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王女殿下と菓子職人   作者: 高岡未来
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一章 脱走王女と菓子職人6

 瞬間的にメイリーアは叫んでいた。考えるよりもほぼ反射神経のみの回答なのだろう、そのくらい即答だった。

「よぉし、その言葉絶対忘れるなよ!」

「当り前じゃない!」

 メイリーアのことを睨みつけながら見下ろしたアーシュの視線に負けることなく口を真一文字に結んでその視線を受け止めながら再び二人はしばらく睨み合った。

 睨み合った二人はそれで良かったけれど、困ったのは残された二人だった。一拍置いて何がどうなったのか事態を母くした二人はそれぞれに大きな声をあげた。

「ちょ、ちょちょちょっと。なななに言っているんですか!か、からだってなんですかー。メイリーア様その場の勢いで了承しないでくださいー」

「そ、そうですよ師匠っ!体で払えってなんですか。それってどっちかというと悪役の台詞じゃないですか。どうみても師匠の方が悪人顔してますよ~」

 闘志を燃やす二人を尻目にお互いのお付きともいえるルイーシャとフリッツは情けない声を上げながら二人を引きはがすのであった。



 体で払う、という意味をあまり理解できないままメイリーアはひとまず自身の住まいでもあるアルノード宮殿へと帰った。今から二百年ほど前に建てられた実用性を兼ね備える宮殿はグランヒールの真ん中を流れるミッテ河北側に位置している。

いろいろとあったせいでいつも城を抜け出す時よりも遅くなってしまった為、夕暮れも近く空は西の方が赤く染まっている。メイリーアはルイーシャを連れて用心深く宮殿へと忍び込んだ。生まれてからずっと十六年も育った場所なので警備兵の巡回路も交代の頃合いも熟知している。探検と称してしょっちゅう宮殿のいたるところに出没しては遊んできた身なのだ。城に勤める人間にばれずに出入りするなど朝飯前なのだった。

 それでも今日は少々分が悪い。何しろ午後のあの大捕り物なのだ。素直にメイリーアの自室に帰ったら兄が待ち構えているかもしれない。そうしたらいいわけなどする暇もなく自室謹慎を言い渡されるだろう。

 もういい年だというのにメイリーアの兄は少々、いやかなり過保護なのだ。いまだに一緒に夜寝ようとか言いだすものだから正直早く嫁でも娶ってほしい。

 メイリーアたちはなるべく目立たないよう植栽の陰などに隠れながら姉の部屋を目指した。

 庭園を望むテラスにたどりつき、ガラス戸をトントンと叩いた。白いレースのカーテンがかかっており中の様子は外からは確認できない。そろそろ燭台に火をともす時間である。明かりが漏れているから中に誰かはいるはずだ。

 いつものこの合図に姉が気づいてくれればいいのだけれど、メイリーアは緊張した面持ちでじっとその場で待った。

 少し間があり、室内から誰かが扉の方へ向かう影が映る。たおやかな手がカーテンをめくり、扉に手を掛けた。

「メイリーアったら、今日はずいぶんと遅いお帰りね」

 自ら扉を開け、メイリーアとルイーシャを招き入れたのはトリステリア王国第一王女、金色の姫君と呼ばれるアデル・メーアその人であった。メイリーアよりも八歳年上のアデル・メーアはこの国の第一王女で幼いころに母を亡くした彼女にとっては母親代わりとも言えるような存在だった。メイリーアとはちがって輝くような金色の髪を持ち、女らしい肢体を持った美貌の主で、人々がこの姉を金色の姫君と呼ぶのも納得するくらい完璧な貴婦人なのであった。もちろんこれはメイリーアの評価であり、アデル・メーアの呼称はもう一つ後ろに一言つくことをメイリーアは知らなかった。

「ごめんなさぁい。ちょっと色々とあって。…そのお兄様はどうしていらっしゃる?」

 先ほどアーシュに見せた強気な態度はなりを潜め、上目づかいで殊勝な態度でメイリーアは姉に尋ねた。

「ん、今は執務棟の方で缶詰じゃないかしら。あなたを探しまわって大騒ぎしていたから仕事をたんまりと与えてやったわ。大体これから年末にかけて忙しくなるっていうのに何やっているのかしら。お父様ももう少しあの子の手綱を握った方が良いのよ」

 ふんっと鼻を鳴らしてアデル・メーアは答えた。

「じゃあ、私のことは…」

「大丈夫。ちゃんと私と一緒にお城の地下に閉じこもって小刀投げの練習をしているわって答えておいたから」

 麗しい第一王女の趣味は小刀投げであり地下室に自分専用の練習場を完備しているし、いつもどこからか小刀を取り出してくる。

「そ、それは…どうも」

 あんまり嬉しくな言い訳でメイリーアは歯切れ悪く答えた。

「最近甘いものの食べすぎで運動がしたいって地下にこもっているのよ、って説明したから大丈夫でしょう。というか力づくでも納得してもらうから」

 心なしか姉の笑みが増した気がした。この迫力はさすがに無理だわ…とメイリーアは内心引きつった。この姉は一応次期国王でもある王太子レイスハルトをも従わせてしまうのである。

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