玖
更新が遅れて申し訳ありません。
今回の話しの際、一部設定が変更されました。
タルタロスのお金=迷宮で得られるポイント。
宝箱で入手したマント=怪しげな仮面。
以上が変更点となります。
「っと……ここはポータルか?」
《左様、リコールは登録したポータルに自動で帰還するようになっておる。登録方法はポータルを起動し、ウィンドウの帰還登録から行えるゆえ、覚えておくがよかろうて》
光が晴れた後出た場所は宿屋、シュピーゲルの近くにあるポータル前であった。
フェルがざっと仕組みを話してくれた後、再び口を開く。
《さて、鑑定所に行かねばなるまいな。一度ポータルに触れよ》
言われるままにポータルに触れる。
すると、例のウィンドウが一瞬で光子から結晶化、物質化していく。
その様子に無駄と知りながら、光子の物質化なんてどんな理論なんだ? という疑問が浮かぶ。
やがて数秒に満たない時間で、完全な仮想ウィンドウとして立体化した。
《マップという項目があるであろう。それはそのポータルを中心として、段階的な地図を表示するゆえ、先ずはそれで現在地と、目的地を探し、必要ならポータルで移動するのが定石よな》
「なるほど。最初聞いた時は、その広さに驚いたけど、上手く出来ているもんだな」
《まっ、この辺はそうでもないが。人通りが多いと、ポータルの利用も大変なのだがのぉ》
そう言って渋面をするような雰囲気がエニシへと伝わる。
もしかしたら過去嫌な思いでもしたのかもしれない。神がタルタロスに来れるかは不明だが。
言われた手順どおり、MAPと書かれた項目に指を滑らせると、この辺り一帯の地図が別ウィンドウで表示された。
ポータルを中心とした半径十キロ、そこから更に倍率を可変出来るようになっている。
MAPには色々なマークが印されていた。
例えばポータルなら小さな球状のマーク、宿屋なら宿のロゴ、武器・防具なら剣か鎧のマーク。
他にも多くの様々なマークが犇いていて、想像出来るものから、一体どのような意味なのかまったく持って不明な物まで多種多様であった。
フェル曰く、ルーペのマークだと言う鑑定所はどうやらこの辺りにはないらしく。
仕方なしと倍率を一段上げる。すると大よそ二倍近く地図が広がった。
試しにそこから更に倍率を上げてみれば、更に倍に広がる。
成る程と頷き、一段下げると目的のマークを探し出す。
ふと、丁度倍率四倍のMAPの一角、とある一点に多くのマークが重なり合うように混在する場所が目に付く。
武器屋や防具屋、目的の鑑定所は無論、検討の付かない類の物まで、ざっと見ただけでも十以上は優に割拠しているようだ。
すると、当然とある疑問が脳内をコサックダンスで存在を主張し始める。
「なぁフェル、ここって何かあるのか?」
取り敢えず分からなければ質問だ、と言うことで困ったときのフェル頼み。
扱いが何となく青狸に近いかもしれないと、エニシの脳裏に一瞬浮かぶもまぁいいやと振り払ってしまう。
《ふむ。恐らくじゃが……市があるのであろう》
姿は見えずとも、覗き込むような気配が伝わり、一瞬後返答が返ってくる。
「市って、あの市?」
《どの市か知らぬが、恐らく微妙に違うであろうよ。この場合の市と言うのはの、人の集まり易い場所に自然他の店が集まり、更にそこから迷宮挑戦者達の露店なんかが集まって出来た広場や界隈を指す。規模で言えば中規模であろうが、そこもそう言った類のものであろう》
「へぇ、なんかまるでリアル・オンラインゲームって感じだなぁ」
呟いて、本当そうだよなぁと思わずにいられない。
ネット小説のVRMMORPGも元を辿れば、この世界を感知したのがネタなのだろうか。
と言ってもこの世界の管理者は人ではなく、よく分からない化物どもであり、しかも人を見ては暇潰しときたもんだ。
今はまだ今一実感というよりは、憧れの迷宮への挑戦という思いが占めているが、気をつけないとどこかで痛い目を見るかもしれないと気を引き締める。
「んじゃ、その市場ってやつに行って見ますかね。んと、距離は……遠いな。距離にすると二十五キロくらいあるんじゃないのか、これ」
《大抵市の近くはポータルが複数ある筈じゃ、行きは楽ゆえ、一番近いのを選ぶがよかろう》
「諒解」
ざっと視線を走らせれば確かに三箇所もポータルがある。
市の中枢に位置したものを選びさっと指で触れた。
瞬間、三度目となる光が視界を多い、足元がふわりと浮く感触と共にジャットコースターのような心臓に悪い浮遊感――
瞳を開ければ宿屋の広場をより大きくしたような場所に出た。
町並みは明治と言った風情らしく、微妙に屈折した洋館やら和館やらが混ざっている。
人も多く、周囲に視線をやれば優に百名以上は目に映った。それも視界の一部なのだが。
市場全体でなら千人は優に越えていることだろう。
《む、どうやら無事着いたようじゃな。鑑定所の位置をポータルでもう一度把握しなくて大丈夫かの?》
《ああ、この身体は物覚えがいいからな。しっかりと記憶してるようだから大丈夫だろう》
そう告げて歩き出す。
風景は古き良き風情だと言うのに、歩く人々は総じて外観にそぐわない事甚だしい。
それこそ現実感を喪失しそうな程、である。格好も地球からすればコスプレより酷い上に、頭髪なども信じられない色合いの人種のなんと多いことか。
同じような白人や黄色人種、黒人は良い。そこに所謂“獣人”だとか、“エルフ”だとか、果てには何の部類なのか知れない人種など、多種多様に溢れていた。
ハッキリと言って浮いている。エニシが、と言うのもあるがここは別の意味だ。
この明治風の景色からまるで水と油のように浮いてしまっていた。
それも地球から来た為なのかもしれないが……
広場こそあちらこちらで威勢の良い声が聞こえたのだが、道に出ればそう言った喧騒はなりを潜め、露店主らしい人物が地面に商品を置いており、それを人が通りざまに見ていく、という感じである。
現代人的感覚からすれば、盗難とかが心配になるような光景だ。
ふと、周囲の話し声を聞いてとある事実にと言うか、今更ながらにある部分に思い至った――
《どうして周りの言語が全部日本語なんだ?》
《タルタロスではありとあらゆる言語が、受信者の都合の良いように変換されるのじゃ》
その言葉の意味を一瞬理解出来なかった。いや、したくなかったというのが正鵠か。
無限とも思える言語の数々、それを遍く一切漏らさず変換する技術、あるいは妖術とも魔術とも呼べばいいのか。
どちらにせよそれ程の事実を可能足らしめる力とは一体どれ程なのか、改めてその恐ろしさに背筋が薄ら寒くなる。
《どうしたかえ?》
《いや、なんでもない》
不審な気配でも察知したのか、フェルが何気ない質問をしてくる。
その問いに自分自身に言い聞かせるように返した。
電信柱のない明治風の町並み、何となく日本人だからか懐古の念に近い思いがエニシの胸に湧き上がる。
その大広場より一本、二本、三本とメインストリートを外れていく。
歩き始めて十分近く、目的の鑑定所が姿を現した。
路地裏と言うほど寂れてはないが、人通りの侘しい道の一角に佇んでいる。
ガラス張りのショーウィンドウにはエニシには良く分からない品々が並び、奥のカウンターには店主らしき人物が座しているのが覗えた。
マップ機能があるとは言え、客足が良さそうにはどうも思えない立地と言えた。
――――カラン、コロン……
「いらっしゃい」
飴色の木製ドアを開けると客の来訪を告げる鐘が鳴り、初老の域に差し掛かるであろうややしわがれた声が耳に届いた。
声のした方に歩を進めるのと同時、店内をさり気なく見やる。
ショーウィンドウと同じく、何に使うのか不明の品や、仮面や装飾品、曰くありそうな武器などの品などが雑多に飾られている。
他にもガラスケースが並び、同じような感じで品が納められているらしく、これが時計や宝石なら日本で開店してても通用しそうな雰囲気であった。
アンティークショップとしてなら、もしくはこのままでもいけるかもしれないが。
「鑑定が希望かね?」
「はい、これなんですが」
ブレザーの懐から宝箱から入手した仮面を取り出し、カウンターの上に乗せる。
品の良い口髭に、白髪を後ろに流し、モノクルを装着した老人がそれを手に取り真剣な表情で眺めだす。
鑑定と言うにはあまりに鑑定らしい姿。矛盾した言葉だが、想像と違ったため残念感が五割と残りは安堵感だろうか。
もっとこう、超常的な行為でやるのかと思っていた為、少々拍子抜けであった。
「ふむ。見た所まだタルタロスに着て日は浅いだろう? これは何層目で?」
「先日来たばかり。そっちのは一層目の初戦の宝箱から出てきた」
「そうか……」
そう言ったきり再び仮面を眺めだす。
五分程、モノクルで観察したり、手触りを確かめたりした後、再び口を開いた。
「名は『解放者の面』効果は段階式開放型じゃな。十レベル毎に様々な能力が開放されるようになっておる。一レベルでも一つ開放されておるから、装備してから見てみるのがよいじゃろう。ただし、これにはどうやら呪いが掛かっておるようでな、一度装着した場合、特殊な解呪方法以外は外せなくなろう。ちと、変わった装備じゃが、能力は恐らく一級品じゃろうて。一層目で出たと言うのが信じられんほどじゃよ、大事にするがよかろう」
「サンキュー!」
「また何か見つけたら持ち込むがええ」
返して貰った面を片手にナイスミドルな鑑定士の翁に手を振り、店を後にする。
この鑑定自体にポイントは必要ない、というのには驚いた。
なんでも鑑定士をやっている人物は、望んでその職に就らしく、その望みそのものが様々な未知の品物に触れるということらしい。
つまり、鑑定そのものが報酬となっていると言うことだ。
《して、その面を装備するのかえ?》
「ぁあー、装備するのは良いんだけどさ、この面、どっかで見たことある気がするんだよなぁ……」
宝箱から取り出したときは、しっかりと観察しなかった為、改めて見れば随分特徴的な面であった。
種類的には鬼面、と呼ばれる類なのか、額にあたる部分の両端は天に向かって一対の角が生えている。
長さは恐らく十五センチにもなるだろうか?
額の中央に当たる部分は仮面の真上から逆T字の切れ込みが入り、縦の切れ込みの両横には一センチ程の同じ縦の切れ込みが入っている。
こちらは逆T字と違い、仮面の外までは抜けていない。
額から鼻はどうやら覆わないらしくそこから左右に別れ、口元は覆わず牙の形でその少し両上で止まっている。
平面ではなく、顔の形にあわせて凹凸があり、眉の近くは盛り上がり、鼻の部分も同じく。逆にその両側はやや凹み気味だ。
色は見事な白色で、材質は木や鉱石というより、その色も相俟って“骨”のようである。
というより、その奇妙な形といい何かの生物の頭蓋、その前部をそのまま取り外したかのような印象であった。
流石にそれは考えすぎかもしれないが、超常的な雰囲気、異彩とも言うべきものを放っている面だ。
奇妙な点と言えば、その目に当たる部分は空洞となっているのに、黒いと言う点だろうか。
誇張でも何でもなく、ひたすらの暗黒。闇に包まれていて光すら反射も通しもせず、表からも裏からも先を見通すことが出来なくなくなっている。
着けたが最後、視力が失われる、なんて言う事態は勘弁であった。
奇妙なフォルムながら、着ける人が人なら似合わないでもない。そう思える程度には奇抜ながら、一種芸術的ではあるのだが、やはりどこか見覚えがある。
何かのアニメかゲームにでも、近いものが出たのかもしれない。
と、そう考えて思考を放棄してしまう。
フェルの言う通りなら、一部のゲームやアニメなんかは別世界を模して考えられた、なんていう事も十分にあり得る。
それならば、この仮面もそういった世界のオリジナルか複製品の可能性もあるだろう。
「ここで着けるのは流石に恥ずかしいからな、一度迷宮に行こう」
《ふむ、あい分かった。しかし、注意せよ? 今はまだ日が高いゆえ問題はないが、夕暮れ以降、夜は魔物の種類が変わりおる。しかも昼より数段強力、凶暴とくるゆえな》
「諒解!」
仮面を観察しつつ、広場まで移動し。
数人集まって、気後れしそうになるポータルを起動する。
行き先は予想外にスライムが手強かった迷宮第一層目だ。
指先を一層目と書かれた部分に当てれば、最早馴染みの光が目を覆い、浮遊感が訪れる。
僅か数秒。気づけば、あの大草原に再び立ち戻っていた――――
後書き
某仮面です。
微妙に形や特徴は変化していますが、仕様です。
あれって石仮面みたいですよねw
何のことか分からない? それならそれで良いのです。
因みに、この仮面付けると、瞳がターミ○ーターの如く赤光を放ちます。
外円は黒く、中央は赤の光点。
作者は厨二病を発症したようです――
迷宮がずれ込みましたが勘弁をw