私じゃない
「ぼく、普通車の合格者です」
後ろの方の席に座っていたのか私よりずっと後ろの方から声が聞こえてきた。みんながその人を見て、その人が注目を浴びることになった。おとなしそうな大学生ぐらいの人だ。その人は申し訳なさそうに俯いていた。
「あ、そうなの?じゃあ隣の教室に入って」
試験監督は怒ることもなくあっさりそう言い、その人は、席を立ち教室を出て行った。
私じゃなかったんだ、、そう思っていいのかな。
試験監督は念の為、残りの受験番号と名前を読み上げ確認を続けた。57番の人が呼ばれ、私はまだドキドキしていた。次、本当に呼ばれるのだろうか。だって私は左側の掲示板を見てしまっていたのだから。
「次58番」ドキドキが最高潮に達していた。
「はい!」
私は手を挙げ返事をし、ようやくこの緊張感から解放されたわけだ。合格してたんだー。よかった。
それにしてもあの人はなぜすぐに名乗り出なかったのだろうか。試験監督が受験番号と名前を読み上げる前に、ここは原付免許で、普通車の人が紛れていないか言っていたのに。
あ、もしかして。その時私はわかったような気がした。シーンとした場所で大勢の人がいるなか、名乗り出ることがどれだけ勇気がいるか。もちろん何とも思わない人もいるだろうけど、現に私がそうだったように、もしかしたらその人もなかなか言えなかったのかもしれない。周りから見ればこういうのを消極的とか言うのかもしれないけど、本人にとってはみんなの反応が怖い、恥ずかしいと思う場合もあるよね。生きていたら、いろんなことに遭遇する。たった16年間しか生きていない私でも、今日のことは史上最強のピンチだと思ったんだから。
いつか笑い話になればいい。そう信じて、人生で初めての免許証交付手続きをするのだった。




