スーバの恋愛研究室 ~研究対象、『恋』にしました~
キャラクターを魅力的に書けるようになりたい、という練習で描いた短編です。
ストーリーはここで一旦終わりますが、彼女の考え方や恋愛に対する視点を楽しんでいただければ嬉しいです。
「ハイパボリックタンジェント―! 来てくれた皆、ありがとー」
アタシはマイクに向かって笑顔を作った。
デスクトップ上にはアタシの動きに連動したキャラクターがフリルを覗かせている。
「さて、さっそく本題に行きましょうっ。今日の恋愛相談のお相手は・・・
『匿名が本名』さんっ」
胸が高鳴る。
この人はアタシに恋愛感情を『体感』として理解させてくれるのか。
アタシはこの人の恋愛を成功させる手助けをさせてもらえるのか。
オンラインチャットアプリが起動して、まだ幼い少女の声が聞こえた。
「恋愛探偵スーバさんっ、僕と付き合ってくださいっ」
!*-*’
アタシは教師の父と学者の母の元に生まれた一人っ子だった。
二人とも家にほとんどいなかったから、本スペースと呼んでいた壁一面本に囲まれた部屋で一日中過ごしてた。
別に寂しいって感情はなかった。
本は人よりも雄弁で、かつ理知に溢れたものだったから。
小学生に上がるとクラスのリーダー格に躍り出た。
風邪一つ引かない頑丈な体、親譲りの明晰な頭脳で年上だろうが喧嘩なら負けなしだった。
人より上、という自覚だけの生意気な少女。
それが小学生の頃のアタシだ。
変わったのは中学生の頃。
皆が思春期を経て色づき始める頃合い。
クラスでは毎日、誰が誰のことを好き、誰が誰と付き合った、または別れたという話がひっきりなしに飛び交った。
果ては顔も知らない二つ上の先輩のスキャンダルまでもが耳に入ってくる。
運命の瞬間は掃除の時間中、髪をまとめるためのゴムを教室の引き出しに入れっぱなしにしておいたことに気づいて、戻ったとき。
一人の男の子が言い放った「藤村は恋愛対象になんねぇだろ」だった。
羞恥なのか、怒りなのか、顔を真っ赤に染めた。
口の中に入る毛先なんて無視してトイレ掃除をしていると、ふと気づいた。
アタシはショックを受けたんだって。
でも理由がわからなかった。
誰かを好きになったこともないし、ましてやその男の子が好きだったわけでもない。
その日、学校が終わるとすぐに家に近い図書館に寄った。
恋愛のハウツー本をひとしきり見終わってもピンとこない。
そこでアタシは隣の書架にあった心理学のコーナーへと寄った。
人の心のことならば、心理学も間違いではないだろうと。
ココにもう一つ運命の言葉に出会った。
恋愛の格言ですらない、知らない作者の書いた末尾の文章。
「誰かの言葉に傷つくのは、その人を自分が認めていない証拠だ」
ストンと心の深いところまで浸透していった。
もし逆らうことすら馬鹿らしいほどに優れた相手から、「君は恋愛対象にはならない」と言われたら、そうか、改善する余地があるんだってなる。
でも下に見ている人から言われたら、どの口が言ってるんだって怒りたくなる。
その日は納得もあって、ぐっすり眠れた。
しかし次の日、学校に言ってみると他の人の目が気になってしょうがかなった。
他の人の目に映る自分の姿が気になって、授業の例題すら解くことができなかった。
早退をして家に帰ると創立記念日で昼までだった父が熱心に物理の参考書を解いていた。
「お父さん、アタシって女の子としての魅力ない?」
「魅力は一つではないけど、端的に言えば容姿が問題だな。お父さんとお母さんに似てるから、容姿は偏差値で言うと45くらいだ。配置は悪くないがパーツで -5 ポイント」
今思えば、思春期の娘に言うことではない。
でも、そのときのアタシは自分の容姿は優れていないと理解しただけだった。
なんなら部屋に戻る間際にお礼を言ったくらいだ。
そこからは悪戦苦闘の日々が続いた。
容姿が優れていないのなら、後は対人技術を磨くしかない。
持って生まれた頭をフル回転させて、心理学の勉強、コミュニケーションの実践に励んだ。
できるなら、本当の意味で対等な人間関係を築きたいと願って。
最初は小賢しいと煙たがられもした。
心無い言葉を投げかけられて、その人の前で泣いたこともある。
でも図書館で出会った言葉を胸に、何度も挑戦し続けた。
中学校を卒業する頃には男女問わず恋愛相談を受けるようになっていた。
男子からは告白するときの女子の目線を、女子からは心理学を用いた恋愛テクニックを。
高校に入っても、恋愛相談ならアタシって形になった。
そんな中、動画投稿サイトで恋愛テクニックの動画を見た。
いい加減な内容だった。
見た目がいい人が、それを前提としてアレコレ語っている。
論文がどうとか言っているけど、そんな文献調べても存在しなかった。
似た内容のものは見つけたけど研究の仕方も含めてテキトウな話だった。
これを真に受けて実践してしまったら、実るはずの恋も枯れてしまう。
そこで、自分でもしっかりと文献を引用した上で動画を作ってみた。
見た目は自信がないから、声だけで。
動画制作も初めてだったら、流行っていたショート動画の体で投稿した。
これがバズった。
コメント欄は声が可愛い、癒される。、という意見。
そして、内容に関してもマトモでためになるという意見で溢れた。
ココでなら自分の恋愛感情を見つけられるかもしれない。
アタシは恋愛相談を受けるようになってから恋愛自体には人一倍詳しくなった。
けれどそれはどれも専門知識と物語を元にした机上のものでしかない。
それは「相手を異性として認めていないのでないか」、「遺伝子をかけ合わせるには不足のある相手として、下に見てないか」という疑問としてアタシに深くのしかかっていた。
しかし、もし異なる多様な価値観に触れられたら変われるかもしれない。
そこでアタシは声だけで活動できる Vtuber としてデビューした。
感想は※ここまで読んでいただきありがとうございました。
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