美術部系男子は限りなく弱い
気が付いたら異世界に居ました。
あぁ・・・これがいわゆる異世界トリップというやつか・・・。齢17にして初の試みだわ。
自分が今立っているのは森・・・というかもはや樹海だな。日の光がほとんど届かないくらいに木々の背が高い。樹齢いくつだよ。
ちなみにここが異世界というのはほぼ間違いない。その辺に生えている植物とかもう地球上に生えていちゃいけないくらいグロテスクだ。
なんか・・・兎?っぽいものを捕食してるもん。あれは近づいたら俺もそのまま頂かれちゃう。
あと木々の隙間から見える空にも竜っぽいのが飛んでいた。腕がそのまま翼になってる様に見えたから、ワイバーンとかなんだろう。きっとあれも近づいたら捕食パターンだ。正直この樹海での俺はヒエラルキー最底辺であろう。
あ、兎?を食べ終わった巨大食人花がこっちを見てきた。ターゲッティング?俺を食べても美味しくないよ。
「・・・オ・・オイシ・・・ソウ。・・・アレ、タベル!」
「喋ったー!?」
食人花が喋っちゃったよ!ああ!土から出てきて二足歩行までしている!どれだけレベルが高いんだコイツは。普通喋る敵って中ボス以上だよ!
どうやら食人花は俺を次のご飯に決めたらしい。それと同時に奴の頭上に名前が表記された。
<マンイーター Lv50>
・・・ここに来てまさかのゲーム仕様!ていうかレベル高い!勝てる気がしない!
いや、だが待てよ。これはおそらく異世界トリップ。しかも謎のゲーム仕様。ならば自分にもステータスがあって、さらにチートなんていうお約束があるかも!?
おっしゃ!善は急げだ!
「ステータス来い!」
俺の叫びに応じて、目の前に半透明のウィンドウが現れた。ッしゃー!これで出て来なかったら恥ずかしい奴だったぜ!
さて、俺のステータスは~
<紀久 岬 Lv1>
称号:下っ端美術部員
HP:50
MP:200
物理攻撃力:0
物理防御力:0
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
俊敏:10
幸運:0
なぁ~んだ、ただの雑魚か。・・・これのどこがチートだ。明らかに攻撃一回で沈むぞ。ていうかやっぱり魔法とかあるんだ。・・・魔法?
それだ!いくらステータスが低くても、スキルとかが最強だったりすれば勝てる!
「おし!スキル来い!」
再び俺の声に応じて現れるウィンドウ。
<スキル>
整理整頓Lv1:どこに何を仕舞ったかすぐに思い出せる。また、すぐに取り出せる。
クソか。んなモン思い出す前に今死んじまいそうだ。
現在目の前の食人花改めマンイーターさんは食後のストレッチなのか触手をウネウネさせるエクササイズ
の真っ最中だが、いつ襲いかかって来るのか解らない。
とりあえず自分がチートを授かっていないことは理解した。だからといってこのまま頂かれたくもないのだが・・・。待ってたら誰かが助けに来てくれる・・・なんてことはないよねぇ。だって幸運0だったもん。こういうとこだけテンプレだよ!
うーん・・・あ!もしかしたら便利なアイテムとかあるかも!ほら、武器は装備しないと意味がないじゃん?気づいてないだけでアイテム覧にチートな聖剣とか入ってたりして!
どれだけチートに飢えてるんだ俺。
「まぁいいや・・・アイテーム来ーい」
もう自棄だ。
<アイテム>
無限画材セット E
学校指定ジャージ上 E
学校指定ジャージ下 E
作業着
新聞紙
マッチ
芋
うん。まぁ異世界に来る前の記憶が焼き芋大会In部室だったから、予想はしてた。最後3つはそのせいだろう。というか美術室で火気はマジでヤバいと思う。何考えてたんだ、油絵用のオイルとかにも引火するだろうに。
・・・やっぱり俺のステータスが極端に低いのも、俺が美術部所属の草食系男子だからだろうか。草食でもあのマンイーターさんは食べたくないけど。
この・・・無限画材セット?もその影響だろう。ていうか無限って何だ。
これが夢のチート武器だったりするのか?見た目はただの木箱だが。ご丁寧に肩かけ仕様だ。
そうこうしている間に、マンイーター改めマンちゃんは、腹ごなしのエクササイズを終えたようだ。心なしかスリムになっている。
そして一歩を踏み出した!
俺の命も終わりを迎えそうです!
駄目だ。もう時間がない!ええい、ままよ!何が何だかわからないが、俺はとりあえず無限画材セットを開けることにした。
パカッ
バタンッ
開けて、閉める。簡単なお仕事だね。
木箱の中は明らかに異次元だった。なんか何色かわからない幾何学模様のカオスがですね・・・。これが無限ということか!おそらく中には無限に画材が入っているのだろう。視認できませんけど!何が入ってるのか全然わかんないよ!
そもそも画材を出せたとしてどう使えと。どう生き残れと。
こうしている間にマンイーターとの距離縮まっていく。意外と遅いなコイツ。俺もジリジリ距離を取ってはいるが、木に邪魔されてなかなか離れられない。
あぁ・・・このまま頂かれちゃって死ぬのかな、俺。
出来れば彼女の一人くらい欲しかった。
その彼女と一緒に暮らしたりしちゃったり。あ、でも駄目だ。俺、整理整頓苦手なんだよなー。どこに何を仕舞ったかすぐに忘れるんだよね、そういうのはあまりモテないと聞いたぞ!
・・・どこに何を仕舞ったか忘れる?
そうか!今こそあのクソスキルを使うときだ!
「スキル<整理整頓Lv1>発動!」
俺は無限画材セットの中に手を突っ込んだ。
「あの食人花を倒せるようなモノ出ろ!」
取り出した手が持っていたものは、
「油絵用ペインティングオイル 速乾性」
だ・か・ら、どう使えと!俺が取り出したのは油のたっぷり入った大瓶だった。鈍器にしろと?
くそ!良い案だと思ったんだけどな・・・このスキルを使えば何が入っているかわからなくても条件に応じたものが出せると思ったんだが。
中身が全て非戦闘用だったのだからしょうがない。
「ていうか速乾性って・・・なんか意味あんのかこれ」
速乾性って普通の油よりも引火しやすいんじゃなかったっけ。確か芋大会の時引火しそうになって・・・
引火。
火!
火だ!あくまで植物なんだから火を付けちまえばこっちのもんだ。火種はあるし・・・イケる!
覚悟しろよマンちゃん!俺を食おうったってそうは問屋が卸さないぜー!!
俺はマンちゃんにオイルの瓶を投げつけ、アイテム覧から出した新聞紙にマッチで火を点ける。瓶はマンちゃんに当たって砕けてしまったようだ。油だらけのマンちゃんはよく燃えるだろう。
「ムカ着火ファイヤー!」
「ガアアアアアアアアアアアア!」
火のついた新聞紙をマンちゃんに投げる。そのまま油に引火し、マンちゃんは消し炭に・・・はならなかったが、良い感じに焼け焦げた。
「かっ・・・た、のか・・・?」
マンちゃんは動かない。俺は生きている。
「・・・・っ~ぃやったあああああ!」
生きてるって最高だ!生きてるって素晴らしい!
俺は生の喜びのあまり、樹海の中を走り回ってしまった。
「・・・ここどこ?」
そしてもちろん迷子になった。
<紀久 岬 Lv20>
称号:放火魔
HP:240
MP:2100
物理攻撃力:0
物理防御力:0
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
俊敏:29
幸運:0
<スキル>
整理整頓LV1:どこに何を仕舞ったかすぐに思い出せる。また、すぐに取り出せる。
油絵の心得LV1:まずは道具の用意から。油絵道具一式に特殊能力付与。