美術部系男子と金髪碧眼のアイツ
はい、みなさんこんにちわ。異世界散策真っ最中の美術部員こと紀久岬です。現在、芋を食いながら迷子になっております。いや、せっかく美味そうな焼き芋さんが手持ちにあるんだから、食べないと損だよね?冷めちゃうし。
まぁ腹ごなしもそこそこに、マンちゃんやらマンちゃんジュニアやら、はたまたマンちゃんファーザーやらを屠りつつ、森の出口を探しているわけです。というか異世界トリップしてんだから、最初から迷子だったわ俺。
しかし異世界かー。別に死にかけたとか神様にあったとかVRMMOをプレイしてたとかじゃないんだけどな。普通に部活動中だった。いや、俺にとっては焼き芋祭りも通常運行なんだよ。
皆心配しているんだろうか・・・。きっと俺急に消えたとかだよな。
・・・うん、まぁいっか。異世界とか、美術部員としては最高の題材だし。来たからには描きまくってやんよ!この大自然!都会ではお目にかかれない大スペクタクルな樹海!もはや描きたい衝動よりも命の危機を感じるくらいに壮大だ!
分かっている。芋も食べてしまったし、早急にこの現状を何とかしないと本気で命が危ない。マジで。
段々と木々の隙間から見える空が暗くなっていき、夜が近づいてきた。歩けども歩けども、樹海を抜けられる気配はない。むしろ奥に向かって歩いているのかもしれない。
「将来の夢は白骨死体です。・・・小学校の頃の夢が今叶いそうだ」
小学生の俺、なぜそんな夢を抱いた。しかし本気で出られない。マジで白骨死体夢じゃないかも?マンちゃんも「クケケケケ。テメェガホトケサンニナッタラ、ホネモノコサズクッテヤルヨ」と囁いている。うるせぇ焼くぞ焼却すっぞ。
なんか「油絵の心得LV1」というスキルでペインティングオイル(速乾性)が強化されたのか、今では火種がなくても投げて割れば炎上するスーパー火炎瓶と化しているのだ。それによってマンちゃんは楽に駆逐出来るようになった。気分最高!ざまぁみろよ!称号は放火魔になったけどな!
気分がハイになっていると、不意に破壊音と悲鳴が聞こえてきた。どうやらここからそう遠くないようだが・・・「グッフフフコレハナカナカジョウダマナ・・・」ヒロインとの出会いフラグキター!これはあれですよね、美少女がモンスターなり盗賊なりに襲われてて絶体絶命って時に颯爽と現れる俺!サクッと助け出して美少女は俺にドキッていうあれですよねー!そうと分かれば即行動!今助けるぜぇハニー!俺は声のする方へ走りだした。
辿り着いたら、まずは現状把握。
横倒しになった馬車。馬は頭部を潰されて既に死亡。さらに辺りには騎士らしき鎧の人間達の死体。こちらも頭部が根こそぎなくなっている。その景色の元凶であろう者は、全身が返り血で真っ赤な熊型のモンスター。立派な6本の牙が非常にチャーミングです。そんな熊もどきは今馬車の内部を物色している。
でえええええええええええええええええええ!?
ちょ待っ!予想以上に危機的状況でフラグとか言ってる場合じゃない!何アレ近づいたら俺も首なしマンになっちゃうよ。ていうか生きてる人いるの?いたとしても俺勝てるの?
「グフフフフフフウ」
「離せ!この悪魔!私に触るな!」
はい、馬車の中に人がいることが発覚しました。え・・・これ放って置いたらヤバいよね?俺人殺しにはなりたくない。見殺しにするわけにはいかないな。女の子のようだし!
さて、助けたいのはいいが、実際どうする。火炎瓶はノー。馬車ごと大爆発だ。ここはスキル「整理整頓LV1」を信じて賭けに出るか?いやしかし、あれは馬車という異分子まで把握して最良を選ぶだろうか。また火炎瓶を出されても困る。なら「油絵の心得LV1」はどうだ?説明には油絵道具一式に特殊能力付与とあるし、熊でも倒せそうなものがあればいいんだが。
あるわけないよね画材だよ。
だがそれがどうした!女の子を助けるのに出来るか出来ないかなんて関係ない。出来ないから逃げるとかは、そんなの男、いや漢じゃない。たとえ画材しか持っていなくても、下心さえあれば何とかなる!
「スキル<整理整頓Lv1>発動!あのグリズリーにお引き取り願って女の子とフラグが立つモノ出ろ!」
「ペインティングナイフ☓10」
無限画材セットから取り出したのは絵画用のナイフ10本。え?これだけ?いくらナイフって言ってもこれ、ちょっとフラットに絵の具乗せたりちょっと細めに線入れたい時に使うやつだよね?ぶっちゃけバターナイフみたいなもんじゃん?刺さんないよ。あのグリズリーには刺さるわけがないよ。
あー・・・でも刺さらなくても投げて接触さえすれば、注意は引けるかも。それなら女の子が逃げる隙くらいは作れるよね。オッケー俺女の子のためなら逝ける!
「オラァ!こっち向けやデカブツゥ!」
ナイフ10本を纏めて一気に投げる。別に纏めて投げる意味は無かったのだが。むしろ上手く投げられなくて最悪だよ!ヤバい当たらない!
ナイフはグリズリーに当たる前に失速して地に落ちる寸前だ。まぁ、当たらなくてもこっちに注意を向けられればいいから、いいか。犠牲者は俺になるけど。
ナイフが地面と接触して音を立てる瞬間、10本のナイフは勢いよく上方に方向転換しグリズリーの心臓を貫いた。
グリズリーは崩れ落ち、絶命した。
え。えー?なぁに今のー?俺っち驚き過ぎて声も出ないよ。何だよ今のチート。実は自分はサイコキネシス的なものが使えるのだよ、ってことはないから、ペインティングオイルと同じくスキルでの補正だろうが・・・。何か釈然としないな、せっかく命張ったのに。いや生きてて良かったけども。
そうして呆けていると、馬車の中から物音がしてきた。おお、呆けている場合じゃなかった。急いで美少女とのフラグを立てねば!
森の熊さんの死体を通り過ぎ、馬車の中を覗き込み、中にいる誰かへ声をかける。
「お嬢さん、もう大丈夫ですよ。安心してください」
相手を怖がらせないよう紳士的な俺の言葉にその人はこちらを見た。柔らかそうな金髪に、空色の瞳。白く陶磁器のような頬はほんのり桜色だ。そう、そこには小さく整った唇を動かし、
「どこの誰がお嬢さんか。今すぐその腐った眼球を刳り抜き目薬に約一月漬けたうえで戻してやっぱり駄目でそのまま自害するのをお勧めするぞ」
と一息に吐き捨てやがる美しい野郎がいた。
これが、この先俺の相棒となる王子(仮名)との出会いである。
<紀久 岬 Lv25>
称号:樹海の主を屠った男
HP:290
MP:2600
物理攻撃力:0
物理防御力:0
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
俊敏:34
幸運:0
<スキル>
整理整頓LV1:どこに何を仕舞ったかすぐに思い出せる。また、すぐに取り出せる。
LV2:整理整頓とは、レベルが上がればパズルみたいなものなのだよ。知識補正+20。
油絵の心得LV1:まずは道具の用意から。油絵道具一式に特殊能力付与。
余談ですが、ペインティングナイフの能力付与は「絶対当たる、絶対刺さる」です。絶対に絵を描くのには使いません。次回は王子目線でちょっと短め。