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転生迷宮  作者: デオキシリボ核酸
4/10

仕事が落ち着きました。

感想の返事今からします。



 呼吸は落ち着いた。膝の痛みもどうやら捻ったか、あるいは打撲か。

 脳内麻薬のお陰だかは知らないが、取り敢えずは痛みもさほど感じずに動ける。

 首筋に奔る警鐘が徐々(じょじょ)に強くなっていく、向こうもお遊びはここまでということらしい。

 深呼吸を一回、臓腑に染み渡らせるかの如く、酸素を行き渡らせていく。

 “正しい呼吸法”を無意識に行っている自分に驚くも、今までも知らないはずの知識に助けられたことは一度や二度じゃない。



 こと、この場面においては下手な奇跡よりずっと役に立ってくれるだろう。

 これまた知らないはずの構えを取る。

 無形、両手をだらりと下げ、全身の余分な力を抜く。

 精神だけを研ぎ澄まし、“何処から来ても”対処できるようにする。


 ……

 …………

 ――来たッ!



「そう何度も同じ手ばかりじゃ、飽きてくるぜ! もっとバリエーション豊かじゃないとなっ!」



 キィーィィイイキキィッ!!

 耳に響く音響。タイヤが急激な加速により地面と擦れる音。

 十字路の、自身から見て真後ろから迫ったトラックを横に飛んで回避――

 

「んなっ!?」


 しようとして、目前で急停止したトラックに呆気にとられる。向きを調整して再発進してきたトラックを体勢を崩しながらも何とか避ける。

 この程度の浅知恵程度に引っ掛かりかけるなど、頭が痛くなるが、一瞬で速度を上げてくるそのエンジンはどうなっているのか?

 


「大盤振る舞いだなぁッ! よっと」


 

 壁を突き破り民家に突撃し爆発したトラックを尻目に、その背後から現れた二台目を余裕を持って回避する。

 と、首筋の痛みが一瞬跳ね上がり思わず苦悶の声を漏らしそうになるが、次の瞬間聞こえた風切音に慌ててしゃがめば、頭上を通り過ぎる刃渡り三十センチ近くのダガーに顔が引き攣る。



 しゃがんだ状態から両膝に力を込めて宙返り!

 そのまま一瞬の浮遊感を感じた後、前を向けば先ほど青年が居た筈の位置、丁度頭があったあたりを通り過ぎる銀光。

 後一秒でも遅ければ、首筋から真っ赤な花が咲いていたかもしれない。

 そのままバックステップで数メートルの距離を取る。



 追って来ないのか? フード付の黒のサーコートの下に更にロングコートで身を包み、強盗がつけるような黒のマスクを着用。

 これまた黒の手袋に握ったダガーをゆらゆらと不規則に揺らし、移動する気配を感じさせない。

 狙いは何だ? と思い一瞬地面に視線を向けた瞬間、垣間見えた影の正体を見極めるよりも速く、身体を捻って回避!

 一瞬の差で突き込まれるのは波のような文様が美しい、どこからどうみても“日本刀”。

 右にはダガーのマスク野郎で、左側には、オペラ座の怪人がつけていそうな仮面を付け、対照的に白装束の日本刀野郎。

 


 脳裏にちらついた言葉は“テンプレート”と、“通り魔”の二つ。

 成る程、そう言えばと、読んだ小説の転生の中には通り魔によって殺されて。

 なんて展開が結構あった事を思い出す。

 と、言っても……



「明らかに銃刀法違反な装備でもなければ、そんな怪しさ全開の見た目でも無かったとは、思うっがなッ!」



 同時に迫ってきた二人(?)と称してよいのか、そもそもこんな異常な場で出会った人物だ、人間に分類してよいのか不明である。

 その猛攻を人間離れした身体能力と、動体視力のお陰でぎりぎり回避していく。

 正直刃物が首筋を掠めそうになるたび、脳内麻薬で麻痺した恐怖心が精神を焼き焦がそうとちらつくのだが、一瞬の迷いも許されない連撃が、逆にその恐怖心に囚われる時間を与えないとは、なんて皮肉か。

 袈裟懸けに振るわれた刀をバックステップで避け、そこから踏み込まれ、逆袈裟懸けの切り上げを左周りに回転して回避。


 後ろから迫ってきダガーの突きを、回転の勢いを乗せた回し蹴りをマスク野郎の腕に叩き込む事で防ぐ。

 武道なんて心得は無い。しかし、まるで“身体が知っている”かのように動く。



 ボキリと、嫌な感触を感じ入る暇もなく背後から振るわれる刀。

 夕日に煌く銀光を、獣染みた動体視力で軌道を読み、避ける。

 一閃、二閃、三閃! 避ける、避ける、避け、れない!?

 気づけば民家の鉄柵に追い込まれていた。右側からは片腕をだらりと下げた黒マスク野郎が、逆手にダガーを構えて迫っている。

 左は……思わず舌打ちが漏れた。電信柱とは運が尽きたか!?



 なんて思考する前に両腕を万歳して全力で跳躍! 鉄柵の上部をガッチリ掴む。

 そのまま両足を重直になるように柵に合わせ、全力で蹴り出し逆握りで逆上がり。

 間一髪ッ、ガッキィンと鉄柵に刃が擦れる音が響く。

 身体が真上よりやや後方に来たところで両手を離し、遠心力に導かれるまま鉄柵から数メートルの距離を稼ぐ。


 取り敢えず殺陣から逃れた事に深い安堵の息を吐く。よく見れば衣服はかなりズタボロで、刃物の鋭さが窺えた。

 今更ながらに肝が冷えてくる、一般人(?)には荷の勝ちすぎた展開だ。



 殺らなければ自分が“殺られる”、そんな空気と雰囲気。

 相手の一挙手一投足、そのすべてに“迷い”が無い。

 感情を一切窺わせないマスクに仮面、殺意なんてものは流石に分かりはしないものの、向けられている気迫は重厚で空気が質量を持ったかのようだ。

 鉄柵は常人には中々厳しい高さを誇っているが、数分もしないでよじ登ってくるだろう。

 どうするか? そんなのは決まっている……!



「あーばよぉ、とっつぁ~ん!!」



 全 力 で 逃 走 ッ!


 元より正面から突破出来るなんて思っていないし、ましてや撃破なんて無駄無駄無駄! もいいところである。

 素人目から見ても相手は戦闘経験者。青年がまがりなりにも互角に立ち会えたのは、その人間離れした運動能力と、驚異的な動体視力の賜物であった。

 体力と精神が尽きれば、待つのは無残な結果だろう。

 ゆえに、戦略的撤退こそが最善。決して! そう、決して逃げではないのがミソである。


 かなり広い庭を真っ直ぐ突っ切り、反対側の鉄柵に跳躍一つ。

 両手を縁に掛け、そのまま鉄柵を蹴り上げ先程と同じ要領でくるりとひとっとび。

 民家の隣は別の家に繋がっており、柵を越えるか閉まった門を壊すかの二択しかない。

 全力で走り、首筋の焦燥感が薄れたところで一休憩。



「あ゛あ゛あ゛あ゛……キツイ。何だよあのマスクと仮面野郎、何所から沸いて出てきたっつぅんだか」



 電信柱に背を預け、ぜぇーはぁぜぇーはぁと酸素を求めて喘ぐ肺に空気を命一杯送ってやる。

 数分で呼吸を落ち着け、ぎりぎりの逃走劇を逃げ切ったことにより、弛緩しかける精神に気合を入れる。

 自分だから何とかなっているものの、それ以外の素人だったらとっくにテンプレを貫いて、転生だかなんだかをしていることだろう。

 もっとも、この一連の異常事態が本当に巷で有名な神様がなんたら~、という証拠などある筈もなく、また確かめる気もないのだが――――







「あぁー、逃げられちまったよ。初めてじゃねぇーのかこれ?」

「まったくだ。一体どんな危機察知してやがるんだ、あの坊主?」



 青年が休憩している一方。まんまと逃げられてしまった青年曰く、“マスクと仮面野郎”の両名は地面に座り込み、開いた口元を利用して煙草をふかしていた。

 話題は先程逃げられてしまった青年について。

 この二人。テンプレな小説で言い表すなら所謂“死神”というやつで、実はずっと昔から青年の魂を付け狙っていた者達であった。

 十年前から事故に見せかけようと色々手を尽くしたのだが、どういう訳かそのすべて、尽くが失敗に終わってしまっているのだ。

 それで遂には彼らの直属の上司、この世界を基点として発生している泡沫世界の集合体、“世界樹”に存在する全ての魂を管理統括している閻魔に、


『何時まで掛かっているんだボケぇ!』


 と、お怒りを食らってしまい、仕方なく強行手段に出ることにしたのである。

 しかし、結果は惨敗。彼ら死神は基本、その世界であり得る事故などを装って死を運ぶ。

 ゆえに超常の異能はこの世界では使う訳にはいかなかったのだが……

 


「まぁ、完敗だわな」


 マスク男がゆらゆらと器用にマスクの隙間から煙草を銜え、紫煙をくゆらせながらぼやく。


「姫さんの裁量で結界まで張ってもらったつぅのに。それでもこのザマだしな」


 

 怪人というより、怪盗のような姿をした方がマスク男の答えを求めていない問い、それに律儀に答える。

 身体能力を著しく制限していたとしても。それでも獲物を取り逃がしたのはここ数千年で初めてであった。

 二人が停滞した夕日に染まった空を眺める。

 逃げられたというのに、この余裕は如何なる理由か?



「まっ、やっこさんの運もここまでだわな」

「俺達の手で仕事を完遂できないってのは、まぁ目を瞑るべきか?」



 ゆらゆらと紫煙が拡散して消えてゆく。

 焦り? そんな物は必要がない。

 何故? 青年の向かった先には彼等二名とは別次元の“神”が居るからだ。

 力の制限などされていない、いや、出来ない存在。

 神の端くれたる二人から見れば天上人の如き存在、直属上司の閻魔ですら霞むお方。

 ただ一つ。疑問があるとすれば――――



「なんで、あんな方がわざわざオリジナルの世界とは言え、一介の人間の魂狩りなんかにでしゃばって来たんだ?」


 そう。そんな存在。姫と呼ばれる程のお方が何故、自分らの仕事なんかについてきたのか。


「さぁてねぇ。俺達なんかの知る由ことじゃぁねぇんだろうけどなぁ。ただ、これは噂なんだがよ。姫さんは俺等が誕生するより前から、ずっとずっと昔からとある魂を見守ってきたっちゅう話だわな」

「それがあの坊主だってのか?」

「さぁてな。噂はあくまで噂でしかありゃせんさな」



 ゆらゆら、ゆらゆらと、煙草の紫煙が彼方へと運ばれていく。

 自分達に殺されていれば、まだ理不尽な思いはしなかっただろうにと。

 なまじ中途半端に生き足掻いてしまったがゆえに、触れてはいけないお方に向かってしまった。

 それが運命なのか、偶然なのかはどうでもよいことだとマスク男は考える。

 どちらにせよ、青年の末路は変わらないのだから、と――





後書き


主人公が死んでくれないです。

なんかとっても足掻いてます。

予想外です。おかげで伸びてます展開w

ここ数日、仕事の関係で全くこれなかったです、申し訳御座いません^^;


それでは感想評価・お気に入り登録に誤字脱字やアドバイスなど、心よりお待ちしております!

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