蜂の子別れ
蜂の子別れ大作戦 〜男の意地とプライドをかけた命がけの物語〜
リリリリリリン!
その日、運命の電話が鳴った。
「蜂が子別れをしたので、手伝ってください!」
義母からのSOS。この時期の風物詩、蜂の大移住作戦の始まりである!
女王蜂様が新天地を求め、何千匹もの家来を引き連れて巣立つ、まさに空中大パレード!しかし、義母の言う「手伝って」とは、その蜂軍団を一匹残らず捕獲せよという、とんでもないミッションだったのだ。
妻が私の顔を見るなり、 「あんたじゃ無理よ〜」 とニヤリ。
「何を言うとる!まかせんかー!!」
啖呵は切ったものの...正直、何をどうすればいいのか、さっぱりワカラン。
現場到着 〜戦慄の瞬間〜
現場に着いて、空を見上げた瞬間—
「うわああああああああ!!」
10メートルはあろう巨木の、はるか天空に、人の頭サイズの蜂ボールがぶら下がっているではないか!
心臓が、 「ドキッ!ドキッ!」から 「ムリッ!ムリッ!」へ変化し、 最終的に「ムリムリムリムリムリムリ〜!!」と絶叫モードに突入。
妻も見上げて一言。 「ありゃ〜、無理だ」
カチーン!
その言葉にプライドが火を噴いた!
「はしごは?」
プロの眼差し(のつもり)で蜂ボールを見つめながら、クールに質問。
義母が指差したハシゴを見て...
目眩発生!
そこにあるのは、たった3メートルのミニハシゴ。どう見ても、どう計算しても、絶望的に短い。
でも、男の意地。啖呵を切った手前、後には引けない。
「行くしかない...」
決死の登攀作戦 〜空への挑戦〜
ハシゴの最上段まで登り、そこから先は完全なるフリークライミング。
「すげえぞ、俺はすげえぞ!見てますか、お母さん!!」
自分を励ましながら、ガシガシと幹を登る。
空が応援してくれる! 太陽がスポットライトのように照らしてくれる! どこまでも、どこまでも登って行けー!!
しかし...
あっという間にバテた。
上にも進めず、下にも戻れず、完全に進退窮まる状態。(推定高度4メートル地点)
巨大コアラ化した私は、最後の力を振り絞って叫んだ。
「お〜い!お〜い!」
返事なし。
「おーい!助けろぉぉぉぉぉぉ!!」
だんだんヒステリックになり、声は断末魔と化す。
「ひょぉぉぉい!!おひょぉぉぉい!!」
救助隊?いや、見物隊の登場
しばらくして、妻と義母がシートを持って登場。
(おお!レスキュー作戦か!シートの上に飛び降りろということか!でも女性二人で私の巨体を支えられるのか?)
「おーい、早くしてくれー!」 (今にも手が離れそう!天に運を任せるしかない!)
しかし!
二人がとった行動は、私の想像を完全に裏切るものだった。
芝生の上にシートを優雅に広げ、 靴を脱いで上がり、 ポットからコーヒーを優雅にマグカップに注ぎ始めたのである!
信じられない光景!
怒りのパワーが全身にみなぎった!
「助けんかー!!落ちるってー!!何見物かー!!落下見物かー!!」
二人は腹を抱えて大爆笑。
妻と義母:「おー動いた!動き出した!がんばれ〜♪」
拍手喝采しながら、コーヒータイム継続中。
(死んでたまるか...死んでたまるか...)
奇跡の到達 〜7メートルの男〜
気がつくと、私は地上7メートルの木股にいた。
ここで正直に告白しておこう。私は生まれつき大袈裟な男で、5センチの魚を28センチと言ってしまう癖がある。しかし今回は本当に7メートル。マジで7メートルである。
睡魔が襲うほど体は完全燃焼状態。火事場の馬鹿力を使い切った状態で、木股にへたり込む。
下から妻と義母の声が聞こえるが、もはや聞き取り不能。
(何を今さら...見殺しにしたくせに...これじゃあ見物殺しやんか!)
「危ないって!聞こえんの!!」 (危なかったんじゃ...)
「じっとしとき!!」 (言われんでも動けんわ...)
恐怖の接近遭遇 〜蜂との0.1秒前〜
意識もうろうの中、嫌〜な音が聞こえてきた。
「ブーーーーン、ブーーーーン」
何千もの蜂の羽音!
「動いたら刺されるよ!!」
意識が瞬時にクリアに!
(ヤバイ!!きっとかなり...)
恐る恐る上を見ると...
「ふはーーーーーーーーーーー!!」
声が出ない!叫んでいるのに声が出ない!
鼻の先10センチに、垂れ下がった蜂の群れの先端が!
まさにETと少年の指先タッチ状態! 後数センチで、分かり合えるか刺されるか、究極の選択!
「動きんな!動きんな!動きんな!」
義母はオウムのように同じ言葉をリピート。
(動くなって、この状況で〜?!)
「うははははは!死ぬー!死ぬー!」
妻の鬼畜な大爆笑が響く。
(そのまま笑い死ねー!!!!)
妻:「うははははは!いけ〜!(笑)」
恐怖が次第に怒りに変化。
(死んでたまるか...死んでたまるか...)
決死の脱出作戦 〜スローモーション降下〜
私はゆっくりと身をかがめ、土俵でにらみ合う力士のように目を見開いたまま首を縮める。
木股から足を慎重に外し、幹をガッシリ抱えて、少しずつ腕の力を緩めながら、
ズルッ...ズルッ...
音を立てて降下開始。
(死んでたまるか...死んでたまるか...)
永遠に感じる時間をかけて、ゆっくりと、ゆっくりと...
気がつけば足がハシゴにかかっていた。
全てが終わった!
私は勝ったのだ!! 高さ、蜂、そして最大の敵「妻」に打ち勝ち、死の淵から華麗に生還!
まだ笑い続ける妻のもとへ、体を引きずりながら歩み寄り、一言ガツンと言ってやろうと思った時—
妻が私より早く放った一言:
「で、何しに登ったん?」
私は開いた口がしばらく閉じず、その場にガックリと崩れ落ちた。
エピローグ 〜義父の救援
しばらくして義父が仕事を抜けて応援に駆けつけてくれた。
二人がかりでなんとか蜂を捕獲成功!
「助かったよ」
父からの労いの言葉が、唯一の救いとなった。
そして翌日...
妻の実家から電話。
「昨日の蜂、朝見たら全部逃げとった」
〜完〜
男のプライドをかけた壮大な冒険は、こうして幕を閉じた。蜂たちは自由の空へ羽ばたき、私には笑い話という名の傷跡だけが残ったのである。