表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生迷宮  作者: デオキシリボ核酸
3/10

 夕日が現代の大迷宮『ヒャクマンキュウジンコウトシ』を遍く染め上げている。

 素直に綺麗だと思う。珍しく今日の夕日は大きく、色も随分と赤い。

 まさしく黄昏時、いや……降魔が時と呼ぶに相応しいだろう。

 地形『コンクリートジャングル』に属したこの迷宮には、様々な魔物が出現する。

 代表格と言えば『ココウノイヌ』や『ノラネコ』などだが、群れを成す『カラス』は一体の戦闘力はそうではないものの、その知能と嘴による貫通攻撃は侮りがたい。

 状態異常バッドステータスの一つ、失明を食らえば戦闘は絶望的だろう。



 他にも『ドブネズミ』と呼ばれる魔物は注意が必要だ。

 奴らは一体見れば数体は潜んでいると思え! と、そう言われる魔物であり、何より厄介なのは、状態異常バッドステータス『病気』を低確率で感染させてくるところだろう。

 他にも南部に生息する『漆黒ノ悪魔』等は最悪と言える。

 まず見た目がヤバイ、そして何よりしぶとい癖に素早い! カサカサと音をたてては縦横無尽に動き回り、こちらの精神力スピリットポイントを削ってくる嫌らしい敵だ。

 しかも時たま発動してくる『飛行』は悪夢めいた威力で有名である。

 撃退したらしたで、置き土産に『タイエキ』というエリア魔法を残していく徹底ぶり。



 このように、現代の迷宮には多くの危険生物が潜み、日夜冒険者(シャカイジン)非冒険者ガクセイを苦しめている。

 最近では生産職セイサンガイシャやその他によって、『漆黒ノ悪魔コロリ』などと言った、特定の種族に対して絶大な威力を発揮する武器が作られたりと、人類だってやられっぱなしという訳ではない。

 しかし、何も敵は魔物ばかりではない。

 冒険者ギルドでも悪質な『ヤミキンユウ』や『ヤクザ』、他にも『ゴクドウ』なども存在しているのだ。



 大手ギルドである『ケイサツ』によって厳しく取り締まられてはいるが、一部は非合法な手段や癒着を用いて巧みに法の網を潜り抜ける組織も多い。

 それだけではない。フリーランサーの中にはPKを目的とした『ハンザイシャ』。

 更に分類訳をして、『カイラクサツジンシャ』や『ユカイハン』、それに『ヒトサライ』や『ゴウトウ』などはギルドに属していないことが多く、決して油断を許さない存在だ。

 彼らは何時現れ不幸の鐘を鳴らしていくのか、誰にも分からないのだから……



「なんてね。題して現代ロールプレイングゲーム、中々売れそうじゃないかね?」



 夕日を眺めながらも歩くの悪くは無かったのだが、ついつい埒の無い事を思考してしまう。

 昔からどうも“迷宮”という言葉には強く惹かれる物があるらしく、もっぱらプレイするゲームもRPG系ばかりである。

 読む小説なども、迷宮物が大半であるところを見るに筋金入りであった。

 それにしてもと立ち止まりながら思う。いくら高級住宅街であり、繁華街や中心地、駅前などと比べれば人が少ない場所とはいえ、こうも“誰も居ない”のはおかしくないか?



 誰一人出会わないのだ。そもそも人の気配さえ希薄どころか皆無である。

 それに何か危険が迫ったときに知らせてくれる首筋に奔る警鐘。

 それが今までとは比較に成らないほど痛みを発していた。

 降魔が時。戯れで思い出した言葉であったのだが、自分自身が少しばかり日常から半歩程だが逸脱しているため、どうもその言葉を頭ごなしに否定できない。



「これは……本当にヤバイか?」



 思わず漏れる言葉。今まで様々な出来事に直面してきたが、これほど“異常”な事態は正直初めてであった。

 人が消えた都市。今更に気づいた事実だが、あれだけ喧しく騒いでいた蝉の鳴き声が止んでいる。

 それに、と。“静止画の世界”のように雲が一切流れていないとあっては、もう決定的だろう。

 どうやら自分は不可思議な世界に迷い込んでしまったようだと……

 自分こそが超常の証たる、普段は隠している運動能力、及びそれに付随した五感をフルに稼動させる。



 危機を知らせてくれるらしい首筋の痛みは、既に振り切った電極のように暴れ狂い青年を苛んでいる。

 ともすれば、警鐘のはずのその痛みで集中を欠いてしまいそうなものだが、人一倍修羅場を潜って来たことによる胆力と、生まれついての痛みに対する耐性で無理やり押さえ込む。

 本能が、あるいは魂とも呼べる部分が叫んでいた。“油断するな”と。

 死神の鎌は既に己の首筋へと狙いを定めていて、一歩間違えば破滅が口を開けて待っているのだと、そう首筋の警鐘と第六感的感覚が囁いている。


 

 何処から来る? 警鐘は鳴りっぱなし、かつてない程にだ、それなのに何時までたっても何も起こらない不気味さ。

 ――まるでこちらの隙を窺っているようだ……

 その考えは荒唐無稽に思えてその実、五感とは別の感覚が正しいのだと囁きかける。

 今までだって何度となくそれに助けられてきた。最早自身の半身とも呼べる感覚。

 ……冷や汗が背中を伝う、感覚を研ぎ澄ませて維持するのは途方もない体力と、そして精神力を消耗する。

 今自分のステータスが見れるならば、HPとSPが徐々じょじょに減っていることだろう。



 頬から流れた一筋の汗、それが地面にぽたりと垂れ落ちた瞬間――――

 キキキキィィイイッ――――

 それはまさに間一髪! 見晴らしがよいと選んだ十字路、背筋に走った悪寒に任せ勢いよくその場から飛び退る。

 同時に通り過ぎたのは大型トラック。警戒は怠っていなかった、それでも“察知出来なかった”。

 まるで突然現れたかのように、“近くから”急に音が聞こえたのだ。

 ギリギリだが見事な回避を見せた後、再び聞こえてくるエンジン音!



「ざっけんなよっ!」



 再び別の道から突っ込んで来たトラックを、回避した運動力を利用して独楽こまのように回転。

 そのまま素早く近くの壁まで移動して回避。

 今度は先ほどより余裕がある、座席に座っている犯罪者くずれを拝んでやろうとして――


「マジかよッ――」


 キキキキキィィイイイッ!!

 今度は同時に二ヵ所から迫り来る大型トラック。

 それを近くにあった電信柱に素早く組み付き、スルスルと駆け上がり、電信柱にトラックが衝突する瞬間、一世一代の大ジャンプ!

 迫っていたもう一台に乗り移り、そのまま再度小ジャンプ。

 地面に着地する瞬間受身の要領で転がり、勢いを殺す。



「ッッ――」



 それでも一回目のジャンプで、化け物染みた運動能力を有する肉体と言えど無理が祟ったか、膝に鋭い痛みが走る。

 それよりもと、先程一瞬だが見えた座席、“無人”であったのだ。

 いよいよ異常ここに極まれり、なんて考える余裕もなく、黒く細長い影が自身を覆う。

 折れてしかも、こちら目掛けて倒れてきた電信柱を全力で転がり回避するッ!

 膝に鈍い痛みが走るがそんなものは無視である、トマトの様に潰れてあの世行きなんて勘弁して欲しい。


 

「ぎりぎりかっ!?」



 足を掛ける為の突起に上着が引っかかり、一瞬脂汗が滲んだがまだまだ運は尽きてないらしい。

 上手い具合にするりと脱げ、巻き込まれずに済む。

 どうやら第一波は潜り抜けたのか、ぜぇはぁぜぇはぁと呼吸を整えながらも、首筋のチリチリ感が小さくなったことに安堵する。

 一体どうなっているのか説明して欲しいくらいであった。

 脳裏に浮かぶのは最近読んだネット小説の“転生トラック”と言う文字と、“テンプレート”という文字。



 成る程と、静まってきた動悸を確認しながら考える。

 今までも何となくそうではないのか、そう思っていたが、今回のこれでもう確定だ。これ以上ないくらいである。

 ここまで異常な事態を見せ付けられ、体験すれば否が応でもその存在を信じずにはいられない。

 今までは半分冗談程度に思っていた知識だが、どうやらやっこさん、とうとう堪忍袋の緒がちょん切れてしまったか、元から短いであろう忍耐の緒が、ポッキーを齧り尽くすが如き勢いで消耗してしまったようだ。

 脳内麻薬でも大量に分泌しているのか、恐れるどころか、不思議な高揚感。

 或いは狂った輩ならよっしゃぁああ! と自分から死にに行くのかもしれないが……



「上等じゃねぇか。何所の何方様か知らないが、そのテンプレだか天麩羅だか知らねぇけどよ、全部旗折(フラグクラッシュ)してやるぜ!」

「っと! 怒らせちまったのか?」



 何所から飛んできたのか、ポール付きの看板をしゃがんでよける。

 勝負は始まったばかり。向こうさんの執念勝ちか、それともこちらの根性勝ちか……

 


「最後まで見てのお楽しみってな!」



   

後書き


次回で現世編は多分終了です。

如何でしょうか? この溢れるテンプレ展開!

次回は更に加速する天麩羅地獄!


え? 何か違う?

……いやいや! 人助け交通事故に転生トラック、ポール。

次話で出るのも含めて、テンプレの塊でしょう!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ