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王女殿下と菓子職人   作者: 高岡未来
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一章 脱走王女と菓子職人12

「だ、騙す?」

「そうだよ。傍目には男前じゃからな。一時期は入れ食い状態だったなぁ。あやつも基本来るもの拒まず、っていうふうだったし」

「ああ、確かに。基本来るもの拒まずですからね。そのかわり後も追わないんですよ」

 フリッツもうんうんと頷いている。それにしてもさきほどから騙すとかなんとか物騒な話をしている。アーシュは女性専門の詐欺師なのだろうか。

「タチが悪いのう」

 あともう一つ。入れ食いとはなんだろうか。美味しいのか、それとも新種のお菓子?二人だけで納得してメイリーアだけ置いてきぼりにされている。

「お嬢ちゃんも気をつけた方がいいぞ。あれはちょっと手に負えんかもしれんからな」

「気をつける?」

 メイリーアは小首をかしげた。いきなり話題を振られてますます意味がわからない。ということはやっぱりアーシュは女性だけに詐欺を働くのだろうか。だから気をつけないといけないのか。今のところ怒られっぱなしだけれど。

「せっかく可愛い売り子が店に入って、これがまた見ていて飽きないから最近は通う頻度を上げたんじゃ。しばらくは居てほしいからな」

「ええと。それって褒められているのかしら」

 随分な言われようにどう答えていいかわからない。メイリーアは別にこのお爺さんを楽しませるために失敗ばかりしているのではない。いたって真面目に働いているのにいつも失敗をしてしまうのだ。

「だったら人の悪口ばかり言ってねえでさっさと注文しろ」

 厨房から姿を現したアーシュが老人とメイリーア達の会話に突然口を挟んできた。

 アーシュは客である老人をぎろりと睨みつけた。

「ったく、隙あらば人のあることないこと言いやがって…」

「あることないことって、当たっていることもあるじゃろう」

「ああ?なんか言ったか?」

 アーシュの声に迫力が増した。

「おお、怖い怖い」

 老人はあまり悪びれた様子もなくひょいと肩をすくめてみせた。この隠居老人にとって孫くらいの年齢のアーシュの言葉など可愛いものなのである。

 そうして今日はスパイスケーキを一本買ってそそくさと出て行った。数切れではなく一本だったのはアーシュのいない隙に噂話をメイリーアにした罪滅ぼしなのかもしれなかった。

 そしてケーキの包装を手掛けたのはメイリーアで、最初のころに比べて随分と手つきが慣れ、隠居老人はほほえましくそれを見守っていた。それでもアーシュに言わせれば及第点にはまだ程遠いとのことなのだが。

「おい、今日はもう店番はいい。これからあんたら二人で配達に行ってきてくれ」

「配達?」

 メイリーアが聞き返した。初めて聞く業務である。

「はい。先ほどからアーシュさんに言われて、一緒にお手伝いをしていました」

 アーシュの後ろからルイーシャがひょいと顔をのぞかせた。アーシュの陰に隠れて顔だけ出している姿が可愛くてメイリーアは目元を緩めた。

「そう、配達だ。基本『空色』にはホールのケーキは置いてない。日持ちのするものいくつかは除いてな。で、そういった果物を使ったタルトやチーズを使ったケーキなんかを近くのカフェに卸しているんだ。で、おまえたちに頼むのは今から渡す地図に書いてある店に商品を持っていくことだ」

「わ、わかったわ」

 掃除や売り子で培った経験と信頼…―はあるのか謎だけれど―を生かしてここはひとつ完璧に任務を完了するのみである。そうすれば目の前のいけすかない上司も少しはメイリーアのことを見なおしてくれるだろう。

「あと、今から配達に行ってもらう店はおまえがあの日ぶつかったおかげでケーキを納品できなかった客先だ。俺の方で謝罪は済んでいるが、おまえもちゃんと謝ってこいよ」

 アーシュのその言葉にメイリーアは居住まいを正した。

「わかったわ」

 メイリーアは神妙に頷いた。確かにアーシュの言うことも一理ある。ちゃんと誠意を持って謝ろうとメイリーアは決意した。

「じゃあ、あれだ。フリッツ、地図を書いてやれ」

「あー…はいはい。分かりましたよ」

 フリッツは何ともいけないような微妙な顔つきだったが、最終的にはアーシュの言いつけどおり紙の切れ端に地図を書いてくれた。手渡された地図は几帳面な文字と必要事項が簡潔に記載された、フリッツの性格を表しているかのようなものでこれならばメイリーアでも迷うことなく目的地に到着できそうだ。

「ルイーシャ行くわよ」

 メイリーアはルイーシャを連れだって一緒に勢いよく店を飛び出した。



「…師匠…」

 元気よく出かけて行った娘二人を見送りながらフリッツは何かを言いたそうにアーシュを振り返った。

「なんだよ」

「…別になんでもありません」

 そういう言葉とは裏腹にフリッツはまだ何かを言いたそうだ。アーシュは苦虫を踏みつかみつぶしたような顔になった。

「だったらそんな人を極悪人でも見るような顔して見つめるな」

「自覚あるんじゃないですか。あれはちょっと、いやかなり衝撃があるんでは」

「ま、これであいつ自身の落とし前もつくだろう」

 アーシュは誰に聞かせるともなく小さくつぶやいた。

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