完璧、完全、安全、安心な世界の訪れ
強盗を働いたある男が裁判所で反省の弁を述べている。
その態度も口調も自らの行いを悔いているのがよく伝わってくるものだった。
その発言を聞いている傍聴人たちの間では減刑してやれ、執行猶予だと囁く声が広がっていく。
しかし検察官や裁判官の態度は冷ややかなものであった。
結局裁判官は執行猶予なしの実刑という形で判決を下した。男はがっくりと肩を落としたが、しかしそれが判決ならと受け入れる様子を見せる。
そんな男の様子を含めて弁護側と傍聴人がともに大きな不満を抱えたまま裁判は幕を閉じた。
裁判のあと、検察官と裁判官は和やかな様子で話をしていた。
「いやあ、それにしてもかざすだけでその人物がどれだけの確率で犯罪を犯すのかを数値化してくれるなんて、良い測定機が完成しましたね」
検察官は手に持った小さな機械を撫でながら嬉しそうに言った。
裁判官もその言葉に頷く。
「全くです。これで執行猶予にした犯人が執行猶予中に再犯をする、ということが防げるようになりますからね」
「そういえば聞きましたか? いまはまだこの機械は罪を犯した者にしか使用を許されてませんが、いま上の方で全ての国民に使えるように掛け合っているとか」
検察官のその言葉に裁判官は顔を輝かせた。
「おお、それは朗報ですね。そうなれば罪を犯す前にそれを未然に防げるようになりますね。突発的なものを除いて無辜の民が傷付けられることがなくなるわけですね。有史以来誰もが望んだ世界がもうすぐ訪れるわけですね」
明るい未来が訪れることを確信した二人の笑い声が廊下に響き渡った。