2日目 なかったことになったお昼休み
――今日も来たんだね、高校生って暇なんだ?――
いいってことよ。まあ今日もはじめるとすっか。
――会話として成り立ってないよ――
ところであれだぞ。感想来てなかったぞ。あんなに言ったのにどういうことだ。
――え? 僕はちゃんと昨日……――
くっ……なんでなんだ。100人くらい……見て……のに……お気……入りも……全く……!
――こらこらこら。あー、あー、小さい声だから聞こえないなー。そういうメタクソなの、かなり嫌われると思うよ――
ぐすっ……とにかくだ! 希望が届かなかったので、お前はあれだ! ぼっち! ぼっち飯!! ぼっち飯ですー。
――何それひどくない!?――
マジ約束破るとか信じられねーし。
暗い学生生活を送るがいい。まあ慣れると落ち着くもんだけどさ。
――慣れてるの?――
うるさいな。えー、お前には昼休みに一緒にご飯を食べる友達はいません。でも教室で食べるのも寂しいな。
お弁当を作ってもらっている手前、食堂で食べるわけにはいかない。
そして中庭はリア充の巣窟だし、屋上にはいつも鍵がかかってるんだよね。
――は?――
こうなったらしょうがないな!? トイレの個室で食うしかないよな~!?
――……そういうことするんだ――
やーいやーい、ざまあだぜ。それもこれも、
――……僕は、机にかけていた鞄の中から弁当を取り出して、立ち上がる。
無言のまま、僕は机の間を縫って歩き、教室後方の引き戸へ向かう――
お、おい、どうしたー? 怒ったのか? え? ちょっと。
――扉を開けて振り向かずに。バカヤロー!! 僕は叫んで、ゆっくりと廊下へ出て、振り向かないまま、ピシャリ、と力を叩きつけるようにして扉を閉める!――
いや、悪かった、冗談だよ。
お前の後ろ、扉の向こうから、庵治のぼやく声が、
「おいおい、どうしたんだよ。立て付けが悪いからって、そんなに力を込めることはないと思わないか?」
――無視する。僕はトイレに向かう。普段はあまり人の来ない旧校舎。更にその三階のトイレを目指して歩く。だんだん人通りが少なくなるが、僕は誰とも目を合わせない――
もしもーし?
――一番奥の個室に僕は腰を落ち着ける――
洋式便座に腰を落ち着けたわけだ。
――弁当を広げ、もくもくもくと、お母さんが作ってくれた弁当を食べる。そこに感情はない。とてもおいしいけど、それが逆に残念だ。僕はただ、友達と一緒に弁当が食べたかっただけなのに、どうしてこんなことになってしまったんだ。どうしてこんなにおいしい弁当を作るんだ。クソッ! ……いや、ほんとはお母さんに謝らなきゃいけないんだ。こんな風に友達もできないように育ってしまったことを、一番悲しんでいるのはお母さんじゃないんだろうか……――
俺が悪かったって。でも、希望を送ってこなかったお前も……あ、なんだ、メールだ。おい、最近は電源切ってなくてよかったんだよな?
――僕は虚ろな目をして卵焼きを口に運び――
くっ、返事しねえのか。ってかまだやってるのかよ。お前結構頑固だったんだな……
ほら、また迷惑メールだよ。ありゃ、一気に何通も来たぞ。ってありゃ。
お前……メール送ってきてたのか。俺の方で受信ができていなかったんだな。
――ん――
俺が悪かった! メールが来てなくても俺が悪かった! 大人気なかった! こんな話に人気がなかったのも仕方なかった! ごめんごめんごめん!!
――どうすんの――
土下座でもなんでも! いたします……ご無礼申しました……
――ん? なんでもするって言ったよね?――
(数十分、物語とは関係のないくだりが続く。書類の性質上、割愛する)
――じゃあ、さっきのとこいらはなかったってことでいいよ。やり直し――
いや、そういうのはしない。せっかくだからこの人を出しておこう。
旧校舎の三階トイレの個室で弁当を食べていたお前は、聞こえるはずのない足跡に一瞬ドキっとした。
――便所飯仲間かな――
足あとはなぜか、一つだけ閉まっている一番奥の個室の前で止まった。コンコンと、ノックしてくる。
――「入ってます」――
いやいや、ノリがいいね。お前の言葉に応えて曰く「知っているわ」、と……
――女子!?――
聞き覚えのある女子の声。彼女もクラスメイトだ。
彼女は……いま顔とか見えねえな。八郷未来。
クラスメイトの中でも特に特殊な能力を持つ――彼女は、時を操る超能力者だ。
「どーもどーも、世界線がおかしなところと交わってしまったみたいじゃないか! いいから私に任せてくれたら悪いようにはしないぞぅ。これからびしっと修正するよ。むむむむむむーん。30分……時を巻き戻す!!」
――何それ、強すぎない?――
はっきり言って強い。あんまり使うと悪い影響もありそうだし、なんでもできるわけじゃないし、いつでも使えるわけじゃないし、一回使うと長期間使うことができない。
それでもはっきり言って、多分一番のチート能力だ。
彼女と仲良くしておいて、損はないんじゃないかな。まあ、今日はどうかな。
――とりあえず、送っておいた感想と希望をちゃんと見てよ――
分かった分かった。さて、どんなのが届いているのかな……