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苦手な方はご注意ください。

転生魔王、聖女の下着に宿る〜羞恥と戦慄の異世界バトル〜

作者: 華咲 美月

 プロローグ:魔王討伐と転生の悲劇


 ――それは、千年に一度の戦いだった。

 人間と魔族の長きにわたる戦争に終止符を打つべく、勇者たちは魔王の城へと乗り込んだ。

 最奥の玉座に座していたのは、漆黒のローブをまとった魔王ダークゼルス。金色の瞳が、侵入者を冷徹に見下ろしていた。


「よくぞ来たな、勇者ども……。貴様らのような小虫が、我を討てるとでも?」


 低く響く声が、空間そのものを震わせる。

 勇者ラグナルは聖剣を握りしめ、額に滲む汗を拭おうともせずに魔王を睨みつけた。


「貴様の時代は終わった、ダークゼルス! 今日こそ、この世界から消えてもらう!」


「ほう……。ならば試してみるがいい。だが、覚悟しておけ。我を討ったとしても――」


 ダークゼルスは玉座から立ち上がり、堂々とした足取りで前へ進み出る。

 燃え盛る魔力が周囲の空間を歪ませ、床に刻まれた魔法陣が妖しく輝いた。


「この魂がある限り、必ずや復活を遂げる……!」


 その瞬間、戦いの幕が切って落とされた。


 勇者ラグナルと魔王ダークゼルスの剣が激しくぶつかり合い、光と闇の魔法が交錯する。

 大地が割れ、城の天井が崩れ落ちるほどの壮絶な戦いだったが――最終的に勝利を掴んだのは、勇者パーティーだった。


 魔王は膝をつき、口元から黒い血を滴らせながら、それでもなお、不敵な笑みを浮かべていた。


「クク……見事だ、勇者よ……。だが、終わりではない……」


 ダークゼルスは右手を掲げると、自らの心臓を貫いた。

 魔王の肉体は崩れ去り、残ったのは漆黒の魂のみ。


「我が魂は、この世界に呪いを刻む……。いつか必ず、この世に舞い戻る……!」


 その言葉を最後に、魔王の魂は封印された。

 ――魔王ダークゼルス、討伐。

 人々は歓喜し、世界に平和が訪れたかのように思われた。


 だが、その直後――


「……あっ」


 女神が、封印の魔法陣を前にして、ぽつりと声を漏らした。

 その手には、聖なる魔法が込められた古代の呪文書が握られている。

 勇者ラグナルが訝しげに振り返る。


「女神様……今の『あっ』は何ですか?」


「えっと……ちょっと、ほんのちょっとだけ……詠唱を間違えたかもしれないわ……」


「間違えた!?」


 勇者たちの驚愕する声をよそに、魔王の魂は光の中へと消えていった。

 本来ならば、魂は完全に浄化されるはずだった。

 だが――


「…………ん? なんだ、これは?」


 次に魔王が目を覚ましたとき、彼は“何か柔らかい布”になっていた。


「ま、待て!? これは……布!? 私の体はどうなった!?」


 そう、彼は転生してしまったのだ。

 しかも――


「これは……パンツ!?」


 かくして、かつて世界を恐怖に陥れた魔王ダークゼルスは、聖女のパンツとして新たな生を受けることになったのだった――。


 第一章:パンツとしての苦悩


 ――意識が戻った時、ダークゼルスは混乱していた。


「あれほどの戦いの末に、私は敗れた……だが、生きている? いや……これは……?」


 視界はない。身体の感覚もない。ただ、何かに包まれているような、柔らかい感触だけがあった。

 かつて世界を恐怖に陥れた魔王として、何百年もの間、屈することのなかった彼にとって、この状況は理解を超えていた。


「まさか、封印されたのか? それとも転生……?」


 思考を巡らせるうちに、何かの気配を感じた。ふわりとした感触の中に、微かな温もり。

 それが動いたかと思うと、次の瞬間――


「きゃっ!」


 甲高い少女の悲鳴が聞こえた。


 ダークゼルスは驚いた。いや、正確には驚かされた。

 なぜなら、自分が「何か」に引っ張られ、柔らかいものの間に挟まれるような感覚を覚えたからだ。


「な……なんだ、この感覚は……!?」


 暗闇の中、混乱する魔王。その時、彼はある決定的な事実に気づいた。


「……私の体が……布だと……?」


 この世の理を超え、かつての魔王は パンツ として生まれ変わっていた。


 数分後――

 彼は絶望していた。


「バカな……! こんなことが許されるのか!?」


 長年、人間と戦い、恐れられ、世界を震撼させた魔王ダークゼルス。

 彼の新たな肉体は、白く、シルクのように滑らかな生地でできたパンツ だった。


 しかも、状況はさらに絶望的だった。

 彼は 履かれて いた。


 履かれているのだ、聖女セリア・ルーミナスによって。


「よりによって、よりによって……聖女に履かれるとは!!」


 ダークゼルスは頭を抱えたい衝動に駆られた。だが、今の彼に頭はない。抱える腕すらない。

 あるのは、柔らかく、伸縮性に優れた布地の感触だけである。


 絶望的な状況に置かれた彼は、しかし次第に冷静さを取り戻した。


「いや……待て……落ち着け……!」


 いくら嘆いても、この現実は変わらない。ならば、冷静に状況を整理すべきだ。


 まず、自分は転生した。

 女神の封印により、何らかのミスが起こり、パンツとして存在している。

 そして、目の前――いや、正確には、自分を履いている少女は「聖女セリア」と呼ばれていた。


「聖女……か。なるほど、運命とは皮肉なものよ……」


 かつて、魔王として聖女と戦った自分が、今や 聖女のパンツ になってしまった。


 彼は深いため息をつきたかったが、もちろん息などない。


 その後、しばらくして彼はある事実に気づいた。

 テレパシーでセリアと意思疎通ができる ということだ。


「おい、少女よ。私の声が聞こえるか?」


「……え?」


 セリアは小さく声を上げ、辺りを見回した。

 だが、当然ながら誰もいない。


「……だ、誰ですか……?」


 震える声。臆病そうな響き。

 ダークゼルスは自分の言葉が通じていることを確信し、ゆっくりと語りかけた。


「恐れるな。私はお前が今、履いているパンツだ」


 数秒の沈黙の後――


「ふぇええええっ!?!?」


 セリアの悲鳴が、夜の宿舎に響き渡った。


「……パンツが、しゃべってる……」


 その後、落ち着いたセリアは、震える手で自分のスカートを押さえながら、必死に現実を受け入れようとしていた。


「だから言っただろう。私はお前のパンツとして転生した魔王、ダークゼルスだ」


「……ど、どうして……?」


「そんなことは私が聞きたい。だが、今はそれよりも重要なことがある」


 セリアは半泣きになりながら首を傾げた。


「じゅ、重要なこと?」


「私の魔王としての力が、完全に失われたわけではないということだ」


「えっ……?」


 ダークゼルスは、自分の内に眠る魔力を探った。

 確かに今はパンツの姿だが、魔王としての魔力が完全に消滅したわけではない。


 しかし、そこにはある 致命的な条件 が存在した。


「……どうやら、私が元の姿に戻るには、一定の条件が必要なようだ」


「そ、そうなんですか?」


「……詳しくは分からぬが、おそらく、お前が極度の羞恥や恐怖を感じることで……」


 ダークゼルスは、言いながらゾッとした。

 だが、残念ながら、それが 絶対的な条件 であることも、彼には理解できてしまった。


「……失禁することで、私は魔王の姿を取り戻せる」


「…………………………」


 セリアの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。


「そ、そんなの、絶対に嫌ですぅぅぅぅ!!!」


 こうして、魔王ダークゼルスの パンツとしての苦悩 は始まったのだった――。


 第二章:勇者パーティーの冷遇


 ――それは、セリアにとって屈辱的な日々だった。


「聖女とは名ばかりの役立たずだな」


 勇者パーティーの宿営地。

 火が焚かれ、戦士たちは剣を手入れし、魔法使いは呪文の確認をしている。

 そんな中、ラグナル・アークライトは腕を組みながら、軽蔑の眼差しでセリアを見下ろしていた。


「ご、ごめんなさい……」


 セリアは小さく縮こまりながら、怯えた表情で俯いた。

 勇者ラグナルがため息をつき、聖剣を地面に突き立てる。


「俺たちは魔王の残党との戦いに集中しなければならない。なのに、お前は何の役にも立たない……」


「そ、そんなこと……治癒魔法なら……!」


「使えないだろ?」


 ラグナルは冷たく言い放った。


 セリアの治癒魔法は、確かに聖女としての能力だった。

 だが、彼女は極度の緊張や恐怖を感じると、魔力が乱れてしまい、まともに発動できなくなる。


「戦場で恐怖して動けなくなる聖女なんて、ただの荷物だ」


「……っ」


 セリアは唇を噛みしめた。


「そんなこと、ない……私は……私は……」


 絞り出すように言葉を紡ごうとしたその時――


「セリア、そこの荷物持ってきて」


 魔法使いのルイスが、何の躊躇もなくセリアに指示を出した。

 戦場ではなく、ただの雑用の指示である。


「え、えっと……」


 セリアが戸惑っていると、隣にいた戦士ガルドが大きくため息をついた。


「お前さ、せめて戦えないなら荷物くらい運べよ」


「“聖女”なのに、役立たずなのか?」


 彼らの言葉は、セリアの心を深くえぐった。

 彼女は勇者パーティーの一員であるはずなのに、その扱いはまるで下働きの召使いだった。


 夜。


 セリアは膝を抱え、焚き火のそばで静かに震えていた。

 夜空には無数の星が輝き、穏やかな風が草を揺らしている。


「私……ここにいて、いいのかな……」


 涙が零れそうになるのを必死に堪えた。

 彼女は聖女として選ばれたはずなのに、なぜ誰にも認めてもらえないのだろう?


「お前は愚かだな」


 突然、頭の中に低く響く声がした。


「弱者が泣いて何になる? お前はここで膝を抱えているだけで満足なのか?」


「……ダークゼルス?」


 そう、彼女のパンツ――かつて魔王だった存在が、彼女の思考に直接語りかけてきたのだ。


「わ、私は……どうしたら……」


 セリアの呟きに、ダークゼルスは鼻で笑う。


「お前がどうしたいか、だ。お前がこのまま侮辱され、使い捨てのように扱われることを受け入れるなら、それでいい」


「そ、そんなの……嫌です……!」


「ならば、どうする?」


 セリアは答えられなかった。


 その時、ラグナルの声が遠くから響いてきた。


「おい、セリア! 明日の進軍の準備をしておけよ!」


「は、はい!」


 思わず返事をしてしまう。


 ダークゼルスは、呆れたようにため息をついた。


「……やれやれ。お前はまだ何も分かっていないようだな」


「え?」


「いいだろう、ならば見せてやる。この世界がどれほど弱肉強食なのかをな」


「……え? ど、どういうこと……?」


 その時、夜空を切り裂くような号砲が響いた。


「敵襲だ!!」


 兵士の叫びとともに、戦場の幕が切って落とされた――。


 第三章:戦争勃発


「敵襲だ!!」


 鋭い叫び声が、夜の静寂を切り裂いた。


 焚き火の光に照らされた勇者パーティーの陣営に、突如として響き渡る警鐘。

 次の瞬間、闇の中から無数の矢が飛来し、周囲の木々や天幕に突き刺さった。


「くそっ、まさかこんな夜襲を仕掛けてくるとは……!」


 勇者ラグナルが舌打ちしながら聖剣を抜く。

 兵士たちは慌てて武器を手に取り、陣形を整えようとするが、すでに遅かった。


 敵軍――帝国の精鋭部隊が、夜の闇を切り裂くように猛攻を仕掛けてきたのだ。


「陣形を崩すな! 前衛は盾を構えろ!」


 指揮官の怒号が響くが、敵の猛攻を受けた兵士たちは次々と倒れていく。

 前線が崩れるのに時間はかからなかった。


 セリアは、その場に立ちすくんでいた。


 血の匂い。火の粉が舞い、矢が飛び交う戦場。

 剣と剣がぶつかり合う音。悲鳴。叫び声。


 彼女の足は、まるで地面に縫い付けられたかのように動かない。


「……いや……いや……!」


 ガタガタと震える膝。冷たい汗が背中を伝う。


 (どうしよう……動かなきゃ……助けなきゃ……)


 そう思うのに、身体が言うことを聞かない。


「おい、セリア!」


 ラグナルの怒声が飛ぶ。


「なにをボサッとしてる!? すぐに回復魔法を使え!!」


「で、でも……!」


「でも、じゃねぇ!! 役立たずが!!」


 ラグナルがセリアを睨みつける。

 その目には、怒りと苛立ち、そして……恐怖が宿っていた。


 勇者ラグナルは、焦っていた。


 帝国の軍勢は予想以上に強く、すでに自軍の兵士たちは次々と倒れている。

 だが、それ以上に問題だったのは――


 勇者であるはずの自分が、恐怖で身体を震わせていることだった。


 (こんなの……聞いてない……! 俺は……こんな死地で戦うつもりなんて……!!)


 勇者の剣を持っているとはいえ、彼は“伝説の勇者”ではない。

 ある日、女神に選ばれ、強化された力を手にしただけの、普通の青年に過ぎなかった。


 そして、今、その“普通の青年”は恐怖していた。


 だからこそ、彼は苛立ちをセリアにぶつけることで、なんとか自分を保とうとしていたのだ。


「とにかくお前は魔法を使え! それくらいしか能がないんだからな!」


「……っ!」


 セリアは強く唇を噛みしめる。


 (私……何もできない……)


 震える指先。こわばる喉。


「おい、やばいぞ!! 敵が突破した!!」


 誰かの叫びが響く。


 その瞬間――


 闇の中から、一際巨大な影が現れた。


 全身を黒鉄の鎧で覆い、頭には猛々しい角を持つ男。


 ヴァルザーグ・バルムート。


 帝国軍の魔将軍が、ついに姿を現したのだ。


「フン……くだらん」


 ヴァルザーグは眼前の兵士を一瞬で斬り捨てると、地面に突き刺さった魔剣『ダインスレイフ』をゆっくりと引き抜いた。


「勇者の軍勢など、雑兵の集まりにすぎぬな」


 まるで嘲笑うかのような言葉。


「次は……貴様か?」


 ヴァルザーグの視線が、ラグナルに向けられる。


 その瞬間――


 勇者ラグナルの顔が、恐怖に引きつった。


 (や、やばい……!! こいつは……!!)


 まるで“狩られる側”の気分だった。


 (勝てるわけがない……!! こんな化け物に!!)


 ラグナルは――逃げた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 彼は振り返ると、全速力で戦場を駆け抜けた。


「ラ、ラグナル様!?」「どこへ行くんですか!?」


 兵士たちが驚愕の声を上げるが、彼は振り返りもしなかった。


 セリアは、その光景を呆然と見つめていた。


 (ラグナル……様が……?)


 勇者であるはずの彼が、真っ先に逃げた。


 勇者パーティーは、崩壊した。


 ヴァルザーグが冷笑を浮かべる。


「フン……勇者が逃げるとはな」


 彼はゆっくりと歩みを進め――セリアの前で立ち止まった。


「……なんだ、貴様は?」


 銀髪の少女。怯えた表情。手も震えている。


 (動かなきゃ……逃げなきゃ……)


 だが、足は動かない。


「貴様……“聖女”か?」


 ヴァルザーグの目が細められる。


 そして、彼はゆっくりと剣を振り上げ――


 セリアは、悲鳴を上げた。


「――――!!」


 ――その瞬間。


「ようやくか……遅いぞ、セリア」


 頭の中に響く、威厳ある声。


 次の瞬間、彼女の身体が震え――


 彼女の中にいた“何か”が覚醒した。


 魔王ダークゼルス。


 白銀の光が弾け、セリアのスカートの中から、黒き影が飛び出した。


「な、なんだ……!?」


 ヴァルザーグが驚愕する間もなく、その黒き影は人の形を成していく。


 そして――


「我が名はダークゼルス……!!」


「我が聖女に手を出す愚か者よ……その命、ここで終わらせてやろう!!」


 ついに、魔王が復活した――!!


 第四章:魔王、3分間だけ復活し無双!


「我が名はダークゼルス……!!」


「我が聖女に手を出す愚か者よ……その命、ここで終わらせてやろう!!」


 黒き魔力が戦場に奔り、圧倒的な威圧感が周囲を支配する。

 夜空に広がる暗雲が、まるで魔王の復活を祝福するかのように渦を巻いた。


 その場にいたすべての者が、突然現れた漆黒の魔王の姿に息を呑んだ。


「な、なんだ……!?」


 ヴァルザーグ・バルムートの表情が歪む。

 彼は戦場を渡り歩き、数多の猛者と剣を交えてきたが――この魔力は、それらとは次元が違う。


「まさか……魔王!? だが、魔王は討伐されたはず……!!」


「フン……貴様らごときが、我を滅ぼせると思ったか?」


 ダークゼルスは冷笑を浮かべ、ゆっくりと腕を広げる。

 その動きだけで、周囲の空間が歪み、雷鳴が轟いた。


 ヴァルザーグは咄嗟に魔剣『ダインスレイフ』を構えた。

 その刃が、魔族の怨念を宿し、赤黒く妖しく輝く。


「面白い……貴様が本物の魔王だというのなら、どれほどのものか確かめてやる!!」


 ヴァルザーグが地を蹴った。


 次の瞬間、彼の姿がかき消え――


 魔王ダークゼルスの眼前に、漆黒の剣が迫った。


「死ねぇえええ!!」


 ヴァルザーグの剣が、魔王の首を刈り取ろうと振り下ろされる。


 だが――


「遅い」


 ダークゼルスは、一歩も動かなかった。


 彼はただ、静かに手をかざすだけで――


 ゴォォォォォッッ!!


 黒き炎が、剣を押し返した。


「なに……っ!?」


 ヴァルザーグの表情が驚愕に染まる。


 彼の魔剣『ダインスレイフ』は、あらゆる生命力を吸収し、その力を増す呪われた武器。

 だが、その剣が、魔王の炎によって弾かれたのだ。


「……貴様、勘違いをしているようだな」


 ダークゼルスは静かに呟くと、ゆっくりと一歩踏み出した。


 その圧倒的な威圧感に、ヴァルザーグの背筋が凍りつく。


 (こ、こいつは……本当に……!)


 魔族である自分が、まるで獲物のように縮み上がるこの感覚。

 彼は理解した。


 ――目の前にいるのは、本物の“魔王”だ。


「だが……まだ、終わりではない!!」


 ヴァルザーグは吼え、全身の魔力を解放する。


 黒き炎が彼の身体を包み、全身が灼熱の闘気に覆われた。


「貴様が何者であろうと……この魔剣の力は絶対だ!!」


 彼は再び突撃し、魔剣を振り上げる。


 だが――


「消えろ」


 魔王ダークゼルスは、ただ右手を振っただけだった。


 ゴォォォォォォォッッ!!!


 次の瞬間、黒き衝撃波がヴァルザーグを襲った。


「が……はっ……!?」


 ヴァルザーグの身体が宙を舞い、そのまま数十メートル先の岩壁へと激突する。


 大地が震え、岩が砕け散る。


「ご……ごふっ……」


 ヴァルザーグは血を吐きながら、崩れ落ちた。


「馬鹿な……たった、一撃で……!?」


 その場にいた帝国軍の兵士たちは、震え上がった。


 自分たちの指揮官が、魔王に手も触れさせることなく圧倒された。


 彼らの表情に、恐怖が浮かぶ。


「に、逃げろ!!」


 誰かが叫んだ瞬間、兵士たちは次々と武器を捨て、戦場から逃げ出していった。


 ――魔王は、わずか数秒で戦局を覆したのだ。


「……終わったか」


 ダークゼルスは、冷静に戦場を見渡した。

 彼が立つ場所には、もはや敵は誰も残っていなかった。


 しかし――


 その時、彼の身体に異変が起こる。


「……っ、く……!」


 身体が、崩れていくような感覚。


 そう、彼の魔王としての復活は 3分間 のみ。


 時間切れ だった。


「クソ……やはりこの制約は……!」


 彼の姿が、霧散するように消え――


 次の瞬間、セリアのスカートの中へと落ちていった。


 ポスン。


「ひゃんっ!?」


 セリアは慌ててスカートを押さえ、周囲を見回した。


 戦場には、彼女と気を失ったヴァルザーグ、そして逃げ惑う帝国兵たちだけが残されていた。


 彼女は震える声で、スカートの中に囁く。


「だ、ダークゼルス……さん?」


 『………………』


 沈黙。


 パンツに戻った魔王は、言葉もなく、ただ彼女の下着として収まっていた。


 ――こうして、伝説の 「聖女のパンツ」 による戦場制圧が達成されたのだった。


 エピローグ:魔王の使命と聖女の成長


 戦場は静まり返っていた。


 帝国軍の兵士たちは散り散りに逃げ去り、戦の狂気に満ちていた大地には、今や静寂が広がっている。

 唯一、崩れ落ちたヴァルザーグ・バルムートが荒い息をつきながら横たわっていた。


 ――そして、その中心に立つのは、聖女セリア。


 彼女はまだ震えていた。だが、それは恐怖ではなかった。


「……終わった?」


 彼女のスカートの中で、ダークゼルスは沈黙していた。


 魔王としての力を振るい、帝国軍を圧倒したが――時間切れ。

 彼は再び高品質なシルクのパンツへと戻っていた。


 そして今、すべてが終わったように思えた。


 だが――


「……まだだ」


 低い声が響いた。


 ヴァルザーグ・バルムートの身体から、漆黒の炎が吹き上がる。


「……たとえ……この身が滅びようとも……この剣に刻まれた魔族の怨念は……」


 彼はふらつきながら立ち上がる。

 その手には、魔剣『ダインスレイフ』――血を吸い続ける呪われた剣が握られていた。


「……世界に災いをもたらす……!!」


 彼の身体は燃え盛る炎に包まれ、黒い魔力が戦場を覆っていく。

 空が赤黒く染まり、大地が震えた。


 ――このままでは、すべてが滅びる。


 セリアは息を呑んだ。


 (どうしよう……どうしたら……)


 ラグナルはもういない。

 兵士たちは誰も戦える状態ではない。

 そしてダークゼルスも……もう魔王には戻れない。


「……私が……止めるしか……ない……」


 だが、彼女に戦う力はない。


 剣も振るえない。

 魔法だって、恐怖でまともに使えたことがない。


 ――そんな私が、どうやって……?


 その時。


「……お前は、何のためにここにいる?」


 頭の中に、ダークゼルスの声が響いた。


 セリアは驚き、スカートの中を覗き込む。


「ダークゼルス……さん……?」


「フン……情けない顔をしているな」


 ダークゼルスはいつも通りの尊大な口調だった。

 だが、彼の言葉には、いつもとは違う何かがあった。


「お前は“聖女”だろう?」


「……でも、私は……聖女なのに……怖がってばかりで……何もできなくて……」


「違うな」


 ダークゼルスは、断言するように言った。


「お前は“聖女”だから、ここにいるんじゃない」


「え……?」


「お前がここにいるのは、“お前自身”が戦うと決めたからだ。」


 セリアの目が揺れる。


「お前は弱い。恐怖するし、泣き虫で、すぐに震える。

 だが、だからこそお前は強い。

 どれほど怖くても、どれほど苦しくても、それでもここに立ち続けているのだからな」


 セリアの胸に、熱いものが込み上げてきた。


 (私が……強い……?)


 ずっと、弱いと思っていた。

 誰からも役立たずだと言われ、勇者パーティーでも冷遇されてきた。


 でも――


 ダークゼルスは、そんな私のことを 「強い」と言ってくれた。


 セリアは、涙を拭った。


「……ありがとう、ダークゼルスさん」


 彼女は、震える足で一歩前へ進む。


 ヴァルザーグの怒りに満ちた視線が、彼女を捉えた。


「貴様……何をするつもりだ……!?」


「私は……聖女として……」


 彼女は、両手を胸の前で組み、目を閉じる。


「……私は、もう……逃げない!!」


「聖女の祝福――!!」


 彼女の身体から、まばゆい光が放たれた。


 その光は、すべての闇を振り払い、周囲を浄化していく。


 ヴァルザーグの身体を覆っていた黒炎が、徐々に消え去っていく。


「馬鹿な……!!」


 彼は抵抗しようとするが――


「これは、お前たち魔族を滅ぼすための光ではありません」


 セリアは静かに言った。


「これは……ただ、貴方の苦しみを終わらせるための光です」


 彼女の言葉に、ヴァルザーグは驚いたように目を見開く。


「……苦しみ……?」


 黒炎が完全に消える。


 魔剣『ダインスレイフ』が、砕け散る。


「ぐ……あ……」


 ヴァルザーグの身体が崩れ落ちる。


 そして、彼の口から――微かな笑みが漏れた。


「……やれやれ……」


「貴様……本当に……聖女だったのか……?」


 彼は、穏やかな表情を浮かべながら、ゆっくりと目を閉じた。


 こうして、魔将軍ヴァルザーグ・バルムートは、戦場から姿を消した。


 戦いが終わった。


 空には、澄み切った月が輝いていた。


 セリアは、静かに息をつく。


 (……終わった……本当に……)


 自分が、こんなことができるなんて、思わなかった。


 でも――


 彼女はもう、自分が「弱いだけの聖女」ではないと知った。


「……ダークゼルスさん、私……ちゃんと戦えましたか?」


 スカートの中のパンツは、静かに答えた。


「フン……まあまあだな」


 セリアは、小さく笑った。


「ありがとう……ダークゼルスさん」


 彼女の心は、暖かかった。


 こうして、聖女とパンツ――元魔王との旅は、新たな一歩を踏み出したのだった。


(完?)


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