか。せめて回復魔法でも出来たら需要あるんだろうなぁ」
予想どうり誰にも誘われない。
「もう俺たちだけで適当なクエストにでも行く? 昨日のクエストでお金入ったから少しはマシな装備も買えるだろうし…」
「嫌よ! 昨日みたいなボスが出たら怖いし、あなたを引きずって帰るのも大変なのよ!」
そんな不毛な会話をしているときだった。
「お前たち、僕のクエストを手伝う気はないか? いや、手伝え!」
どこからか声をかけられた。
しかし周りを見回したが冒険者は誰もいない。
「お前ら僕を無視するな! こっちを向け!」
下を向くと小学生ほどの、身長130㎝ほどの男の子が横で地団駄を踏んでいた。
その男の子は大きな眼鏡をかけていて青いローブのような魔導士っぽい服、十字架が刺繍された帽子をかぶっている。
そして特徴的な白い肌に長い耳、これはファンタジー王道の…
「僕はエルフのシオン・デオリシュム・ヴァルトーラ。気軽にシオンと呼んでくれていいぞ。君たちには僕と一緒にクエストに行ってもらいたい!」
俺もレイラも偉そうに話すちびっ子を見て呆気に取られてしまった。