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王女殿下と菓子職人   作者: 高岡未来
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一章 脱走王女と菓子職人16

 二人の会話を聞きつけたのかレオンが声を割り込ませた。男を締め上げている手はまだ緩めていない。会話の内容はのほほんとしているが締め上げられている方はそろそろ限界かもしれない。

「メイリーアちゃん大絶賛だったんだぜ、おまえの作ったいちじくのタルト」

「わぁぁぁ!!それ内緒ー」

 突然暴露されたメイリーアは大慌てで叫んだ。

「いいじゃなーい。美味しいものは美味しいんだから。俺も好きだぜー」

「それでもだめなのー!!」

 メイリーアは耳まで真っ赤になってレオンに向かって首を振っている。もうこれ以上口を開くなということらしい。

「なーにてめえまで照れてんだよ、アーシュ」

 レオンが面白くなさそうに吠えたがアーシュの耳には届いていなかった。

 あれだけ毎回懲りもせずこき使ってやって、自分のことは大嫌いだと思っていたのに、メイリーアはアーシュの作ったケーキを手放しで褒めた。

 職人として称賛を浴びれば嬉しい。しかも彼女は貴族のお嬢様だ。彼女自身からはっきりとした身元を聞きだしたわけではないが、たち振る舞いと言い、時々口走る家族の話を聞くには裕福な商人の娘と言うわけではないだろう。

 アーシュは純粋な若者という年齢でもないのに柄にもなく照れてしまうのが悔しかった。

「もうっ、レオンがそんなこと言うからアーシュまでなんだか変にになってしまったじゃない。わたしルイーシャの様子を見てくるわ」

 羞恥に耐えられなくなったのかメイリーアが店のカウンターの向こう側へと消えていった。

 これからは少しずつ店の商品についても試食させてみようかな、などと考えてみる。一応店の従業員なのだから商品知識は必要だ。

「彼女、グランヒールお菓子手帳を作っているらしくてね。いろんな店を食べて回ってるんだと。ちゃんと俺にも謝罪をしてくれたぜ。配達分を台無しにした先日のことと今回ルイーシャちゃんが倒れちゃったことについて、な」

「だから悪かったって。まさか倒れるとは思ってなかったんだよ。ちょっとビックリするかなぁくらいで」

 案外根に持っているのかルイーシャのことを言うときだけ声に力がこもっていた。

 それでもまだ恨みがましい目で見つめてくるのでアーシュはやけくそになって叫んだ。大男に至近距離で見つめられて嬉しがる趣味は残念ながらアーシュにはないのである。

「ようし、今度『よっぱらいの寝床』で酒おごってやるから機嫌直せ」

 アーシュ出した懐柔案だったけれど、その後目を覚ましたルイーシャが再びレオンと対峙して二度目に気を失ってしまったため、彼は後日件の居酒屋に付け加えて上等の葡萄酒を買わされる羽目になったのは別の話である。

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