第6話新しい家族
「待たせたね。菜月ちゃん、容保」
そんな父の声に振り向くと、父と並んで品の良さそうな女性がにこやかに立っていた。 冠婚葬祭なんかでよく見るイメージのフォーマルドレスと言うんだっけ?
兎角そう言った感じのドレスが良く似合っている。
顔つきも当然だが、身に纏う空気感がどことなく菜月さんに似ている。状況から分析するに、彼女が新しい母親と言う事になるのだろう……
彼女達がいるためか余所行き口調の親父。
普段着(Tシャツ+パンイチ)で野球観戦(枝豆+ビール)姿を思い出し、思わず吹き出してしまいそうになる。
流石に座ったままの挨拶は失礼なため立ち上がると、腰を上げるタイミングが図らずも示し合わせたようになった。
「こちらが鎌倉雪菜さん。こっちが息子の容保です」
「初めまして、菜月の母で容敬さんの恋人の雪菜と申します。
私のことは無理に “お母さん”って呼ばなくていいから、宜しくお願いしますね。」
その言葉には少しだけ距離を感じたものの、彼女なりの「気遣い」と理解したので特に不快感はなかった。
「雪菜さん。貴方はもう私の妻で、容保の義母なんですから……」
「やだ。容敬さんたら……」
――――と俺達、義姉弟を置き去りにして “新婚”とでも表現すべき空間を形成していた。
(これが、術者の心象風景を形にし、現実に侵食させて形成すると言う【固有結界】という奴なのだろう……)(違う)
などと現実逃避をしていると、義母……雪菜さんも言葉を返す。
「あなただって、菜月の義父なんですよ?」
「これは一本取られたな!」
あれ? 顔合わせのはずだったよね?
遅かれ早かれ同じことか、まぁいいや。
俺の知らない父の一面を見て、何とも言えない気持ちになっていると……
「二人ともまだ容保くんからの自己紹介がまだですよ?」
――――と両親の間に割って入ってくれる義姉さん。
「そうですね……ごめんなさいね。容保くん」
「いえいえ。では、お言葉に甘えて雪菜さんと呼ばせて頂きます。自己紹介が遅れました高須容保です。今日からよろしくお願いします」
そういうとペコリと頭を下げた。
眺望の良いレストランから夜景を見ると、なんだか自分が偉くなったような錯覚を覚える。
昨晩スマホで調べた付け焼刃のテーブルマナーで、コース料理と格闘しながら義母と義姉との会話をする。
「容保くんは、フォーマルなお洋服も似合うと思うけど今日学生服を着ているのは、容敬さんの準備不足かしら?」
父曰く、学生服と言うモノは冠婚葬祭の全てに着ていける服装規定崩壊との事だ。
父さんは、「フォロー宜しく」と言った表情を浮かべ指を立てている。恐らく「小遣いで手を打ってくれ」と言う意味だろう。
「ここ一年特に冠婚葬祭もなかったですし、来月は何かと物入りですから自分から学生の第一礼装である学ランでいいよっていったんですよ。
そしたら、ホテルの内装と相まって大正ロマンの時代から出て来た見たいな、ある意味場違い感で一杯ですよ」
――――と経済面を考えて自分で提案したので、父を責めないでください。むしろ父は留めてくれましたよ? 助言通りにしておけば恥ずかしい思いはしなくて済みましたよ? 気を使って頂いて、ありがとうございます。――――という旨をオブラートに包みまくって父の迷采配を弁護しつつ、笑いを入れる事で “気を使っている” という前提を二重に崩す。
「そう。なら良いのよ……」
「そういえば、菜月ちゃんの進学先はどこだったかな?」
「早苗高校です」
「凄いじゃないか……ウチの容保も早苗に通うんだよ」
「早苗遠いのに良く通うつもりがあるね」
「遠いと言っても数駅程度だし、将来を考えてのことよ」
「この娘、昔から頭だけはいいから……」
”すず”から離れ高校での新生活を夢み、努力した俺。
せめて学校ではこの新しい家族の呪縛からも逃れたかったのだが、どうも世界はそれを許してはくれないらしい。
俺は内心溜息を付きながら、この食事会が早く終わる事だけを祈るのであった。
☆気を使って食べるご飯って、味分からなくなりますよね☆