表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

苦いカクテル

作者: Y

ー俺には好きな女がいる。そんな彼女は今、俺の横で眠っている。これ以上に幸せなことはないだろう...寝顔までもが愛おしく、とても綺麗だ。ー


半月程前のこと、彼女は突然俺の前に現れた。俺はいつも休日前になると、行きつけのバーへ酒を飲みにいく。その日も明日が休みということもあり、22時頃にはいつものカウンター席に座っていた。バーはビルの6階ということもあり、なかなか新規客は入ってこない。いつものようにたわいも無い話をマスターとしていた。カランコロン...という音を聞いたのは、その日の最初だった。見慣れない女性が颯爽と入ってきて、俺の2つ隣の席に座った。何食わぬ様子で「バイオレットフィズを…」と。見慣れない雰囲気だったので(新規か…?)と、つい気になり、煙草の灰を捨てる際にふっと彼女に目を向けた。一目惚れには白馬の王子様がやってくると女はよく言うが、当時は馬鹿にしていた。が、まさにこのことだとは。強い電撃が走った。

女王様だ…

その日は会話をすることもなくただ見惚れ、気を取られながらマスターとたわいもない話をして終わった。後日、マスターに話を聞くと、どうも前から居た常連客らしい。彼女は基本、土日に1人で来る。最近になって平日も嗜む程度で覗きにきてくれるのだそうだ。俺は仕事柄、不定休ってこともあり、基本平日に通っていた。どおりで初合わせな訳か。それにしても容姿端麗で、甘くいい匂いを纏っていたな。スタイルも抜群だった。抱きたいと思ってしまったのは我儘だろうか。いや、男の本能だ。


そして二日が経った日、仕事が終わり、その日は23時頃にバーへ出向いた。いつもの席の2つ隣に女性が座っていた。(まさか、あの時の…)

この前とは系統が違う服装で彼女は1人で淡々とバイオレットフィズを飲んでいた。2つ隣の席へ腰を掛けるや否や、しばらく久しいドキドキを味わっていた。横に座っているだけで意識をしてしまい、興奮気味だった。終始彼女に気がいきながらもまたマスターとたわいもない話を交わす。彼女とは無言の会話が続く中、遂に俺は口を開いた。

「お姉さん、この前もいましたよね?」

「はい、はじめまして。」

初めての会話だ。女性を目の前にこんなに高揚したのは中学生振りだろう。その後も何気ない会話が続いてゆく。

「よく来られるんですか?」

「はい、最近になって平日も顔を覗きに。」

かなり好感触だ。コンビニ店員に手を覆いかぶせられながらお釣りを貰い、「こいつ、俺のこと好きだな?」と思ってしまう男の性あるあるではなく、客観的に見ても、だ。こんな綺麗でタイプな女性と同じ時を過ごすなんてまるでドラマの世界だ。しかも好感触。その後もマスター、俺と彼女で話が弾み、その日でかなり仲良くなれた。


そして日に日に彼女との距離は近くなっていった。連絡先も交換し、2人で食事もした。

ある日、2人で食事にレストランへ行った。そして至福のひとときを過ごした。綺麗な女性と食べるイタリアンはいつにも増して美味しい。星6を付けたいぐらいだ。2人で赤ワインを飲み干し、程よく酒も回っていた。レストランを後にする頃には終電もなかったので、仕方なく。と言っていいのかは疑問だが、俺は自宅へ誘った。怪訝な顔もされず一つ返事で「まだ飲みたいし、いいよ」と来たので、俺はこれから起こりうる、妄想の世界へ入る。所謂「そういった行為」は最近手付かずだったので、久しぶりの行為に胸が踊る。まぁ自宅に誘っただけなのだが、OKサインだろう。

自宅についてからは酒を交わしながらゆったりとした時間を過ごした。

「なんか、ちょっと苦いね。」

「いつも甘いカクテルを飲んでいるだろ?いろんな酒を知っといて損はないからな。来たついでにいろんな味を楽しもう。」

そしてお互いにかなり酔いが回ってきた。妄想の世界が現実になるのは時間の問題だ。彼女が御手洗から帰ってきた頃、そろそろかと思い、俺はそっと彼女の肩に手を回し、顔を向け、キスをしようとした。が、彼女は何故か拒んだ。まだ早かったのか。

「ごめん。そういうのじゃない。友達としては好きなんだけど、ごめん。」と回らない呂律で拒んだ。話によると、3年間付き合っている彼氏がいるらしい。人として、「友達」として好きだから同じ時間を過ごしていたようだ。男女の友情が成立するのか。という議題に男と女が交わるのは不毛なようだ。

「そっか、ごめん。」


―彼女は今、俺の横で青白い顔をして眠っている。

首には跡があるが、気にはしない。

あぁ、なんて綺麗なんだ。これ以上に幸せなことはない。寝顔すらも愛おしい―


コロッ…

手からなにかを落とした。粒のようだ。

さぁ、久しぶりに…

と、俺はクスリと笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ