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1日目 渡り廊下

 そうこうしているうちに目の保養……体力測定もひと段落。お前は可もなく不可もなくといったところだった。

 シャワーを浴びてすっきりしたお前らは、制服に着替えて教室にぞろぞろと戻ろうとする。

 なんで午後から授業なんだよふざけんな、あと、昼休みもう始まってるじゃねーか、ふざけんな、みたいな気分だ。


――シャワーなんてあるんだね。高校のことってよく分からないからなあ――


 大体の思いつく設備は、この高校にはあると思っていい。

 

――そして都合により増えたりなくなったりする――


 よく分かってるじゃないか。言ってみれば理想の学校ってやつだな。


――あんまり世間外れた綺麗な学校はやだなあ。普通がいい――


 廊下がめちゃくちゃ広くて天井も高かったり、模様入りのタイル貼りだったり、ステンドグラスがついてるようなゴシック調の建物とかだったり、妙におしゃれな柵が屋上に巡らされてたりしなくていいのか?


――そんなの学校じゃないもん。僕が通いたいと思うのはごく普通の学校だよ――


 机とかも一般的なやつでいいというのかっ。


――そういうのがいい。ちなみに制服はブレザーがいい。そして私服は言語道断――


 ブレザーか。ブレザー着た番長ってのもなあ。どうもそいつは締まらないと思わないか?

 俺的には、ツバに謎の切れ目の入った学生帽くらい被ってて欲しいくらいなんだぞ。


――それはしょうがないこと。彼には犠牲になってもらうしかない――


 しょうがないな。

 えーと、そんな感じで中庭の渡り廊下を歩いているとだ、後ろからぱたぱたと走ってくるやつがいる。


――振り向けば、そこにはブレザー姿の番長が――


 番長はもうふらりと去っていったよ。購買か食堂にでもいったのだろう。あるいは外に食べに行ったかも。

 上靴の底を小気味よく鳴らしながらやってきたのは、魔王だった。

 そぞろ歩いていた男子たちを走ってきた勢いのまま追い越し、裕恵はくるりとお前の前に回り込んだ。


 そんな彼女を追いかけた、お前の視界いっぱいに笑顔を溢れさせて、「ねえねえ、私頑張ったよ!」と声を弾ませている。


――なんか、犬みたいだねぇ――


「そうかな?」と彼女は首を傾げる。

 そう、彼女は、ほめてくれてもいいんだよ! くらいのことは思ってそうだ。


――ちょっと好感度高すぎない? 最初からこれでいいの?――


「裕恵ったら、あんまり走っちゃいけないって言われてるでしょー」


 後ろからゆっくりと追いついてきた、クラスメイトの万成亜澄が目配せをしてきた。彼女は裕恵と一番仲がいい女の子。女の子女の子したふんわりとした女の子で、可愛らしい女の子だ。


――もうちょっとちゃんと描写してくださーい――


 じょ、女子力が相当高い。


――それ、意味わかって言ってるの?――


 おしゃれに気を使っていて、その話でクラスで盛り上がる時、よく中心になっている。

 彼女はいろんなことに敏感で、よく気がつく。

 なんかこう、にじみ出るような、可愛い仕草とか立ち振る舞い、そういうのもある女の子なんだ。

 しっかりしてるんだけど、頼ってくれるところでは自然と頼ってくれたりして、ついでにどこか抜けてるとこもあるのがポイントかなっ。


――ふーむ、よくわかんないけども、そういう子が好きなんでしょ――


 そういう事なんです。


――で、頑張ったって体力測定?――


「大島君さ、体力測定の前に言ってたじゃない。裕恵が頑張るねって言ったら、倒れない程度に頑張るんだよって。あれでこの子、もう、張り切っちゃって……」


 困ったような万成さんに、裕恵さんは小さな胸をはってみせる。


「頑張ったし倒れなかったでしょ?」


「はいはい。でもあんまり無茶しちゃいけないんだからねー?」

 

 万成さんになでてもらって、裕恵は嬉しそうだ。

 そうだ、お前はなでてやらないの?


――うーん、さすがに。まあ、頑張ったね、くらいは言ってあげようか――


 そうすると、ぱぁっと花が咲いたように笑顔の輝きが増すよ。


――扱いが簡単そうな魔王だね――


 やれやれ、とお前の隣を歩いていた庵治康晴が肩をすくめる。

 彼はスラっとしていて、嫌味のない男前だ。口元のほくろがチャームポイント。


「倒れられたら大変なのはこっちなんだからな。裕のことを任せてくれてるおばさんたちに何を言われるか。勘弁してくれよ?」


 そんなぶっきらぼうな庵治君の物言いにも、裕恵は気分を害した様子はなかった。彼はいつもこんな感じだし、ちょっと人付き合いに不器用なところがあるのをよく知っているからだ。


――典型的やれやれ系なんだね――


 そいでもって、お前と裕恵さんのもう一人の幼馴染だ。昔はどこに行くにも三人一緒の仲良しだったし、親同士も、昔から仲が良い。

 たまたま親の仕事の都合が重なったという名目で、三人一緒にこの街に引っ越してきて、今に至る。


――男二人に女一人……めんどくさそうな感じしかしない――


 さてね?


 まあそんな風にぺちゃくちゃと喋ってばっかりもいられない。昼休みが終わってしまうから、急いでご飯を食べてしまわないと。

 とりあえずみんなで足早に教室に戻ることにした。

 でだ、ここで大きな問題がある。


――問題?――


 誰といつもお昼ご飯を一緒に食べてるか、だ。


――班とかじゃないの?――


 違うんだなー。高校でそれはないよ。

 いろいろクラスメイトも出てきたから、考えてみて。

 そう、宿題にしよう。

 もちろんまだ出てきてない友達を作ってもいい。

 メールか何かで教えてくれたら、それに合わせて話を考えてくるよ。

 今日はもう帰らないといけないから、その時に感想なんかも添えてくれていいんだぜ。

 要するに……わかるね? 

 つまり、よかったら、そういうのを送ってほしいんだ。

 

――それ本当に僕に言ってるの?――


 お、おう……

 とにかく今日のところは帰るわ。また近いうちに来るから、待ってなさい。


――期待しないで待っとく――


 期待してもいいんだけどなー。

 期待されると頑張っちゃう男なんだぜ、俺は。

 じゃあ、今日のところはまたな。 






 



 

 


 

 


 

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